海を渡る旗
「この商品は、スポンジという素材を使っておりまして......」
ゼルヴァーンが商会の職員から商品説明を受けている。
カイルがいとも簡単に、「見せてあげれば?」などと言って、工房見学することになった。
「みんなびっくりして仕事どころやなくなるやん」
と不安がるタケシだったが、魔王がフワリと降り立った時には、一瞬大騒ぎになったものの、職員たちはすぐ受け入れてしまった。
「ね、君んとこってさ、びっくり慣れしてるから」と笑うカイル。
「まあ確かに、もう誰もお前が来とってもびくともせんしな」
「でしょ」
「タケシ、実に素晴らしい。うむ。次は工房だ」ゼルヴァーンはドシドシと歩き出した。
馬車工房の鍛冶場を覗いたゼルヴァーンが、タケシを手招きする。
「タケシ、人材交流せんか?」
「ん?」
「いやな、うちも技術を見習いたいものがたくさんある。特に食品関係な。でなー。お前鍛冶師をよこさんか。ミスリル加工、教えるぞ」
「あー。そっか。扱ってないもんな、ミスリル」
「だろ。鉱石があっても上手く使いこなせんぞ」
「確かにそうやなぁ.......」
少し考えて、タケシはポンと手をたたく。
「そや。おーい。バルザー」
呼ばれてビクッとするバルザ。
「....はい」
「お前、魔王国に行ってこい」
「えぇー!ワシですか.....」
ビビるバルザ。
「ミスリルの加工、教えて貰えるぞ」
「えぇー!!ミスリルー!!」
バルザがパッと目を輝かす。
「タケシさん、ほんまにミスリル加工出来るんですか」
「うん。魔王様がそういうんやから間違いない」
「腕のあるものなら、半年もあれば覚えるだろうよ」とゼルヴァーンがバルザの顔を見る。
「ワシ......行かせてもらいます。こんな機会めったとあらへん.....」
「だよな。バルザならそう来ると思た」
結局、貿易開始と共に人材交流することになり、タケシ側から3名の鍛冶師が、魔王国から数名の調理士と職人が来ることになった。
「世話になったな。また来る」
そう言い残し飛び立ったゼルヴァーンの手には、カツミが用意したお土産の大きな籠が抱えられていた。
「あー。ホッとしたよ」
カイルも王都に戻り、ルークは座敷に座り込んで、カツミの作ったタピスラドリンクを飲んでいる。
「流石魔王だけあって、オーラが物凄くて」
「オーラ?」
「タケシ達にはわかんないだろうけどさ、もう僕チビリそうだったもん」
「へ?」
「魔法とはちがってさ、彼らは魔核を持っててね、僕初めて見てびっくりしたよ、とても勝てる相手じゃない」
「ほななんで戦争辞めたん?」
「たぶん彼が、特別強力なんだと思うけど......」
魔核を燃料にして繰り出す魔術は、当然魔核を消耗する。最期は魔核が砕け、命を落とす。戦時、そのために大量の犠牲者が出た事を、ゼルヴァーンは重く見た。先代魔王が逝去し、代が変わると、自身の力を持って反対勢力を抑えつけて、停戦と不可侵条約締結にこぎ着けた。
「って。本で調べたんだ、父と。怖いもんやっぱ魔王は」
「そうやったんや。めっちゃええおっちゃんやで。セリーヌ角持って遊んどった」
「はぁ?」
「セリーヌ最強や」
魔王城。
家臣の集まる中心に、お土産籠。
「陛下、これみんなで頂いていいのでしょうか」
「ああ、ワシは向こうで色々食ってきたでな」
盛大なジャンケン大会が始まった。
ゼルヴァーンは、船や温泉整備を始めた。港に最も近い湯の沸く池を使うと決め、タケシの指示どおり道路整備から始める。
鉱物資源の再調査を指示し、輸入食材の分配方法、海産物資源の掘り起こしと畑の拡張。
その間、アルネア側にはルーク宅にオルフェンとヴェルガードが交渉役として何度も通い、貿易品の選定と価格協定を取り決めた。
それを受け、タケシがアルベルクに野菜や保存食、マルセルには魚介加工品。そしてクレスの缶詰やノマドなどを手配する。
あっという間に1ヶ月が過ぎて、初の魔王国の魔導船が、船首に両国の旗を掲げて入港した。両脇にはアルネア海軍の船が並走している。
「パチンコは閉まっとけや」
出迎えに並んでいるのは、タケシとリゥトス。後ろにアルベルクとマルセルだ。
「あいにく折りたたみではないのでな」と笑うリゥトス。
「コンドウ殿、驚きましたぞ。突然国王陛下からご指示があって」
「あー。悪いな。でもお前かてで商売になるやろ」
「確かに」
「ほんで、人材交流の方も頼むな」
「はい。準備できております」
マルセルが答えた。
横には大量の木箱と保冷箱が積まれている。
「これやっぱりフェリー型にしたら積み込み荷降ろし楽かもな」
「フェリー?」
「馬車ごと入れられたら」
「それは便利ですな」
「まあ向こうがまだ対応できんけど、おいおい提案してみるわ」
そして着岸。
10名程の魔人族が降りてくると、見ていた住民達の「おぉー」と言う声が広がった。
先頭の若い魔人がタケシたちの前へ進み出た。
「アーク=ドラグニルです。よろしくお願いします」
「タケシ=コンドウです。よろしく」
タケシが手を出すと、アークは両手で握りしめた。
「父から聞いておりました。帽子を被っているからすぐ分かると」
「へへっ」
「早速荷積みさせて頂いてよろしいですか?」
「うん、ここのやつな」
アークがさっと手を挙げると、船からどっと作業員が飛び出して、台車に乗せて運び始めた。
「コチラが今回の分です」
タケシの足元に出された台車には木箱が積まれている。
「リゥトス、確認して」
開けて中を確認するリゥトス。
「確かにミスリルだ」
「ほなこれでオッケーやな。カイルんとこな」
リゥトスが頷き、台車を運んでいく。
「で、うちの人材交流メンバー」バルザと2人の鍛冶師が前に出る。
「承知しました。コチラへ」
船内へ案内され、デッキで手を振るバルザ達。
「魔王国からは、私を含め10名です」
「うん。2名が海産物加工で、マルセル」マルセルが一歩前へ。
「2名が商業流通、アルベルク」アルベルクが一歩前へ。
「残りはミナセやから」
「ありがとうございます」
積み込みが終わり、船が出ると、それぞれに分かれた。
「ほなアルベルク、マルセル。よう面倒見てやってな」
「承知した」
「ほな俺らも行こか」
「で、君ってゼルヴァーンの息子よな?」
「はい、第2王子です」
ーーまた居候案件やん
「父によく見てくるようにと言われました」
「そっか。馬車、別に2台用意したけど、ゼル程デカないな」
「父は特別大きいのです」
「ハハ。ほなアーク君、俺の馬車に乗り。ほんで後は2台に分乗な」
「タケシさん、凄いですね。これほど楽に旅ができるとは」
「いやいや、羽根あるくせに何言うとる」
「翼を持つのは翼人以外は上位種だけなんです。だから今回連れてきてるのはみんな羽根なしですよ」
「そうなんや」
「道の駅のごちそう、美味しかったです。みんな嬉しそうで」
「あんたらの国もこうなる」
「はい。頑張ります」
ミナセに戻ると、ルークの迎賓館を使った歓迎会が行われた。
工房長や主なスタッフも集まって......結局いつもの食事会だ。
「これ俺の嫁はん」
「カツミです、よろしゅう」
「クレスやってるんや。基本研修はクレスになる。スケジュール組んで、色々回って貰うけどな」
「はい。ありがとうございます」
「ねえアークさん、向こうスライムって食べる?」
「いいえ。てか食べるんですか?スライム」
「あー。後で食べさせたげるけど、井戸水使って養殖してるんよ。これさ、温泉水使えたら売り物になると思うんやわ」
「??」
「それおもろいな、カツミ」と賛同するタケシ。
「やろ。試す価値はある。アークさん、ゆっくり教えるから安心して。開発って時間かかるねん。食べ物やしな」
「はい。お願いします」
「あ、こいつアキラ。ポンプとか色々技術持ってるから」
「ちーっす」
「あ、よろしくお願いします」
「後で......オセロ教えます」
「オセロから始めるんかい」
「万里の道も一歩からっすよ」




