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闢発の妖精王1 壊滅編  作者: C先輩
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黒い津波

 フィガロス王国は、オルム大陸随一の資源国家であり、軍事国家だ。肥沃な大地と多くの人口を抱え、まさに大国と呼ぶに相応しい武力と長い歴史を持つ。当然、そのような国に対して武装蜂起する敵など居なくなって久しい。昨今では経済生産力で商国家エビスに後塵を拝し、軍縮を進めて経済立国としての躍進を唱える声も上がる程だった。

 今や武装国家としての側面は、魔物や黒獣の災害等に対して妖精機の部隊が派遣される程度で、魔物の発生しにくい領地に住まう人々に、危機意識というものがあったかどうかは怪しい。


 だからだろうか。


 "黒獣の群れが、王都へ向かっている"――


 その一報を受けた騎士団は、本当に驚いた。

 連絡は、傭兵組合からだった。

 空艇を保有する"船持ち"ではない傭兵は、大型の魔物や黒獣を発見すると組合に連絡し、組合がその情報から所在地の国家や周辺の傭兵団に討伐の依頼を出している。

 本来は組合だけで殆ど処理している内容だ。大型の魔物や黒獣はそれだけで高純度の魔核を保有している証拠であり一攫千金を狙えるお宝に違いなく、その為の妖精機と空艇と、それを運用する傭兵団なのだ。

 ――その傭兵達が対応できない事態が起きた。


 報告を受けた騎士団長マーズは直ちに全軍へ出撃命令を下し、王都郊外に大部隊を展開。

 空艇部隊延べ30艇からなる大船団と、ディナ・シー200機以上を誇る陸上部隊が陣形を汲み、防衛線を築いた。

 侵略国家から辺境の領土を守るべく配備された一騎当千の元素機(エレメンツ)は、他国では国家戦力の大半を占め得る戦闘力を誇る。

 しかしフィガロスの軍事力の要は、そのような単一戦力に依存する不安定なものでは無い。量産された妖精機を、これほど大量に維持し、即座に運用できる潤沢な国力であった。


 "フィガロスに落陽の日は無し"


 吟遊詩人の詩にそんな一節がある。

 時代が代わり、人が代わろうとも、その一代だけで武勇を示した英雄が守る国では無く、長い歴史によって築かれていった王国の盾は、このような凡人達が扱う力の積み重ねだ。だからこそ、続いていく。そんな意味が込められている。


 人々を脅かす危険な黒獣とて恐るるに足らず――華やかな王国の歴史を知る騎士達にとってこの戦列は、まさに自分達を鼓舞する力の象徴そのものであり、世に王国の威光を知らしめるパレードのようなものだった。

 偶の突発的な軍事演習とでも捉えている。そんな騎士達も幾らか居ただろうか。彼らは遠見でいち早く敵集団を発見した空艇部隊が怒涛の砲撃を開始する様を見た。

 爆風が粉塵を巻き上げて視界を一気に埋める。自分達はそこから生き残り、零れ出た個体が居れば始末する。今日の仕事はそういうもの――


『おい――あれ』


 その声は、果たして誰が言ったものだろうか。


『嘘だろ――』


 否、誰もが皆、一様に同じような感想を抱いていたに違いない。

 彼らの眼前には、空艇部隊の妖精機による絨毯爆撃を受けて尚、迫りくる敵が機体の画面越しに映っていた。


 黒――黒――黒。

 それはもはや獣にあらず。

 津波だ、津波がやってきた。

 夥しい数の黒泥が、津波となって押し寄せる。


『ぅぁああぁあああぁあぁあ!』


 恐慌状態に陥った騎士の一人が、待ちきれずに増幅魔法(オーバードマジック)を乱射する。恐怖は伝搬し、瞬く間に戦列は混乱した。


『静まれ!静まれ!魔法はよく引き付けて斉射せよ!魔素を無駄遣いするな!』


 分隊長達が必死に声をあげるが、収拾がつくことは無かった。

 隊列を離れて逃げ出す者、恐怖で立ち竦む者、錯乱して魔素切れを起こすまで魔法を打ち続ける者。

 その混乱をあざ笑うかのように、黒い津波が最前列の部隊を飲み込んだ。



「順調だな」


 黒獣の大群が王都防衛軍に迫る様を、遥か後方から灰蛇達は見ていた。


「灰蛇様、我らが主より通信です」


 船員の一人が灰蛇に近づき、術式の刻印された水晶を手渡す。


『首尾は如何かな?』


 深く、太く、艶のある男の声が聞こえた。


「すこぶる順調です。もう間もなく、こちらも出撃します」


『すまないね君にこんな役目を任せることになって』


「あの数の黒獣を処理するなら、ナフタリの力が必要でしょう。ならば、私がやらねば」


『オニキスは既に動いている。君が救国の英雄となれば、恐らく次に座るのは玉座だ。予定通り計画が進む事を祈っているよ』


「身命を賭して、必ずや」


『ははっ君の命はまだまだ捨て所では無いよ、それではね』


 そう言って、主と呼ばれた男は通信を切る。


「ナフタリを出せ!出撃する!」


 船員達が慌ただしく動き、やがて甲板に一機の妖精機が姿を現した。

 妖精機ナフタリ――赤土色の装甲と、背負った一振りの大剣が特徴のその機体に灰蛇が乗り込むと、獣の咆哮が如き駆動音で魔核が励起する。


『各員、ナフタリの出撃をもって戦線を離脱、本部に合流せよ』


 機体越しに、灰蛇は最後の指示を送る。

 空艇の高度を低空まで降ろしたのを確認すると、灰蛇は機体を走らせて空艇から飛び降りた。


主「妖精機にブースターランスを複数取り付けて、飛んで行ったら速いんじゃない?」

灰蛇「そんな事をするのはただの馬鹿です」

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