降り立つ翼
魔王国 王の間。黒く光る玉座に、国王ゼルヴァーン=ドラグニルは深く座ったまま、カイルからの書簡を握りしめていた。
「ふぅ。良かった。もう一度機会を与えてくれるそうだ」
大きな2本角がゆっくりと揺れる。
「陛下、次は私が参ります」オルフェンが進み出る。
「いえ、私が」
ヴェルガードも一歩も引かない。
「次は......コンドウ伯爵邸。ミナセ領主の近くだと言うが」
「あの森の近くと言うと、田畑と、工業地帯だったと思われますが」
「城はなかったのか」
「はい。領主宅も城ではないようで」
「ふーむ」
ゼルヴァーンはしばらく考え込む。
「地図も添えてある。謎の玉対策もしているということだし.......私が行く」
「いえ、国王陛下自ら出向かれるなど。いくら陛下のお力が強大であろうと危険です」
「そうです、私共が参ります。
まだ謎の玉は謎なのです。陛下は.....」
「えーい。うるさい。そもそも命を取られたわけでもなかろう。私ならば、そのような玉に惑わされることも無いわ」
「.......」
「私が、この目で確かめて来よう」
ゼルヴァーンは立ち上がる。大きな体には、堂々とした王の威厳に満ちている。
大きな翼を広げると、バサリと飛び立った。
「タケシ、おはよー」
「おー、ルークおはよう。早いな」
縁側で、タケシがまた木を削っている。
「何作ってんの?」
「竹とんぼ」シュリシュリ。
「タケトンボ?」
「子どものおもちゃやけど、飛ぶんや。クルクル回って」
「へー」
「案外角度が難しいんや......」シュリシュリ。
「あのさ。今日お客さんが来るんだけど、タケシんち貸して欲しいんだ」
「ん?うち?あぁ構わんけど」
「タケシもいてね。伯爵のお仕事だよ」
「マジか。めんどくさ」
縁側で、マシロとカースケがおにぎりを食べている。
「あ、僕もおにぎり食べたい」
「お前、飯ぐらい食ってこいや」
「おにぎり別腹♪」
ーーん。このあたりか.......
ほう。馬車が多いな......変わった馬車だが.......
「カ」
「お。でっかい鳥♪」
タケシがパチンコを手にする。
「ちょっと遠いな......こいこい、もうちょい」
ぐぐーっとゴムを引いて.......
「あぁー。タケシーちょっと待ってー」
慌ててルークがタケシに飛びつく。
パシュン
「もー。外したやんか」
「うわっ。謎の玉!危なかったー」
「タケシ、来たよ」
「へ?」
黒い鳥が迫って来る。
「デカい鳥?」
デカい鳥の姿が、はっきり見えてきた。
「あれ?」
「翼人にしては.......大きいな.....。1人かな」ルークが首をひねる。
「うわっ、何あれー」タケシ、マジで驚いている。
程なく、大きな鳥は降り立った。
翼を畳み込むと、ゆっくりと2人の元へ歩いて来る。
浅黒い肌に黄色く光る目。赤髪の間から伸びる、大きな2本の角。タケシの倍ほどもある背に、黒い翼がのぞく。
「魔王国国王 ゼルヴァーン=ドラグニルである」
「ようこそいらっしゃいました。わたくし、ルーク=アウレリウス。このミナセの領主でございます」
「おぉ、アウレリウス....と言うと」
「はい。アルネア王国国王カイルの第2王子でございます」
ゼルヴァーンが、ちらとタケシを見た。
タケシは、驚きすぎて固まっている。
「あちらはタケシ=コンドウ伯爵です」
「は、初にお目にかかります、タ、タケシ=コンドウです」
ゼルヴァーンはタケシの手に目を留める。握られているのは......パチンコ。
タケシがビクッとする。
ーーほう。コヤツが........
「タケシ、座敷借りるよ」
「お、おう」
「ドラグニル陛下、どうぞこちらへ」
タケシを一瞥し、ドラグニルはルークに続く。
玄関に引っかからないように、大きな体を折りたたむようにして入っていった。
タケシは裏口から台所に回って、お茶を入れるために湯を沸かしている。
「ルークの奴......そんで人払いしてたんや......」
家の周りの工房にも納屋にも、誰もいない。カツミもクレスの工房に行った。
「クソっ。とりあえずお茶お茶......」
座敷から笑い声が聞こえる。
「あー気が重いー」
カースケがタケシを見上げている。
「お前もやらかしてる」
カースケがくちばしを開けたまま固まった。
「どうぞ」とお茶を出し、ささっと部屋の端へ。
「タケシ、こっちおいでよ」
仕方なく少し前へ。
「タケシ、君にも話聞きたいそうだよ」
ーーひえ~〜こえ〜〜
「そう緊張せずとも良いではないか」
魔王ゼルヴァーンはニヤリと笑う。
「友好的に参ろうぞ」
「申し訳ございません!」
タケシは畳に頭を擦りつける。
「デカい鳥だと思いました!」
「ハッハ。やはりそちか。部下が世話になったようだな」
「で、カーと言ったのは.....」
タケシの横で、カースケが死んだふりをしていた。
その頃ーー
アキラがキックボードを飛ばしていた。
クレス工房のカツミのところへ。
「カツミさーん。ハァハァ。めっちゃすごい奴来たっすー。ハァハァ」
「え?」
「なんか角あって翼あってでっかいんですぅ」
「はぁ?」
「見たことないっす。あんなん」
アキラが大声で騒ぐので、わらわらと人が集まってきた。
「なんかちょっと気になるわぁ」
「見に行きます?」
「どないしょ......」
「それで、条約の更新前に国交を回復したいとのご意向ですね」
ルークが話を戻す。
「うむ。条約更新はまだ半年以上先だが、できれば早い時期にアルネアとの交流ができればと.......」
ゼルヴァーンはふぅと息をついた。
「貿易をしたいのだ」
「何がご入用なのでしょう」
ルークは、あくまで冷静だ。
「まず......食料品」
「食料品?足りないのですか?」
「今はまだ何とか足りておるのだが......実は我が国は......」
不可侵条約以降、国は落ち着き、戦争で減った国民も、徐々に増えた。
魔人族は寿命も長い。長い平和な時代は、人口の増加を加速させた。
本来肉食で、魔物を狩って暮らしていたが、取りすぎて数が減った。10年程前、このままではまずいと制限して、山の木の実なども食べるようになったが.....
「畑も作ってみたのだが、上手くいかんのだ」
腕を組んだまま、ゼルヴァーンが眉を寄せる。
「それは大変ですね」
「このままでは後2,30年で魔物が枯渇する。保護しきれんのだ」
うつむいていたタケシが顔を上げる。
「なので、食料を輸出して頂きたい」
ルークが静かに言う。
「で、そのお支払いはどうされますか」
「我が国には豊富な鉱物資源がある。コチラとは通貨が違うであろうから、鉱物との交換ではどうだろう」
「鉱物ですか......」
「うむ。ミスリルだ」
ルークがかっと目を見開く。
「ミスリルを出せるのですか!」
テーブルに手を付き乗り出すルーク。
「うむ。どうだろう」
「是非お取り引きをお願いします」
ルークの即答。だが......
「なあルーク、ミスリルって?」呑気に聞くタケシ。
「タケシ、ミスリルはこっちの大陸ではとても貴重なんだ。採掘され尽くしてもうほとんど出ない。刃物にも防具にも、何にしても最高級の強さだ」
「そんなすごいんや......」
「父上もこの話、間違いなく受ける」
「でもルーク、貿易だけで向こうの国民養えるんか?てか.....足りる?」
「!?」




