フリーフォールキャッチ
なんと!食あたりで数日間寝込んでおりました。
生焼けベーコンがダメだったようです。死ぬかと思いました。
トアン達には隙を見て帰還するよう伝えて一旦別れた。
彼らが今できる事は少ない。
それに独りの方が都合の良い場合もある、今回はそういう時だ。
ウガルの街並みを屋根伝いに飛び越えながら、一隻の空艇へと疾駆する。
大規模な魔法によって地盤を動かした妖精機が乗っていた空艇、そのすぐ下方へだ。
「くそ、間に合うか?」
何故急ぐかと言えば、数秒前に件の妖精機が空艇から吹き飛んでそのまま自由落下中だからだ。
パラシュート降下するような奴が身体をクの字にして落っこちている訳が無い。目視だけで見てもざっと100メートル以上の高度からの墜落だ。このままでは激突してバラバラになってしまうだろう。
大地を目いっぱい踏み抜いて跳躍すると、重力を相殺した自重はその抵抗を一切受けず飛び上がる。続けて自身の足の位置に、素粒子を凝固するレベルにまで圧縮し足場を構築、それを踏み抜いて加速を続けた。
地面まで残り20メートルといった所で、妖精機まで到達した。急制動をかけて装甲に張り付くと、素粒子エンジンの出力を全開にして粒子を放出する。
(――いや重い!)
当然質量が上がれば、押し上げる為に必要な粒子量は上がる訳で、位置エネルギーをふんだんに得た重装甲の妖精機は、フレイの心臓を半分持つこのアバターでも静止させるには至らず、減速させていくのが限界だった。
いや、間に合うはずだ――
「ふんぬぅあああああ!」
確信はあった。とはいえ仕様以上の出力は得られないというのに気合を込めてうっかり叫んでしまった。
――やがて黒鉄の妖精機はドスッと鈍い音を立てつつも、砕け散る事無く大地に横たわった。
サラマンダーと同じ元素機――ドーヴェン。
その機体の状態に驚いた。腹部から胸部にかけての装甲が破砕されて、中のコックピットが覗いている。かなりの重装甲にもかかわらず、重点的に厚みを持たせるであろうバイタルラインの装甲がここまで破壊されているとなると、ただの衝撃を受けた訳では無いように思えた。
いやまさかこのサイズで八極拳をする訳でも無し――
「わ、私は――?」
コックピットから若い男の声がする。パイロットが気が付いたようだ。
「俺の声が聞こえますか?意識ははっきりしますか?どこか痛みは?クラクラしていませんか?」
「あ、あぁ大丈夫だ。そちらは?」
「空艇から落ちているあなたを私の魔法で助けました。シュウと言います。少し衝撃が残ってしまい申し訳ありません」
「なんと、あの高さから落ちるドーヴェンを?あいや、それよりも――」
『おぉ~いなんだよそれ、バラバラになってりゃ簡単に核を奪えると思ったのによお』
突如、背後から大きな反響する声が聞こえる。振り向けばそこに一機の妖精機が居た。灰色の装甲と、槍を背負った細身の機体だった。気怠げな動作で槍を抜いて、こちらへゆっくりと歩を進めている。
「この傷はアレが?」
「ああそうだ!君は早く離れて領主殿のもとへ!黒鉄隊のネスが町の放棄を進言していると伝えてくれ!それまで私は時間を稼ぐ!」
「できる見込みは?」
「無くても騎士にはやらねばならん時があるのだ!」
そう言ってネスが機体を立ち上がらせたので、パックリと空いたコックピットの隙間から中へと入り込んだ。
「お、おい!何をしている!」
「お手伝いですよ」
ネスが気を取られた瞬間、先程までゆらゆらと近づいて来ていた機体が突如鋭い踏み込みで間合いを詰め、巨大な槍をコックピット目掛けて突き込んできた。
〈Slope arm〉
素粒子の壁、それを最小限の出力で最大限の効果を得る概念に基づいて整形する。
槍の穂先はコックピットを貫く事無く、傾斜の付いた見えない壁に阻まれてドーヴェンの首元を掠めていく。
『なに!?』
明らかに動揺した声が聞こえた。瞬間、既にネスは動いていた。事前に打ち合わせがあった訳でも無いが、好機を逃さず構えていたポールアックスで敵機のがら空きとなった脇腹を思いっきり打ち据えた。
華奢なシルエットの妖精機が折れ曲がるようにして横に吹き飛んでいく。だが地面に打ち付けられる直前、器用に側転しながら態勢を立て直して着地して見せた。脅威の運動性だった。
「シュウ殿、今のは!?」
「私の魔法です。私が攻撃を防ぐ前提で、あなたは攻撃に集中して下さい」
ネスは様々な疑念が頭を駆け巡っているようだったが、目の前の戦闘に集中する事にしたようだ。
『そんな能力を隠していたとはなぁ、前言は撤回だ。お前良いぞォ!』
静かに集中するネスとは対照的に、敵機の男の声はヤケにご機嫌だった。
『さあ楽しませてくれ!まだまだ死ぬんじゃないぞォ!』
そう男が叫んだ瞬間、灰色の機体は持っていた片方の槍をドーヴェンに向けて投擲した。




