Fixed Game.
ものごっつ今更なんですが、一つ前の投稿から話数を省いています。
管理画面上だと話数表示されている事に今まで気付かずに使っていました。
驚き桃の木山椒の木。
王都に迫る黒獣の大群は、その夥しい程の物量によってフィガロスが誇る妖精機部隊を圧倒していた。
真正面から衝突しても勝ち目が無い騎士団は、前線に魔法で何層も土壁を生み出し、黒獣の進軍が鈍った箇所に対して、空艇部隊による上空からの魔法攻撃によって敵の数を減らし、壁が突破される前に後退しては新たな壁を作り攻撃する漸減作戦を展開していた。
『防壁をもっと出せ!』
『魔素が切れた!もうここは無理だ!』
『支援部隊は何をしてる!?』
各隊の機体から悲鳴のような怒号が飛ぶ。
作戦事態は良かった。しかし絶対的な物量差を覆すには至らない。
戦線は今にも崩壊しようとしていた。
『あ――』
誰かの声が、機体の拡声魔法によって漏れる。彼は見た。遥か敵陣の後方から凄まじい速度で迫りくる猪型の黒獣を。
気付いた時には遅い。その突進は構築したばかりの土壁を一瞬で破砕し、前衛の大盾を持つ妖精機達をそのまま薙ぎ倒していく。
『うわぁぁぁあああ!』
『前線を下げろ!潰されるぞ!』
混乱に陥った部隊へ次々と後続の黒獣達が雪崩れ込んでいく。
空艇部隊はそれを止める事ができない。既にどの艇も、砲撃を繰り返していた妖精機達の魔素がほとんど残っていなかった。
残っているのは凄惨な蹂躙劇だ。騎士達は王国が誇る最強の軍事力が壊滅した事を理解した。
だが、真の絶望はそこから始まった。
『なんだ――あれは――』
最初に気付いたのは、空艇から敵陣を観測していた騎士だった。
妖精機と戦っている黒獣達の後ろで、寄り集まって巨大な黒塊となっている一団が居た。やがてそれは体積を増していき、大型の黒獣を遥かに凌駕する黒泥の山となる。
黒いソレは、蜘蛛のような脚を生やし、触手を生み出し、体表の至る所にギョロりとした目と巨大な口を生やしていた。
その頃には地上に居た者達もその姿に気付く。危機――そんなものは最早誰でも分かる。生存本能が、その恐怖に負けて逃げ出す騎士達も居た。
巨大な悍ましき黒獣は、蜘蛛のような脚を動かし、妖精機を次々と破壊していく。無数の触手を槍のように突き刺し、あるいは鞭のように振り回して打ち砕く。その速度は見た目からは想像もつかないほど俊敏だった。
無数の触手で数多の妖精機を貫き、黒獣は悲鳴のような鳴き声をあげる。
虐殺が足りないとでもいうように。
鏖殺が足りないとでもいうように。
騎士達が恐慌状態となり、間もなく絶望が充満したその時――
『っはぁぁぁぁ!』
――鬼気迫る声と共に、混ざり合った巨大な黒獣へ横合いから赤い機体が飛び込んだ。
灰蛇はナフタリ疾駆させる。嵐の如き追い風を巻き起こし、その速さたるや、ブースターランスを装備したディナ・シーをゆうに上回っていた。
灰蛇はその速度を無駄にはしない。ナフタリの身の丈程もある大剣を、勢いのままに横薙ぎ一閃。黒獣の巨魁は尋常ではない衝撃によってくの字に折れ曲がり、ビチビチと引き千切れるような激しい音を撒き散らして両断される。
突然の闖入者と、その衝撃的な光景に、戦場にも拘わらず周囲の生き残っている騎士達は呆然とする。
『聞け!王国の誇り高き騎士達よ!』
灰蛇は拡声魔法によって叫んだ。
『こちらナフタリ、ルイン教国の守護天使である!貴国に侵略せし強大な魔を追い参上した。ここは任されよ!』
そう言って灰蛇は、ナフタリの増幅魔法を残存する黒獣の群れに向かって放つ。風魔法に特化したナフタリの魔法は、妖精機を軽々と吹き飛ばす程の巨大な竜巻を生み出し、うねり狂うように黒獣を攫っていく。その光景に王国騎士団の誰もが、どよめきと共に歓声を上げた。
『た、助かったぞ!』
『ルイン教が来てくれた!』
『なんという魔法だ!』
沸き立つ騎士達の姿を見て灰蛇は苦笑した。我が事ながら、酷い道化ぶりである。
「オニキス、聞こえるか」
『あら蛇の坊やじゃない。通信をしてきたって事は、もう終わったのかしら?』
「回数に限りのある簡易水晶だ。当然だろう」
そう、ここまでは須らく順調だった。
主要都市襲撃による陽動、王宮内部に潜入したオニキスの内部工作、そして王都侵攻勢力による危機の演出と、それを救う教国の機体。
大陸随一の軍事力を誇り、大陸随一の人族至上主義たる国家を解体し、ルイン教の主導のもと真の差別なき国家への新生を願い、灰蛇は手段を選ばず奔走してきたのだ。
ついに今日、それが結実する――
『おかしいわねぇ』
――はずだった。
「なに?」
だが協力者であるはずのオニキスは、思いもよらぬ言葉を口にする。
『あの黒獣は貴方如きが倒せるはずないんだけど』
その瞬間、灰蛇は咄嗟にナフタリの大剣を構えるも、横合いから受けた衝撃によって吹き飛んだ。




