縁側外交
王都アルネシア。国王カイルの私室。
「ミスリル鉱石と交換輸出?」
「はい」
「ルーク、私が行こう。魔王直々とあらば、私が行かねば」
「で、タケシが、輸出が継続できるのかと言いましてね」
「んー。確かになぁ。国内需要とのバランスもあるし.....」
「でね、父上。..........」
翌朝。タケシとカツミが朝食の支度をしていると、ゼルヴァーンが座敷に現れた。
体を折るようにして入ってくる。
「あ、おはようございます。ちょっとお待ちくださいね」
カツミが声をかけると、テーブルのところでどっかと座った。
以前のコンドウ家なら、朝はバタバタと従業員が走り回る朝だったが、今は屋台用のカレーも全てクレスの工房に移した。
時折誰かが乱入するが、タケシとカツミ2人で静かなものである。
マシロがソロソロとゼルヴァーンに近づく。カースケも様子を伺っている。
おいでおいでをするゼルヴァーンに、マシロがまずすり寄って、膝に登った。カースケも近寄っていくと、ゼルヴァーンがトントンと膝を叩く。ぴょんと膝に乗ると、大きなゼルヴァーンの手がカースケの頭を撫でた。
「えらい慣れたもんや」
ご飯と味噌汁を置きながら、タケシが笑う。
カツミがおかずを持ってきた。
「タケシ、これはなんだ?」
「これな、納豆。こないすんねん」タケシがグリグリかき混ぜてご飯に乗せると、ゼルヴァーンが真似をする。
「ほないただきます」
マシロとカースケがぴょんと飛び降りて自分の皿に突進した。
「変わった匂いだが、なかなか旨い」
「やろ?干物も食べ。あ、身取れるか?」
「いや......」
「カツミ、ほぐしたって」
昨夜は3人でちゃんこ鍋を囲んだ。元々人懐こいカツミが加わって、すっかり意気投合してしまった。
「カツミの飯は本当に旨い。昨日の鍋も絶品だったぞ。あ、この汁に入っているのは......」
「そうそう、お豆腐。昨日食べたでしょ」
「あぁ、この口でトロける感じがなんとも良いな」
「納豆も豆腐も、元はおんなじ豆やねんで」
「我が国でも作りたいなぁ」
「うん。できると思うよ」
「なあゼル、後で家の周り見てみるか?色々あるで」
「ああ、是非見てみたい」
家の周りの建屋を覗いて、道具や製品の説明を受け、ゼルヴァーンはタケシとカツミの技術力に脱帽した。
「なぁゼル、俺らが頑張れるんは、みんなあのおかげや」
タケシが指を指す先は......広大な畑。
「この村が、俺らを支えてくれてるから、頑張れる。ほんで俺等も村を支える」
「そうか........」
「あ、チャリ、乗ってみる?」
「ハハハー。やっぱゼルにはこのチャリじゃこまいな」
「タケシ、大きいのを作ってくれよ」
自転車を漕ごうとしてズッコケたゼルヴァーンが、座り込んだまま笑っていると、ルーク達が帰って来た。
「タケシお待たせー。あれ?」
後ろから続いて降りてきたカイルも、土だらけで笑っている魔王に、目が点になった。
「アルネシア国王カイル=アウレリウスです。この度は......」
と、言いつつ、タケシのなんとも居心地の悪そうな顔を見て、カイルはプッと吹き出した。
「いや。申し訳ない。魔王自らお出ましになるとは思いもしませんで、失礼致しました」
立ち上がるゼルヴァーンは大きな手を差し出した。
「魔王国国王ゼルヴァーン=ドラグニルだ」その目は笑っている。
カイルはその手を握り、顔を見上げる。
「国交回復とのこと。早速詰めましょう」
「うむ」
「タケシ、座敷借りるね」
「はいはい....,.」
「では当面は、ミスリル鉱石との交換貿易と言うことで、コチラからは食料、車両等。で、よろしいですか」
「うむ。助かる。で、我が国は今後観光にも力を入れたいと思っておる」
「観光?」
「タケシとも話しておったのだが」
ゼルヴァーンがタケシをチラと見る。
カイルがニヤリと笑う。
「タケシ、説明して」
「あー。温泉があるんやて。そんでな......」
タケシが、温泉を使った観光客誘致による町おこし案を、カイルに説明する。
「なるほど......」
「鉱石使った土産もんとか、海産物の料理とかな」
「行くかな?」
「そらお前次第やろ、カイル」
「え?僕次第?」
「例えば......そうやな、条約の更新、魔王国でやるんよ。ほんでついでに温泉入って、めっちゃ良かったでーって、こっちの貴族に自慢したら......な」
「ハハハ。タケシらしいな、そういうの。悪くない手だ」
「やろ?」
タケシとカイルの会話に、目を丸くして聞き入るゼルヴァーン。
ーータケシは、この国王とどういう関係なんだ?
いや、さもありなん......だな。タケシはただの貴族ではなかろう。
「ではゼルヴァーン殿。こういうのはどうだろう」
またカイルがゼルヴァーンを見上げ、その目を見て話し出す。
「我が国は、即時国交を回復する。だだし当面は.......」
ミナセのコンドウ邸を基盤にし、商品のやり取りはポルトスを使用する。各々の商品の洗い出しと値交渉はルークが担当し、1ヶ月後、貿易を開始することを目指す。
「船は準備していただけますか」
ゼルヴァーンが大きく頷いた。
「もちろんだ。魔導船を整備し直して、必ず間に合わせよう」
「魔導船やったら何日で渡れるん」タケシの呑気な声。
「3日かな」
「早!ほな結構送れるもん増えるな」
ルークが頷いた。
「ゼルヴァーン殿、条約更新までは、コチラは静かに動きたい」
カイルが続ける。
「一気に魔人が現れると、やはり国民の動揺も少なからずあるだろう。条約更新は、私がそちらを訪問する。それまでに、その温泉とやらを整備しておいて欲しい。受け入れられる場所であることを、証明して頂きたい」
ゼルヴァーンが頷く。
「承知した」
「でさー。タケシ」
「ん?」
「温泉で町おこしだよね」
「うん」
「手伝ってあげてね」
「えー。なんで俺」
「だってイメージ出来てるのタケシだけじゃない」
「うぅ。またか.......」
「カイル、条約更新時に一気に国交回復を表に出すんやな」
「うん。その方が効果的でしょ」
「なら、お前も魔導船の建造やっとけよ。まず貴族用のちょい豪華なやつがええな」
タケシがニヤッとあくどい顔を覗かせる。
「あと街道整備の強化。この国通過する他国が入るで」
「そうだね」
「あと......せいぜいそれまでにミスリル稼いどき。他国入ったら取り合いになる。観光で金回るようになったら、支払いかて金になるしな。今のうちやで」
「ほんとだ。アルベルクも巻き込もうか」
「うん。ポルトスに流させたらええだけや。こそっと動かせるやろ」
「じゃあそこは僕がやっておこう」
「ゼル、安心し。きっちり商品集めたる」




