疾風とて逃げること能わず
まるで話が進まんぞ!(おまいう)状態ですこんにちは
頑張っていきます。
ウガルの町を拠点とする傭兵団――疾風の足、"船持ち"と呼ばれる空艇を保有する有数の傭兵団である。彼らは少数精鋭且つ、アルゴス級偵察艦にも劣らぬ速力を誇る空艇アエーロークを有する疾風の足は、緊急依頼を主として、要人や重要物資の護送等を得意とする傭兵団であり、その伝手からウガル領主クレイからの覚えも目出度く、半ばお抱え傭兵団となるほどに重用されていた。
今日も今日とて、領主直々の依頼を請け、アエーロークは商業国家ヱビスへ向けて進路を取っていた。
「フン、フフン、ホンニャラカピッピー」
操舵士のダリルは、舵輪を握りながら陽気に鼻歌を響かせていた。
「ご機嫌ねダリル」
「そりゃそぉーっすよ船長!決死の救援だ!なんて言ってたら、労せずして超高額依頼!アタシらの日頃の誠意が通じてるってことですかねぇ~♪」
船長と呼ばれた、疾風の足団長エアは苦笑いする。
「――まぁ、流石に荷が勝ちすぎてる気はしてるけどね」
ダリルの言葉に同意はしても、エアの眉間から皺は取れなかった。
先日起きた、フィガロス王国全土を襲った黒獣の大災害。組合から第一報を聞くや、疾風の足はウガルの町へ急行した。到着したのは戦闘が粗方終了していた頃合いだった。
敵襲を退けたのは王国が誇る騎士団、黒鉄隊。しかして、被害は深刻だった。
防衛には成功したが、町の外壁は一部突破を許し、倒壊した家屋や壁の瓦礫の撤去も含めて、町全体が大急ぎで復旧作業に当たっている。
町を守った当の黒鉄隊、その隊長ネスは、元素機と呼ばれる冠位の妖精機ドーヴェンを駆る国家戦力の一翼を担う実力者だ。そのネスが負傷、そして妖精機ドーヴェンも少なくない損傷を負ったという。
エアはウガルに到着早々、領主クレイに復興支援を申し出た。が、返ってきたのは意外な言葉だった。
「有難い話ですが支援は結構です。それよりも、貴方がたに頼みたい大切な依頼があります」
それが今回の依頼、"商業国家ヱビスへの特使移送"だ。
曰く、今後の情勢を占う重要な話し合いの機会を設ける為との事で、3機の妖精機と3名の人物の"移送"を依頼された。
そう、移送だ。領主クレイは確かに、護送とは表現しなかった。
その理由はすぐに分かった。アエーロークに搬入された妖精機は、量産型など一機も存在しなかったのだ
。
一機は鈍色の重装甲型、熊がそのまま鎧を着こんだかのような機体が、背にまた大きな大剣を背負う。
エアが傭兵稼業で目にしてきた各国のどの系統とも異なる雰囲気だ。強いて言えば、ルイン協会が自国で製造している神官戦士の機体にフォルムが近いか。
もう一機は燃えるような朱色の装甲と、猛禽を思わせる意匠が織り込まれた妖精機だ。機体によっては得意とする魔法元素を悟られない事よりも、更なる出力向上の為、"概念色"に染めた装甲に追加で補助術式を刻印するという。もしコレがそうであるならば、実戦で使用される炎の魔法は一体どれほど強力なのか、検討もつかない。
そして3機目は最も異質だ。翡翠のような深緑の装甲に、金の装飾が施された細身の機体。装甲の隙間も多く、最低限の急所を守るだけのような頼りないものだ。加えて背部には巨大な大剣と、箱のような物体を背負い、右腕に至っては取って付けたかのような大きく歪な腕が生えている。
それら3機の妖精機を見たエアは、事態の深刻さを感覚的に理解した。
(あれはきっと、フィガロスの秘密兵器)
恐らく領主クレイの思惑は、ウガルへ攻め入る敵勢力への機体の秘匿、或いは情報が漏れていたとして、今回の事件がこれ等を狙う組織の襲撃だった場合の、安全圏への避難若しくは囮だ。
無事にヱビスへ辿り着けば、この手土産の見返りとして、何らかの庇護をウガルに対して取り付けるような話がついているのかもしれない。
有り体に言って、非常に危険な依頼だった。
「まぁ、だからって断る訳じゃあ無いけどサ」
当然だ、ウガルの領主からは前金でもかなりの報酬を既に貰っている。無事に達成すれば、当分遊んで暮らしてても困らないだろう額だ。そういうチャンスをものにしてきたからこそ、今の自分達がある。
「え~なんすか?」
「なんでもないよ、ほらガンガン進みな、アタシらは足の速さだけは誰にも負けないんだから!」
「よぉ~そろ!」
そう言ってダリルは魔力の帆へ吹き付ける風魔法の出力を更に上げていく。
やがて船体が巡航速度における最高域に達しようとした時、物見をしていたオキペテから伝声管越しに警報が伝わる。
『大変だ!前方の山脈から魔物の群れが接近中!あれは――うっそ翼竜だ!』
即座にエアは伝声管のマイクを掴んで叫ぶ。
『取舵一杯!バリスタ構え!翼竜の群れが接近中だ!この船なら振り切れる!各員落ち着いてやりな!』
だが、続くオキペテからの知らせに、空気は一変する。
『違う!更に後方から巨大な影!あれ氷竜だよ!翼竜は追われてる!』
さしものエアも背筋が凍った。
氷竜とは即ち翼竜のような亜竜と違い、れっきとした正竜だ。
生きる天災とも言われる正竜は、亜竜などと比べ物にならない力を持っている。だが下手に刺激さえしなければ暴れたりなどしないし、そもそも魔素を自然吸収して成長する正竜は食事を必要としない事から、翼竜の群れをわざわざ襲ったりする必要がない。何が起きているというのか。
『バリスタ止め!下手にこちらへ注意を向けるな!このまま速度で振り切る!』
ダリアが青い顔をして取舵いっぱい、速度を上げる。
急激な旋回でエアーロークは空中をドリフトするようにして船首の向きを変え、そのまま翼竜の群れから距離を取り始める。
『駄目!翼竜達までこっちに向かってくる!』
「なんでよ!」
オキペテからの知らせにエアは思わず地団駄を踏む。これでは、翼竜を襲っている氷竜がそのままついてきてしまう。氷竜に狙われては、さしもの高速船エアーロークでも逃げ切れない。
万事休す、エアが唇を嚙み締めた時だった。
『こちらシュウ、今格納庫のハンガーに居る。ハッチを開けてくれ』
それは移送中の客人シュウという優男の声だった。
『馬鹿!今正竜に追われてるんだぞ!何考えてるんだ!』
『何とかしてやる。早くしろ、開けないなら破壊して出るぞ』
『はぁ!?ちょ、ちょっと待て!』
エアが慌ててハッチ開放の指示を出すと、物見から報告が来る。
『何アレ!妖精機が一機竜に向かって飛んで行ったんだけど!?』
まるで頭の理解が追い付かない話ばかりだ。しかしこうなってはもう、エアにできる事は全力で逃走する指示を出して祈る事ぐらいだった。
疾風の足 主要構成員
団長:エア
操舵士:ダリル
妖精機乗り:ケレーノ(乗機:クーシー)
スカウト兼エンジニア:オキペテ
スカウト兼家事担当:ポダージュ
+外部委託傭兵1~2人




