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闢発の妖精王1 壊滅編  作者: C先輩
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黒鉄を抜き

 黒獣の大群がウガルの町に迫っている――

 それは正に、晴天の霹靂だった。


 平和だった町は一瞬にして怒号入り混じる喧騒に包まれた。

 執務室で第一報を受けた領主のクレイ・ウガル・マルキッツォは驚いたものの、努めて冷静だった。


「黒鉄の皆さんへ直ちに出撃命令を。組合の方は既に動いているはずです。避難誘導中の護衛依頼も併せてお願いします。外壁は第2防壁まで崩しても構いません。食い止めなさい」


 今必要な情報を矢継ぎ早に伝達していく。

 そこに焦りは無かった。

 予想外ではあるが、想定内の事ではあったからだ。


 ウガルの町は北の魔族領に最も近い町だ。魔素の濃い地域が近くに存在する為、魔物だけでなく、黒獣の発生率も比較的高い。北の山脈から西へ行った先にある渓谷には翼竜も棲息しており、空艇の航空ルートも含めて気を遣う危険な土地である。

 騎士の家系で武勇に優れ教養も高く政治にも明るかったクレイは、若くして父の代から続くウガルの地を治める事となる。


 地理的には王国内でもまさに辺境と言うに相応しい片田舎だ。地政学的な視点で見れば、他国の侵略や、魔物の氾濫などが起きた際にウガルの重要度は非常に高い事を、クレイはよく理解していた。

 故に都市防衛という観点に基づく関連事業の税制優遇や、傭兵組合への融資による傭兵団の誘致政策と、危険地域を逆手に取った高難易度の依頼と、それを産業を結び付ける斡旋事業を行った。

 極めつけは王立騎士団への根回しによって、元素機の中でも特に都市防衛に向いた妖精機ドーヴェンを有する部隊、黒鉄隊を常駐部隊とする事ができた。

 これによりウガルの町は、"王国で最も危険な土地にあって、最も安全な町"などと言われるようになった。

 その危険が、ついに訪れただけに過ぎないのだ。


 クレイが商業組合へも連絡を入れようとしたタイミングで、ドタドタと館を走る足音が近づいて来た。

 荒っぽく扉をノックして、失礼します!と大声を上げて入ってきたのは、名の通り漆黒の鎧を纏う黒鉄騎士の者達だった。


「マルキッツォ様!ただいま黒獣の大群による侵攻が発生しております!今すぐ避難を!」


「結構です。自分の持ち場に戻りなさい」


「は?いえしかし!」


「この館まで放棄するような事態では既にウガルが落ちています。それに――」


 机上の羽根ペンを掴んで弄りながら、クレイは続けた。


「あなたがたの隊長は、黒獣程度に遅れは取りませんよ」



「目標群停止!」


 マストの見張りから報告が上がる。

 妖精機ドーヴェンの生み出した岩壁は、黒獣の群れを見事に堰き止めた。


『弩弓隊は空襲警戒。魔砲部隊は爆撃を開始せよ。ウォームタイプを優先して狙え、壁を抜かれるぞ』


 ドーヴェンの担い手、黒鉄隊隊長ネスは拡声魔法によって指示を飛ばす。呼応して甲板で横一列に隊列を組んだディナ・シー達が、抱えるようにして構えた巨大な砲身を用いて火球を雨のように発射していく。

 轟音、爆発と衝撃、荒れ狂う熱波の嵐を巻き起こして黒獣を焼き尽くす。空から襲い掛かる黒獣達も徐々にその数を減らし、先行していた傭兵達も余裕が出来たのか追いついて地上の黒獣へ追撃を加えていく。

 黒泥は蒸発し、腐肉の焼け落ちる異臭が戦場を占めていくと同時に、各々が勝利を確信したその時だった。


「左舷!接近する空艇見ゆ!所属不明!数は1!」


 見張りの声に、ネスは振り向くのと同じくして、一隻の空艇から一つの影が飛び上がる。それはやがて空を飛んでいるのかと思うような凄まじい飛距離を越えて、ネスが乗る空艇の甲板へと"着弾"するように乗り込んできた。

 それはネスも見たことの無い機体だった。華奢な体躯に鈍い灰色の装甲を纏った機体で、背部には2本の槍を背負っている。


『キぃミが黒鉄クンかぁ~良い所だったのに邪魔をするなよなぁ?』


 男の声だ。その機体は粘着質な喋り声で話しかけて来た。


『貴様、この事件の関係者か。大人しく縛につけ、従うなら命は保証してやろう』


『は?』


 ネスの言葉が心底信じられない。そういうニュアンスの篭った反応を示す。そしてソレは突然笑い出した。


『ヒヒ、ヒヒヒャハハハハ!ダメだ駄目だこいつはダメだ!ロゼの奴手応えがあるはずとか言いながらトンだ見当違いだ!まさか王国の連中はどいつもこいつもこんな感じなのか?平和ボケも大概――』


 言いかけて、すぐさま男は機体をバックブリッジさせる。直後、鼻先を巨大な戦斧が横切っていく。ドーヴェンが背負っていた身の丈をゆうに超えるポールアックスだった。


『おいおいおい、貴族サマにしちゃ随分とお行儀が宜しいじゃねぇかよぉ』


 慌てた様子も無く、男はネスに皮肉を込める。

 ネスは男の声に耳を傾けず、更なる追撃を次々に繰り出していくが、その尽くを回避されていく。


(なんだこいつは!?)


 言葉にこそ出さないが、ネスは自分が焦っている事を自覚する。

 ドーヴェンは土の元素機と呼ばれる特別な機体だ。特に元素機の中でも純粋な出力だけならサラマンダーを最強の火力を誇るサラマンダーを上回る。故にその特性を活かして重装甲でありながら、一気に間合いを詰め、専用の極めて重いポールアックスを軽々と振り抜く。その威力たるや、数々の大型黒獣や魔物を仕留めて来た。

 地形に干渉できる固有の増幅魔法(オーバードマジック)と併せて、対多数戦も得意とし、その武勇は他国にも警戒される重要戦力の一角を担っている。

 それを操る黒鉄隊のネスもまた、魔法騎士として秀才と評され、その実直さが評価されドーヴェンを賜った経緯を持つ。


 油断はしていない。

 慢心もしていない。


 だが――


『あらよっとぉ』


 ドーヴェンの連続攻撃を縫うように懐へ潜り込んだ男の機体は、独特の構えから掌底を放つ。それはドーヴェンの腹部へ吸い込まれるように命中すると、ガラス細工を砕くようにして厚い装甲を打ち砕き、大質量であるドーヴェンを吹き飛ばした。

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