夜更けの灯火
「どや、わかるか」
トロッコ動力車をひっくり返して、キカンシャ6号ことユリウスが、足回りの整備をしている。
すっかり日焼けして、背中が一回り大きくなっていた。
「はい。これでいいと思います」
「まあ、思いますやったらあかんのよ。試走して来い」
「はい」
縁側で、何やら削っているタケシ。
「ユリウス、休憩し」コリコリ
「はーい」
「兄ちゃんから翼人便来たわ」
「え?なんて?」
「やっぱ元貴族連中がうるさいみたいやな」コリッコリッ
「あぁ........」
「称号無うなっても領主させてもらえてんのに、何文句言うんやろ」
「まあ貴族って称号が全てなんですよ」
「平民やのに、なんで領の面倒見るんやとかか」コリッ
「そうですね......実際領主って言っても口だけで、行政官に任せっきりですよ、普通は」
「アホやな。ほんま」
「僕も......そうでしたし」
「そんなに称号欲しいかな。俺いらんかったけど」コリコリ
「はぁ?伯爵でしょ」
「いや元々平民やで」
「そうなんですか!」
「だから言うてるやん。俺は馬車屋の親父やでって」
コリコリコリコリ
「貴族だろうが平民だろうが、やること一緒や。動いてなんぼやろ?」
「はい。今は分かるようになりました」
「自分で動かんと飯食っとる奴ほど時代の流れには乗れん。俺言うたんよ、出来ん元貴族は領主降ろして国の事務官入れた方がマシやって」
「.......」
「まあ実際は、それが難しいから兄ちゃん困ってるんやけどな」
「あの....」
「ん?」
「それ.....何?」
「ヨーヨー」
「?」
「ミナセでやっとる住民会議も取り入れたいみたいやけど.......」スリスリ
「あれ、すごいですよね。住民の意見聞くなんて」
「いや、当たり前のことや。けどアルネアでも、ミナセとサラディアだけやねん。カイルはやらせようとはしてるけど......」スリスリ
「なんでできないんですか?」
「住民の気持ちが先やねん。上からじゃあかん。自分らの街を良くしたいって集まる。そこからよ」
「下から.....」
「うん。ミナセは俺が集めたんや。それをルークがうまいこと制度化してん。サラディアは災害復興で住民が盛り上がってたし、レオンもおったからな」スリスリ
ユリウスが小首をかしげる。
「そういう意味ではグラニオスはチャンスやけど、結局貴族が邪魔をする。自分の椅子、守ろうとするから」
「あの、タケシさん、僕だんだんわからなくなってきました。もう1回最初から」
「勘弁して」
スリスリスリスリ
「へへっ。こんなもんかな」
「出来ました?」
「もうちょい。紐ひも......」
タケシが立ち上がった。
「あ、僕もそろそろ退勤便だぁー」
ユリウスが走って行った。
「タケシー」ルークがやって来た。
「ん?」
「それ.....何?」
「ヨーヨー」
「?」
「あかん。腕落ちてる」
「??」
「要練習や。で、何か用事?」
「あ、そうそう。街の人がね、トロッコ伸ばしてほしいって」
「うわっ、まためんどいこと」
「そう言わずに」
「んで、費用は?ルートは?運用方法は?」
「あわわわ」
「丸投げすんなってジジイらに言うとけ」
「わかったー。まあ費用は領費から出すよ」
「決まったら......ユリウスにやらそ」
「大丈夫?」
「どうやろ?」
「えぇー」
「わからんことを、ちゃんと聞く。それができりゃ何とかなる」
「あぁ.....そうだね」
「練習練習♪」
朝の出勤便が終わって、ユリウスは井戸で汗を拭いている。
シャツを脱ぎ、広くなった背に、タケシがポンとげんこつを当てる。
「ユリウス、役場行ってこい。ルークおるから」
「役場?」
「今日会議やて、後ろで見てこい。多分トロッコの話出るから」
「トロッコですか?」
「うん、これに着替え」
差し出したのは、馬車工房の黒い制服。
「えっ。これ......」
「そやそや」
ポケットから硬貨をジャラリと出すと、ユリウスの手に乗せた。
「昼めし、これで食ってこい。退勤便に間に合うように帰ってこいよ」
タケシはくるりと納屋に戻った。
「あ....ありがとうございます」
ユリウスはしばらく制服と硬貨を見つめていた。
「よしっ」
声を出すと制服を羽織った。
「どうやった?」
「串焼き旨かったー」
「そこかい」
「へへっ」
「これ、議事録です」
「うん」
「ルークさんが、見積もり出せって」
「んーっとな。レールの敷設、車両、駅。それぞれな。商会と馬車工房で聞いて。作業工程、何日かかるか、材料費と工賃。洗い出してみ」
「わかりました。すぐに」
「明日からでええ。キカンシャ6号せなあかんやろ」
「はい」
「次の会議再来週やろ。その作業は昼と夜にすること」
「はい。.......ありがとうございます」
「ん?」
「いや、皆さんすごく優しくて......制服見て、あ、タケシんとこのもんかって」
「ハハッ。そうか」
「僕。頑張ります」
「あぁ。ええもん作ったり」
「はいっ!」
「どう?」
納屋の机に、書類を広げて、ユリウスが唸っている。
「そろそろ置きや。明日に障るで」
「はい。もうちょっとです」
毎日夜遅くまで、納屋の灯りが消えない。
カツミは夜食を作って持っていく。
「タケシ、受験生みたいや」
「俺も食いたいなぁ」
「やめて、メタボになる」
「......寝よーっと」




