2本の鉄
魔王国がアルネアとの国交を回復してから4年が経った。
不可侵条約の再締結後、アルネア側は、魔王国観光が貴族の中で流行し、やがてそれが平民層にも広がっていった。
魔王国からの往来も増え、アルネアとの良好な関係を報じられると、人族側各国は、慌てて魔王国との国交を結ぼうと動き始める。
アルネアを通じて使節を送り、自分達に有利な条件で貿易をしようと画策するが、それがミスリル目当てであることは明白だった。
魔王国は国交回復に同意するも、ミスリルの産出を抑え、輸入の対価をアルネア通貨で支払う事を決めた。
「まぁ美味しいとこ取りはさせないよ」
コンドウ家の座敷。ルークがニヤッと笑っている。
「条約交渉丸投げしといて、甘いんだよ。大体大した輸出物もないくせに」
魔王国は、当初の食料不安も解消され、今、アルネアからの輸出は、穀物類とコンドウ商会の製品がほとんどだ。
そしてアルネアは、金銀等の特殊鉱石や宝石などを輸入している。
「まあ、おかげで又うちがめんどくさい」
タケシがボヤく。
諸外国が、交渉のために魔導国に渡るには、アルネアを通過する。アルネアの進歩に、薄々気づいていた各国も、実際に目にする街道や港の様子に驚きを隠せない。
調べていくと、結局コンドウに行き着く。
そして技術提供や出店、輸入を交渉する使節が、ミナセにやって来るようになった。
「ほんまここの奴らって、自分でやる力ないんよな。ゼルかって、もう自分のとこで研究所作ってるのに」
「父は楽しんでるだけですよ」
アークが笑う。
「何百年変わらなかった暮らしが変わっているんですから。そりゃ楽しいです。あ、3つ目の温泉地、手を付け始めたようですよ」
「あ、自国民用か」
「ええ、国民も頑張っていますからね」
「ええ王さんや」
「タケシは他国に出店しないんでしょ」
ルークがたずねると、
「うん。無理。期限付き技術派遣にしてる。2年な」
と、タケシがあっさり言った。
「後は自分でやれってか」
「そういう事。マネすりゃええねん。どっちみちカメスラ系はどうにもならんし」
「だよね」とルークが頷く。
「でも多分、ここの凄さって、技術じゃないんですよ」
アークが人さし指を立てた。
「ん?」
「給食とかオセロ大会とか。仕事のさせ方?そこから違うんです。だから技術だけ取り入れても、きっとうまくいきません。って、父が言ってました」
「ハハ。ゼルは鋭いな。カイルもそうや。無理にウチの技術は取らん。けど福利厚生は真似しよる」
「実際、国営企業はみんな伸びてる。民間も取り入れ始めてるし」
「楽しい方がええに決まっとるんや」
タケシが大きく伸びをした。
その頃、ルークの妻ナターシャは、子供達を連れ、里帰りしていた。名目は2歳を迎えた長男のお披露目だが......
「お父さま、どういう事ですの?」
ナターシャの母国グラニオス王国は、元より鉱物資源で成り立つ国であった。
魔王国の国交回復により、その鉱物の流通が変わり、もろに打撃を受けていた。
「ですから、カイル国王は鉄鉱石の輸入はコチラからにしてくださっていますわ」
「ああ、だが他国はな......」
国王ヴァルディスがうなだれる。
「私、早くから申し上げておりましたでしょ。他産業を強くなさいと。タケシさんの事はいつも手紙でお知らせしましたわよ」
「ああ、ポンプ隊にも来てもらった。商会の商品も入れておるしな。だが国内の産業がうまく育たん.......」
「.......」
「ナターシャからも取りなしてくれ。今は......アルネアから借り入れる他ないのじゃ」
「返す当てがあるのですか」
「.......」
コンドウ馬車工房は、国内にミナセの本工房、他4つの馬車工房。その他に街道の馬車基地にも修理工房をおき、その周辺領からの職人も受け入れ、修理技術を広めている。
コンドウ製でない馬車でも、ゴムがなかった頃のレベルまでは、品質のアップができるようになった。
ミナセの本工房は、主に用途を限定した特殊車両を生産している。
ポンプ工房も、井戸ポンプの国内設置がほぼ終わり、シリンダーや輸送用ポンプの製造以外は、カメキチスライムを使ったゴムやスポンジの製造に全振りしている。
コンドウ製品は、ミナセの職人街が下請けとなって、今や街全体がコンドウ商会を支えている。
そして、それに伴い発生している問題点があった。
ピーピピー!
「順番守れ言うてるやろ!」
整理員の怒鳴り声が響く。
コンドウ商会前、今日も十数台の馬車が列を作っている。
コンドウ商会への納品馬車。
地方商人に外国の行商人。
内からは、地方発送便や職人街への材料便。
「コラー。今入っても動けんから待てー」
「看板見えてへんのかー。並べー」
整理員の声が枯れる。
「タケシ、ほな行ってくる」
「タローの木馬入れたか?」
サラディアのリシェルのところに女の子が生まれ、カツミはしばらく手伝いに行くことになった。
「よう見たって。こっちは大丈夫やから」
「また納屋こもり放題やな」
「へっへー。行っておいで」
「まあこんなもんかな......」
「タケシさん、出来ましたよ」
バルサが小さな車輪付きの台車を持ってきた。
「ここに乗っけて」
母屋前の道路向こうに、2本の木が並んでいる。
「せーの」「ホイっと」
後ろから押して確かめる。
ゴロゴロゴロゴロ......
「ええですな」
「へへっ。ほな次な」
ここのところ、タケシはずっとバルサと納屋で仕事していた。
あまりに楽しそうに没頭しているので、みんな様子見していたのだが.......
「ねえタケシさん、あれってレールみたいっすね」
「さすがアキラ。御名答」
「電車無理でしょ」
「ムリムリ。それは無理」
「??」
「いやー最近、馬車渋滞ひどいやろ」
「そうなんですよー」
「職人街からの分だけでも減らせるかなーってな。ホイ、そっち持って」
「で、レール?」
「うん。これは試作用動力車。いちいち馬出すのも面倒やし」
「タケシー。今度は何してんのー」
「トロッコ」
「??」
「あ、ルーク、漕ぎ手やる?」
「タケシさんあの敷いてある棒何です?」
「レール」
「??」
「アーク、漕いでみる?おもろいで」




