縁側の魔王
コンドウ家の座敷。
大きな体に2本角の魔王ゼルヴァーンがドカンと座っている。
対するルークとタケシ。
「でもルーク、貿易だけで向こうの国民養えるんか?てか.....足りる?」
「!?」
愕然とするゼルヴァーン。
ーーこの男.....やはり只者ではない。
「大体さぁ、海超えて運ぶんやったら、日数かかるし生ものあかんし。その上船沈むリスクもあるねんで。それ、続けられるか?アルネアそこまで余裕あるんか?」
ルークが口をつぐみ、考え始める。
「あの.......魔王様」
タケシがゼルヴァーンを見上げる。
「食料いうても色々やし、量とかも、もうちょい具体的やないとアカン.....のと.....ちゃうかな.....」
ゼルヴァーンに見つめられて、タケシはヒィっとビビる。
「コンドウ伯爵。そなたの申すこと、もっともだと思う。そうよな、輸入だけでは.......」
ルークが目を上げた。
「わたくしに考えがございます。即刻国王に連絡を取り確認いたしますので、お待ちいただけるでしょうか」
「うむ」
「明日の昼には返事が来るでしょう。それまでここでお待ち下さい」
「おい、ルーク」慌てるタケシ。
「タケシ、頼んだ。僕、馬飛ばすからよろしく」
そう言うと、ルークはゼルヴァーンに頭を下げ部屋を出た。
「.......」
「.......」
「あの、魔王様、お腹すきません?」
「そうよのぉ」
「何か作ってきます」
と、タケシが立って、台所へ行くと、カツミ達10数人が聞き耳を立てていた。
「あ、カツミ。カレーあるか。魔王様にお出ししよ」
「魔王ーー!!」みんなの声が屋敷にこだました。
「魔王やて?」
「なんでここに?」
「ようわからん」
「カレーな、カレー......」ガチャン
「コンドウ殿ー」
「呼ばれたで、はよ行き」
「ひえー」
「何でしょう」
「あれは何だ?」
座敷の隅に転がる竹とんぼ。
「あ、これはおもちゃです。飛ばしてみましょか」
縁側に繋がる障子を開けると、そこにも10数人の従業員が。
「こらー。お前ら仕事せんかい!」
タケシの一喝で、みんな走って工房へ戻る。裏口からもゾロゾロゾロ.......
「すんません」
「ほう、そろいの服か。みなあの工場の者なのか」
「はい。うちの従業員で。お恥ずかしいとこお見せしました」
笑っているゼルヴァーンにタケシはホッとする。
竹とんぼを両手に挟んでこすり合わせ、クルクル回して勢いよく手を離すと、小さな木のとんぼが空に舞い上がった。
「ほほー。飛行兵器か」
「ちゃうちゃう。おもちゃ....ですよ」
「これは?」
足元にある......パチンコ。
「あー。それはー」
焦るタケシ。
ゼルヴァーンが手に取りゴムを引っ張っている。
「あの.....これもおもちゃですよ」
と言いながらポケットの胡椒玉を出して見せる。
「胡椒が入ってるんです。ほんで、これをそのゴムのとこに引っ掛けて、飛ばして遊ぶんです」
「やって見せてくれ」
「えー」と言いつつパチンコを持たされたタケシは、仕方なく人けのない納屋をめがけてゴムを引いた。
パシューン。
「ほっほー。これか」
「はい........」
「あの、カレーが.....」カツミがテーブルにカレーを2つ置いて、ささっと戻って行った。
「あ、食べましょ。熱いうちに」
「これが、報告にあったカレー........」
「あ、どうぞ。スプーンで」
「ふむ........」
ゼルヴァーンが一口食べる。
「これは.....なんともかぐわしい。辛さの中に甘みが......」
パクパク食べ始めたゼルヴァーンを見て、タケシはホッとして自分も食べだした。
「コンドウ殿、旨いですな。このような味は初めてだが、ついつい進んでしまうわ」
「あ、よろしかったら、おかわりありますよ」
「ああ、頼もう」
「コンドウ殿、先ほどの話だがな」
2人で縁側に座って、お茶を飲んでいる。
畑の方から心地よい風が吹いていた。
「はい」
「お主ならば、どうする?もし自国が食糧難であったとしたら」
「そうですねぇ...,..」
タケシはサラディアを思い出す。
「最初は、確かに他所から食料を入れるでしょう。ですが同時にその先の自給を考えねばなりません。畑を作るだけではダメなんです。農業と共に、それを下支えする産業が育ってこそ。循環させて発展させることが重要です」
「産業か........」
「はい。魔導国は鉱石とおっしゃいましたが、他には?」
「そうだなぁ。国土には火山も多くてな、まぁ魔人にとっては魔素が多くて暮らしやすいが、農地に適した土地は少ないのだ。豊富な鉱石があるとはいえ、こうも平和だと武具もそうそう必要ないしな」
「農業は......俺もようわからんけど。あっ、海は?海で魚とったりとか」
「あぁ、沿岸部は食べておるよ。最も皆、肉のほうが好きでな」
「いやー。好き嫌い言ってる場合じゃないやん」
ゼルヴァーンがフッと笑う。
「確かに」
「海の魔獣も美味かったで」
「そうか」
「うん。要は料理の仕方やろな」
タケシはちょっと引っかかった。
ーー火山?って、もしや.......
「魔王様、ひょっとして温泉ある?」
「オンセン?」
「地面から熱いお湯出てたりせん?」
「おお。あるぞ。たまって池のようになっておる」
「マジでー♪」
タケシのニヤニヤが始まった。
「??」
「それ使お。あんな魔王様、なんぼミスリルが高価でも、ずーっとそれで貿易してたら、いつかはそのミスリルかて枯渇する。そやから、他のことで外貨取るんよ。ほんで食いもん買う。ほんなら続く」
「??」
「観光資源や」
「カンコウシゲン?」
「うん。温泉の湧くとこ整備してな、観光地として人呼び込むねん。温泉ってな、体にええんや。ゆったり浸かるだけで、めっちゃ疲れ取れるねん」
「ほー。あの熱い湯がか」
「そう。だから、そこになんかうまいもんくっつけたら、人集まるで」
「なるほど。コンドウ殿は実に面白いな」
「え?」
「いや、誰も思いつかんことを簡単に言うのだな」
「あー。まあそれでけっこうえらい目におおとる.......」
ーーしもた。つい調子に乗った。けどこの魔王、そこらの貴族より話通じるなぁ......
台所がガラリとあいて、セリーヌが顔を出した。
後ろからナターシャも入ってくる。
「魔王様、お初にお目にかかります。ミナセ領主ルーク=アウレリウスの妻、ナターシャでございます。これは娘のセリーヌ。この度は、ようこそいらっしゃいました」
と、2人優雅に礼をする。
ナターシャの目配せで、タケシは退出。台所に引っ込んだ。
「ふー」
「タケシどない?」
「いやー。そう怖い人やなさそうやけど?」
「そうなん」
「いやさすがに王族やな。堂々としたもんやで、ナターシャ」
「さっきまで、ビビリ散らしてたで」
「マジか」
「今日うちに泊めてやってって」
「げっ」
「ルークおらんのに、あっちに泊まってとは言えんやろ」
「しゃあないな。デカいから......商会でマットとか取ってくるか」
「そやな。うち晩ごはんの段取りする」
馬車を出そうと納屋に行き、チラと縁側を見ると、セリーヌがゼルヴァーンの角を持って遊んでいた。
ーーひえー。セリーヌ最強ー




