世は真に横槍だらけ
青く澄み渡る大空、その高空をフレイによって飛んでいく。目的地は王都フィガロ。黒獣退治と背後にいる組織の壊滅をウガルの領主より依頼されたのだ。
〈速度3000、出力安定、そちらはどうですか?〉
補助AIのアイリスがこちらを気遣う。機体の修理に合わせて、フィードバックに影響が無いか確認しているのだろう。
それはボロボロになったフレイの右腕部を換装した新しい右腕と比べるまでも無く無骨で大きい。一目で重量バランスが崩壊しているのが分かる程にそれは歪な姿だ。
〈流石に重いがな〉
右腕部をブンブンと振り、マニュピレーターを開閉する。
〈補助が必要ですか?〉
〈いや、粒子ベクトルはなるべく散らすな。増えた重量は、活かす方向で考える〉
ガスパルに依頼した右腕は、"とにかく頑丈"な腕だ。安定した整備が不可能な世界では、超重剣を何度も振り回しても自壊しない強靭な腕部がどうしても必要だった。代わりにとてつもない重量になるぞと脅されたが、重量程度で済むならお安い御用。EL.F.とはそういうモノなのだ。
〈承知しました。間もなく王都推定位置が遠望視界範囲に入ります。ご覧になりますか?〉
〈頼む〉
巡航をアイリスに任せて、視界を切り替えてもらう。平原の向こうには、王都と思わしき城壁に囲まれた町が見えて来た。城壁の外では多数の空艇と妖精機が見えた。彼らは黒い無数の斑点――恐らく黒獣であろう者達と戦っているようだった。
規模からして相当なものだ。王都の事はウガルで聞いただけで実際には知らないが、あれ程の戦力を展開できるのだ、王都で間違いないだろう。
その中で一等目立つ火柱が上がった。戦場のほぼ中央だ、火力からしてサラマンダーだろうか。
高度と迷彩を維持したまま、接近していく。
より状況は鮮明になってきた。戦場となった場所には無数の妖精機達が無残な姿で倒れている。同様にあちこちで黒獣の死骸が至る所で黒い湖を作っていた。
先の火柱はやはりサラマンダーだった。相対する黒獣を焼き尽くしたのだろう。前方に居た機体に駆け寄っていた。
『隊長!デナン隊長!何故ですか!何故私を!?』
サラマンダーからアシュリーの声がする。
はて、どこかで聞いた名前だった。
〈白騎士隊を襲撃した騎士の隊長ですよ。サラマンダーに元々乗っていた男です〉
〈おお!〉
最早こちらの意を察する程の成長をしたAIのアイリスさんから情報提供を受けて思い出す。そういえばどちらも聖騎士隊とか名乗っていた。
件のデナンは、ボロボロになった妖精機で倒れていた。マントは破れ、盾は破損し、剣は折れ右腕と左腕は損失していた。立ち上がる事すらできない状態だ。アシュリーはその機体を抱き上げるようにして声を掛けている。
『流石だアシュリー、僕は、僕は君に謝らなければならない』
『何を――?』
『私はサラマンダーに選ばれてなどいなかった。これは全て仕組まれていた事。アシュリー、逃げろ。こいつらの目的の一つは、サラマンダーだ!』
『ど、どういう事です!?私は国を守るために――』
その時、戦場中に響き渡る程の巨大な声が平原に響いた。
『聞け!フィガロに生きる全ての者達よ!我らはルイン教!黒獣従えし邪教と滅するべく参上した』
〈現在、王都を囲むように、妖精機と思わしき部隊が展開中です〉
即座にアイリスが周辺状況を確認していた。
『邪教には現国王フィガロス12世が深く関与している証拠を我らは掴んだ。国王フィガロスは国民を邪教の贄に捧げんと今回の事件を首謀した容疑で我らが既に拘束済みである!』
そうなのか、ひどいな王様。
『よってこれより、我らルイン教は戦場に介入する!王国に騎士団は我らの戦列に加わり、邪教に連なる者共から国を守るのだ!』
その声に、あちこちで騎士団達が歓声のような雄叫びを上げているのが分かった。こちらとしても、労せずして面倒事が減るのは歓迎すべき事だ。
ルイン教が擁する機体達が、アシュリー達の方にも駆け寄って来ていた。十字に切った特徴的なヘルムと、サーコートとローブを掛け合わせたような生地を纏い、杖を構えている。
それにしてもロボットにマントだコートだのと、どういう意味があるのだろうか。
アシュリーはそれを見て、機体の手を振って合図をする、その瞬間だった。
「なに?」
思わず声が出た。
彼らはそれを見て、迷いなく火球の魔法をアシュリー達に発射してきたのだ。
『やらせん!』
脇に居た、大剣を持った機体がそれを弾いてみせる。赤土色の装甲を纏ったこれまでに見たことが無い機体だ。
『サラマンダーの騎士よ、逃げろ!奴らの狙いは王国とサラマンダーだ!』
大剣を持つ機体が叫ぶ。
『どういう事!?』
『邪教の一味として俺達を抹殺し、機体を手に入れるつもりだ!』
『というかアナタは誰なのよ!?』
『元ルイン教の今しがた尻尾を切られた尻尾側だ!』
『意味分かんないんだけど!』
二人が言い合っている間にも、ルイン教の機体は包囲網を完成させてにじり寄ってくる。
『お前の機体なら単独で突破できるはずだ!行け!』
『でも隊長が!それにあなただって無事じゃ済まない!』
『僕の事は良い!アシュリーだけ逃げろ!』
駄目だ、やっぱり面倒な事になってしまった。
〈如何しますか?〉
〈介入だ。丁度事情に詳しい奴らが揃ってるし〉
教会とやらと、国内の事情に詳しい二人が目の前に居るのだ。狙われているのなら、いっその事攫っていっても文句は言われまい。
〈誘拐犯が板についてきましたね〉
意を察する程の成長をしたアイリスさんが以下略である。分かってほしい、これは人助けでもあるのだ。
フレイの右背部ハンガーから超重剣を新調した右腕で取り出して、アシュリー達から少し離れた位置に思いっきり投げつける。飛んで行く超重剣よりも早くアシュリー達の目の前に急降下すると、自分達を覆うように素粒子の壁を作るった。
直後、落下してきた超重剣が少し離れた位置で豪快に着弾。大地を揺らし、土砂を巻き上げ、砂塵が視界を覆う。戦場は新たな混乱に包まれた。




