出発進行
テーブルに広げられた地図。アルネア国王カイル、その前にタケシとユリウスが覗き込むように地図を見ている。
「陛下、駅はどこにお作りになりますか」
カイルが予定ルートの街道に、ペンで印を付けていく。
「通過する領に一つは置きたいよね」
「これは魔導車が止まる駅と言うことでよろしいですか?」
「うん。全線が敷けたら週1本で運行する予定だ」
「でしたら......」
ユリウスが、小さな丸を書き足して行く。
「レールの敷けた区間から、馬トロッコを運用されてはいかがでしょう。間に小さな駅を作り、料金を取って定時運行すれば......」
「そやなぁ。トロッコ珍しいから乗りたがるやろな」
タケシが、王都に向けて線をなぞった。
「はい。実際魔導車を使ってまで長距離移動する者は少ないでしょうし、レールもったいないです。先に、日常に短距離で運用すればよろしいかと」
「金も落ちるしな」
「線路のチェックもできますし」
カイルは2人を交互に見る。
「君たちってやっぱ凄い」
「ねえタケシ、ユリウス欲しい」
「アホか。こっちに丸投げしたんお前やろ」
「そうだった。.......じゃあ、時々こっちで指導してもらうとか」
「まだ1人でミナセからは出してないんや」
「あぁ.......そうだよね。罪人だなんて、もう誰も思わないだろうけど」
「そこはケジメやろ」
「わかった。月に一度。こっちから迎えを出す。それでどう?」
「しゃあないな。うちの技師として出す。高いで」
「うん。助かる」
「キカンシャ6号行ってきます!」
今日もユリウスが納豆メシをかき込んで出て行った。
「元気だねぇ」
のんびりと味噌汁を飲むアーク。
「もうええ言うてるんやけどな。朝だけでもってな」
「デスクワーク増えて、体がなまるのが嫌なんやて」
カツミがタケシの腹を指差した。
「俺は年相応や!」
アークがコトンと茶碗を置いた。
「父が、迎えに来るって」
「はぁ?」
「僕、久しく飛んでないから心配だって」
「案外甘いんや」
「一応夜中に飛行練習してるんだけどねぇ」
フワリと翼を広げ、揺らせて見せる。
「ね、お手入れ完璧だし」
「アホか。筋トレしとけ」
ーーアークさんよりデカいー。やっぱ怖いよぉ......
「ユリウス、僕の父だよ。父上、僕のルームメイト」
「よ、よろしくです。ユリウスです」
ーーなんで魔王が......ご飯食べてんだよぉ......
「おぉ。息子が世話になったな、ユリウス君」
「いえ......こちらこそ」
ーー喋ったぁー。魔王と喋ったぁー。
「カツミ、旨いなこれ」
「でしょ、魔王国でも作ってみる?」
「レシピくれぬか」
「へへっ。なんぼ貰おっかなー」
「タケシはケチじゃの」
「何言うとるんよ、トロッコの図面タダでやったやん」
「うぅ.....」
ーータケシさんたちも、何なの?何その会話.....
「アーク、払っておけ。ワシは今日は持ち合わせがない」
「ズル!」
渋々財布を出すアーク。
「さてと、そろそろ帰るか。タケシ、カツミ、長々と世話になったな」
「また来るからねー」
「次は嫁さん連れてこいよ」
「わかったー」
魔王ゼルヴァーンとアークが、大きな翼を広げて飛び立った。
ーーふぅ........第2王子か.......
ユリウスは首を振った。僕は.......
毎日忙しく動いて、忘れるようにしていた。生まれ変わりたいと、心から思っていた。
ーー兄上は民のために頑張っているというのに.......
自分の愚かさを思い知った。自分の行いが国を崩壊させ、父を王から追い落としたのだ。
苦しみから救ってくれたのはタケシさんたちだ。働くことの尊さも、汗のあとの旨いメシも、全部。立場も身分も関係なく接して貰った。
ーーせめて、お役に立てるように.......
「おかえり。サラディアどうやった?」
「はい。順調です」
「レオン、ご苦労さん。これタローにやって」
木で作ったトロッコの模型を渡すタケシ。
「ありがとうございます、父上。じゃあユリウス、また来月」
「はい。ありがとうございます」
「キツないか。アルネシアもあって」
「いえ、大丈夫ですよ。移動中でも仕事出来ますから」
「いやいや。寝てくれ」
「アハハ。寝てますよ。来週ミナセが全線開通ですし、一段落しますから」
「そっかー。ついに開通か」
「あ、ルークさんと打ち合わせしなきゃ!行ってきます」
「はいはい」
開通式の日。ミナセ中央駅の前広場には大勢の住民が見物に集まり、屋台まで出るほどである。街役が並ぶ中、タケシもその中にいる。その後方には工事に携わった者たちが集まり、式の進行を見守っていた。
ルークが短い挨拶を終えると、一斉に職員が動き始め、屋根付きの客車が馬にひかれて入ってくる。
駅が開かれる。
ルークを始め、タケシや街役達が車両に乗り込み、後ろの車両には抽選で決まった住民達が乗った。
「ユリウス、来なさい」ルークが呼ぶ。
「えっ」
「そやそや、キカンシャ6号乗らなアカンぞー」
「ユリウスー、おいでー」
「6号、こっちやー」
「お前が乗らんで誰が乗るんやー」
みんなに押されて、ユリウスがおずおずと先頭車両に乗り込んだ。
「号令かけてよ」ルークがニコっと笑い、最前線に立たせる。
ユリウスは後ろを振り返る。みんなの笑顔が背中を押す。
「はい!」
ユリウスが胸を張り、正面を見据え手を挙げた。
「出発、進行!!」
真っ直ぐ指を前方に指すと、御者の綱がしなり、ゆっくりと馬が動き始めた。
タケシが、その背を黙って見つめていた。




