9.きらい
玲奈はポカンとした。
(いま……ヒスイくん、なんて言った?)
とびきりの笑顔のままのヒスイ。
あのイングリッシュガーデンのお店にあったキラキラの石を全部集めたより、ずっとずっとステキなヒスイが言った内容が、玲奈には聞き取れなかった。
もしかしたらそこだけ、外国の言葉だったのかもしれない。きっとそうだ。
「ごめんね、ヒスイくん。もう一度言ってくれる?」
「え? どうしてだよ」
「ちょっと、よく分からなくて」
「なんだそれ」
ヒスイはまた真っすぐに玲奈を見て言う。
「これで最後だぞ。いいか、ちゃんと聞け。……オレはお前が、『きらい』だ」
きらい。きらい。きらい。きらい。きらい。
その部分が玲奈の頭の中でぐるぐる回る。ヒスイはまだ何か言ってるけど、『きらい』であふれる玲奈の頭の中には入ってこない。
きらい。
オレはお前がきらい。
きらいということは、きらいだということ。きらいなんだから、きらいだっていうこと。
少しはずかしそうなヒスイ。
頭の上で「キュー!」って鳴きながら前足で顔をかくしたキューイを乗せたヒスイ。
その、ヒスイは、玲奈の、ことが。
「そっか。きらいなんだ……」
小さな声で玲奈が言うと、ヒスイはショックを受けた顔になった。
「だったら。私もきらい、って言ったほうが、ヒスイくんはうれしい……?」
「キュー!」
「えっ?」
「キュ! キュキュー! キュキュキュー!」
「ちょっ、やだ、キューイ、なにするの?」
「キュキュ! キュキュー!」
泣きそうな顔をしたキューイが両前足でこぶしをつくって、玲奈の頭をポカポカなぐる。
「キューキュキューイ!」
「や、やめて!」
キューイの攻撃から頭を守るために玲奈は両手をあげる。手に持ったままのペンダントが目の前できらっと輝いた。
そのとき玲奈は、ヘンなことに気がついた。ペンダントのセレナイトを通してみたとき、ヒスイの後ろになにか黒いものがあったような気がしたんだ。
ポカポカなぐるキューイの攻撃を右手の星座盤でブロックしながら、玲奈は左手のセレナイトをのぞきこんでみる。
そうしたら、玲奈と同じくらいショックを受けた顔をしてるヒスイの後ろに黒い影みたいなものが見えた。
大きさは大人の男の人くらい。目と鼻と口があって、ニヤニヤと笑ってる。こんなの、ゼッタイにふつうの影じゃない。
「だれ!」
さけんだ玲奈と影の目が合った。
『なんだって? 見つかったのか?』
大人の男の人の声だ。玲奈はこの声を知ってる。森のパンやさんの近くで雨がふったときに、
『雨がふるよ。森のパンやさんは呪いのパンやさんだよ』
って言った声と同じ。
きっと悪い魔法使いだ。
「ヒスイくん、後ろに魔法使いがいる!」
振りかえったヒスイがホウキをかまえる。だけど黒い影が呪文をとなえるほうが早い。
『ヘイセケ デノト カンツイベ!』
玲奈の体が浮いた。
「えっ、うそ!」
「なんでだよっ! ……玲奈!」
ヒスイが手をのばす。その指にもう少しでさわれそうって思ったのに、玲奈の体はジェットコースターに乗ってるみたいな速さで森のほうへ飛ばされて、ヒスイから遠く離されてしまった。




