揺らぐ故国
トロッコの目処がつき、馬車工房を使ってレールと荷台の製造が始まった。作業員を使ってレール少しづつ繋いでは、トロッコを走らせて確認が続く。
「あ、ナターシャおかえり」
「じいじー」セリーヌが駆けて来きた。
タケシがヒョイと抱き上げる。
「ルークは来ていません?」
「あ、もうすぐ戻ってくるわ」
そこへ.......ヨイショ、ヨイショ
、ヨイショ......とトロッコが戻って来た。
「あ、お父さま」
セリーヌがタケシから降りて、ルークの乗っているトロッコへ。
ナターシャが後を追い、ルークと何やら話している。
「タケシ、ちょっと父のとこに行ってくる」
「え?今から?」
「何か大事な手紙、預かってきたんだって」
「そっか。気ぃつけて行けよ」
3日後、ルーク達は帰ってきた。
だがルークの顔がなんだか冴えない。普段と変わらず過ごしているが、時折ふっと気を散らす。
「なんかあったんか?」
「え?あー。.....タケシ、今日晩ごはんに来る?」
人に聞こえないように、小さく答えたルークに、タケシは頷いた。
夕食後、メイドがお茶を出し、子供達を連れて行くと、ルークは重い口を開いた。
「グラニオス王国が厳しいらしいんだ......」
「ナターシャの国か......」
ナターシャが持って帰ってきたカイルへの親書は、実はヴァルディス国王からの融資願いだった。
「はぁ?なんでやねん」
「魔王国との国交回復で、鉱物が入ってくるようになって......」
と、ナターシャが小さな声で言う。
「いやいや、それ以前からちゃうか.......なあ......ナターシャ」
タケシがナターシャの顔を見る。
「お前が嫁に来てから、アルネアは鉱物の輸入増やしたよな。うちからポンプ隊とか商会も行って取引させてもろたけど、ここ数年それも止まってる。自国で真似できるようになったんかと思たんやけど......ちゃうかったんや......」
「........」
「うちのもん買うより、ずっとようけ利益あったはずやで。あれ何に使たんや。何に溶かした?」
「いやタケシ、それをナターシャに言っても仕方ないんじゃ......」
「そんでな。そんな大事なお願いを、嫁いだ娘にさせるって、何考えとるんや。自分で来て頭下げるんが筋ちゃうか」
タケシがルークをキッと見る。
ルークは何も言い返せなくなった。
「父は.......そういう人なんです.......ちゃんと決まったら挨拶に行くと.......」
「なぁナターシャ、結局そういうことやん」
タケシが又ナターシャを見て、ふぅと息をつく。
「な、あんたのお父ちゃん、悪い人やない。それは知ってる。けど、肝心なとこ人任せにする。きっと金の流れも任せとる。どうせあの金も、何ぞの利権が溶かしたんやろ。最期まで金の流れ見とったら、こんなことにはなってないと思うで」
ナターシャが唇を噛む。
「ほんでカイルはどないしたんや」
「今回は融資するって」
ルークが答える。
「ふーん。俺やったら貸さんけどな。息子の顔を立てたんやろけど。もう次はないと思いや、ナターシャ」
頷くナターシャ。
「厳しいことばっかり言うけどな、もっと早から、なんぼでも打つ手はあったはずや。他国に融資頼んで、返せんかったらどうなるか.......」
重い空気が漂った。
「ナターシャもルークも、ちゃんと出来んことは出来んと言え。お前らが背負うことと違うわ」
翌朝、タケシが納屋でごそごそしていると、ルークがやって来た。
「昨日はごめんね。ナターシャとも話したんだけどさ」
「ん?」
「ちょっと距離を置くよ」
「あー」
ルークがタケシの横にペタンと座る。
「トロッコなぁ、グラニオスでも使えるかなーって思たけど、やめとくわ」
タケシが車輪を弄くっている。
「開発する余裕もないやろ」
「そうだね」
「お前はナターシャ守ったれ」
「うん。そうだね」
「子供ら連れて来たれ、トロッコ乗せたろ」
「うん」
ルークが立ち上がった。
職人街近くまでレールが伸び、馬を使った運用試験が始まった。
「えらい進んだやん」
「あー。カツミー、寂しかったぁー」
「うそくさー」
「へへっ」
サラディアからカツミが帰ってきた。
「どうやった?」
「うん。みんな元気。ハナちゃんもだいぶしっかりしたし」
「タローは?」
「あぁ、木馬喜んでた。ハリセン持って勇者やってたで」
「マジか。英才教育やな」
「街の雰囲気も良かったで。やっぱレオンがおるからやろねえ、めっちゃ治安がいいから、観光客増えてた」
「へー」
「工房も見てきたから、安心し。ちゃんとペータとボイルがやってたで」
「まあアイツらやったら大丈夫やし」
「あ、ローデリックさんも相変わらずや」
「何か言うてた?」
「ううん。仕方ないって」
タケシは、サラディア領を正式に、レオンとリシェル夫妻に譲れないかと、カイルに相談していたのだが、結局諦めざるを得なかった。
血縁の無い養女と元平民。流石にそれは認められないーー。
そうカイルに告げられたタケシは、2人の子供の代になったらーーと言う言葉を、何とか引き出した。
それをローデリックに伝える書簡を、カツミに預けていた。
「さてと、ご飯作ろっか」
「あー。保冷箱何もないー」
「どアホ!」
その頃、王都アルネシア。
「まあ今回はいいよ、もう」
カイルがヴァルディス=グラニオスとの会談を終え、自室でリゥトスと会っている。
「どうだろう、あれで何とかなるものか?」
「いや。無理だろうね。あんな甘い返済計画、意味ない」
「どうする?」
「調べてくれ、内部を」
「中か」
「ああ。内から見えなくても、外からは見えるものさ」
カイルは、ソファーに深く腰をうずめた。




