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闢発の妖精王1 壊滅編  作者: C先輩
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福音と霹靂

 朝露が庭先の木の葉から滴り、まだ肌寒さを感じさせる早朝。白石の都テミスに住まう人々は、都市中央に聳え立つ巨大な教会の鐘によって目を覚まし、女神ルインに対して朝の祈りを捧げる。

 荘厳な建築物が立ち並ぶそれはルイン教が誇る教皇庁。即ち、ルイン教の総本山である。


 普段と変わらぬ鐘の音と、普段と変わらぬ巡礼者達。

 唯一の違いは、大聖堂の奥殿に集った、司教達の様相であった。

 本来であれば、今日は教国に新たな祝日が添えられる程の日である。祝祭を執り行う合議を取るような時にあって、彼ら司教の話し合いは其れに当たらない、些か物々しいものだった。


「聖典は祝詞を上げ、福音は鳴った」


 一人の司教が口火を切った。


「我らの再征服(ルコンキスタ)が始まる」


 一人の司教が続いた。集まった司教の半数程が、それにおおっと続く。


「ふん、謝肉祭(カーニバル)を催すにしては、些か収穫した肉が足りないようだが」


 そうでは無い者も居た。


「それはナフタリを喪った卿らの見え方であろうや」


「我らが目指す終焉に相応しい贄は、相応の格が要るのだぞ」


「確かに、ナフタリに加えて、同等以上とも目される王国の始祖を、味方ごと消し炭にしたのは、いささか短慮が過ぎましたかな。シメオンの」


 水を向けられた一人の司教は、何を言うと応じる。


「平原での戦闘は、聖典によって目撃者ごと諸共に処分するのが当初の手筈だったはず。王国の緋炎が割り込んで来たのは想定外でしたが、かといって逃がせば大きな綻びとなりましょう」


「だが、確実に消した。という確認は取れておらんだろう」


「平原一帯を焼き尽くす聖火を発動したのです。その中心に居ては欠片も残りますまい」


「それもそうか」


「損失は確かにあったが、手にしたものは大きい。黒爪も実によくやってくれている」


 今度は別の司教が話を振る。


「私は些か不安ですな。一国の王を堕落させる手腕、個としての強さは認めておりますが、奴の本質は獣であるが故」


「問題無い。その点に関してだけは奴が裏切る事は無いだろう。アレは確かに獣であるが、その在り方は我らの教義とどうしようもなく被っているのだから」


「――では、次の聖戦ではより一層働いてもらわねばなりませんな」


「勿論だとも」


「王国の復興状況はどうか」


()()()()に、難航しておる。これで信徒も増やしやすいだろうて」


「ただ、こちらの報告ではウガルの街だけは大きく損害が出なかったようで、既に民は以前と変わらぬ生活を取り戻しつつあるようだ」


「あの街は土の始祖が居るという事でかなりの戦力を回した上に、執行官も投入したのだろう?」


「獣達は蹴散らされ、執行官も敗走した。調査官によれば、始祖も深手を負っている為すぐには身動きが取れないようだが」


「まぁ、頭を押さえているのだから、そちらはどうとでもなろう。むしろそれほどの戦力、始末せず配下に出来た事のほうが大きい」


「素直に従うと思いか?あそこの領主は頭も回る。聞けば復興もそこそこに、ヱビスへ向けて支援要請の為、腕利きの使者を放ったとか」


「案ずるな、既に手は打ってある。その使者達は実に不幸な天災に見舞われるだろう」


「おお、ではアレが?」


「うむ、竜操の烙印はついに翼竜を従えた」


 一同にしておお、と歓声があがる。


「正竜に干渉できる程度の実験に、氷竜をおびき出す作戦を行っている。彼らは、それに巻き込まれるという事だよ」


「いや、実に素晴らしい。ガドの子らは優秀であられる」


 その言葉に他の司教達も頷くのを躊躇わない。

 それほどまでに、竜を操るという技術が偉大なのだ。


「それで、最後に、聖典が発動する前の凄まじい()()の正体は掴めたか?」


 急に変わった話題に、司教達の顔色が強張る。


「不明だな、近隣諸国にアレほどの威力がある砲は存在しない」


「砲弾も無かったのだから、あれはやはり正竜の吐息(ブレス)では無いのか」


「それこそありえないだろう。王国の周辺で確認されているのは、先に話した氷竜ぐらいなものだ。アレの吐息(ブレス)とは随分毛色が違う」


「流浪の竜でも居たのでは?」


「それらしい影はまるで目撃されていないではないか」


「――銀竜」


 ぽつりと、一人の司教が呟いた。


「伝説上に存在する天空竜だと!?仮にそうだとして、何故――」


「あれなるは世界の理を司る超自然。理に介入せんとする我等への抵抗かもしれませんな」


「ありえない話では無い。正竜とは自然が生み出した特別な本能(イド)だ。亜竜や獣よりもモノの本質が理解できるだろう」


「忌々しい事よ、だが逆を言えば、我らの歩みが確実である証拠」


「何れは相対する必要のある存在、各々万事抜かりなきよう」


 合議が終わったとみるや、司教達は思い思いに立ち上がり、その場を去る。

 独り残った司教マグネスは、立ち上がりチラと脇を見る。そこにはいつの間にか控えていた白装束の人物が居た。目深にフードを被り、その出で立ちは性別すらも判別がつかない。


「首尾は」


「氷竜の烙印は失敗。それから――」


 若い女の声が、一瞬躊躇う。マグネスが促すと、恐る恐る言葉を続けた。


「氷竜をけしかけた空艇ですが、撃墜に至らず。更には空を飛ぶ妖精機によって、氷竜が倒されました」

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