王の招待状
カシャン グリグリグリ カシャン......
庭の片隅で翼人が薪を割っている。
タケシが作った薪割り機。薪を固定し、レバーを踏むとバネじかけで刃が動く。簡単な仕組みだ。
「まさか薪割りできんとはな」
「魔王国はみんな魔術使えますから」アークが笑う。
「そうよなー。便利よな」
翼人便がミナセに常駐するようになった。移住を前提に3人が来て、王都やディオラム、ポルトスとの連絡便として飛んでいる。おいおい、そちらにも常駐することになっていた。
で、暇な時は何かしら手伝ってくれている。
「タケシさんは魔道コンロ使わないんですね」
「あー。俺、魔法はあんまり好きやないんよ。今は流石に工房でも、必要なとこは使うようになってるけど」
サラディアに連れて行った魔道士ピアーナが、今は研究室に入り、スライム乾燥のための風魔法装置などを開発した。業務を効率化しないと生産が追いつかなくなってきたのだ。
「でもまぁ、うちもこれくらいが限界やわ。そやから、ゴムやスポンジは、ようけ輸出は無理なんよ」
「カメキチ君も大変ですもんね」
「うん。機嫌とらんと水飛ばしよる」とタケシ。
そこにーー
「魔王国便でーす」
「ジテンシャノレタ アソビニコイ マオウ」
「なんやねん」
「ハハハ。父は手紙が苦手でね」
「まるで昭和の電報やんけ」
「??」
「まあいっぺん行かなあかんけど......」
「タケシさん。父にとってタケシさんって、多分初めての友達なんだと思いますよ」
「初めて?」
「はい。力が強大過ぎて......父はいつも孤独でした。配下はたくさんいますが。自分のことをゼルって呼ぶんだと、嬉しそうに言ってました」
「強い王も孤独か......そうかもなぁ。カイルかてリゥトス位やもんな」
「タケシさん位です。相手が誰でも態度変えない人って」
「いや、そんなことないやろ、俺結構気ぃつこて......には見えんか。ハハハ。無理。俺元平民やから」
「えっ!!」
「ん?言うてなかったっけ?」
「やっぱ超大物。報告しとこ」
王都アルネシアから、魔王国ツアーの申し込みが入り出し、結局タケシはそれに随行することになった。添乗員として商会から2名と、通信員に翼人が同行する。
貴族は使用人も連れて動くため、先着5組程に日程を知らせて確認する。
「まぁ俺は、ほぼ仕事やけど」
「現地では別行動できますから。ね」
「そやな。ゼルにも会わなあかん。そや、でっかいけん玉作ったろ」
「結局コンドウ観光社ですね」
「うん......俺、別にやりたないんやけど」
「他に誰ができるって言うのさ」ルークが鋭い指摘。
「また商会建て増しや」
「儲かるよ」
「そんな守銭奴みたいに.......うちがよう動くのは、スタッフの給料高いから。俺自体はそんなに儲けてないわ」
「だよねー。お城位建てられるのに」
「別にいらんし」
「バルサさんの家の方が、よっぽど大きいね」
「あそこは子供も多いし」
タケシが空を見上げる。
「この家、バルサとクルトーと3人で、神様に手伝ってもろて建てたんや。バルサらも、今カツミの使てる小屋に住んで、そこから始まった。俺、この家気に入ってるねん」
スゥーっと縁側に風が走った。
「ほな行ってくる」
「うん。こっちの事は任せとき」
サラディアから戻ったカツミが手を振った。
王都アルネシア。タケシの馬車が着くと、貴族達が集まってくる。
「コンドウ伯爵とご一緒できるとは」
「私、こういう者で」名刺を差し出す者。
「あー。はいはい。よろしくです。えっとー、行程をご説明しますねー」即、添乗員にふるタケシ。
「悪い、俺貴族苦手」と添乗員に囁いた。
10数台の馬車が連なり街道を飛ばしている。
先頭の護衛馬車に見張りが立ち、交通を監視している。
黒馬車の中でタケシがため息。
「お貴族様は大変や」自分も貴族のくせに自覚がない。
途中の道の駅では、やはりまた貴族が群がる。
お近づきになりたくて仕方ないのだ。
貴族用の豪華な食事もそこそこに、適当にごまかして、早足で馬車に戻る。
「ゆっくりメシも食われへん」ゴロリと横になった。
道中の馬車の中で、けん玉にヤスリをかけているタケシ。横の箱には、ヤスリ待ちのけん玉が詰まっていた。
ポルトスの港ではマルセルが待ち構えていた。
「お、マルセルおひさやなー。色々すまんな」
「いえ、こちらこそ、助かってます」
港街ポルトスは今、更に広がりを見せ、あらゆる港湾施設が大きくなっていた。
「お気をつけて、いってらっしゃい」
タケシは、黒馬車ごと船に乗り入れ、馬だけ降ろして固定した。
他の貴族達は、皆使用人に荷物を持たせ、添乗員に案内されて部屋に入っていく。
そして出航ーー
タケシは船首に立って、風に吹かれた。
船旅2日目。タケシは船長の横で海を見ている。
「あれ.......何してるん?」
「この辺りは魔王国側が魔物の駆除をしております。ほれ、翼人が見えますでしょう。多分討伐です」
「うっそ。それってレアやん。ここ、危なないよな」
「大丈夫ですよ」
「ウッヒョー♪」とタケシはデッキに出る。
最初嬉しそうにデッキに出ていた貴族達も、案外すぐ飽きて、部屋にこもっている。
「皆さまー。魔物討伐が見られますよー」タケシが大声で叫ぶと、わらわらと部屋から出てきた。
「あれですよー」
指差す方に数隻の小船、上に翼人が舞い、その下には大きな海獣が見える。船長が、少し航路を寄せて行く。
「おぉー」
貴族達が手すりに身を乗り出す。
「はいはい、落ちんように気をつけや」
翼人が魔術をかけたようだ。海獣の動きが鈍ると、小船から槍が投げられ、更に大きな獣人が銛を持ち、勢いよく飛び出してとどめを刺した。
初めて見る海の狩りに、貴族達も大興奮だ。
「あれ、食えるかも」
「え?コンドウ殿、そうなんですか?」
「うん、多分」
「それは楽しみだ」
「いやーコンドウ殿のおかげです」
「??」タケシはそそくさと船長室に戻った。
魔王国の港が見えてきた。
歓迎の旗が振られている。
着岸すると、準備されてた馬車がズラリと並ぶ。
ここから馬車で1時間。タケシの黒馬車にも借馬と御者が付いて、列の後ろをゆっくりと進んだ。幌を上げてのんびり揺られる。
「ここ景色ええなぁ。やっぱアルネアとはちょっと雰囲気ちゃうか?」
港の周囲の建物も、何故か異国情緒がある気がする。実際そう変わらないのにそう見える。
「んー。不思議やー」
宿に着くと、アークの兄カイロスが出迎えた。
「コンドウ殿、アークがお世話になっております。私、兄のカイロスです」
「うわっデカっ」
「ハッハ。父ほどではございません」
流石長男、大男だった。
宿の部屋に案内されて、荷物を置くと、タケシは即浴場へ。
誰も来ないうちに入る魂胆だ。
温泉は露天で、中央を高い塀で仕切ってある。
足元は、すのこ状のもので、深さを調節してあった。
「へー。池やもんなー。うまいことやっとる」とタケシはデローンと伸びた。
肌に細かい泡が着く炭酸泉。心地よさに目を閉じてウトウトする。
しばらくすると「お飲み物は如何ですか?」と声がかかる。
「うわっ。気が利くなー」
冷たいグラスが差し出された。
クイッと飲み干し目を上げると、美しい緑の髪に小さな角、金色の目をした美女が、ニッコリ微笑みながら立っていた。
「うわっ」ブクブクブクブク
「え?コンドウさまー」




