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闢発の妖精王1 壊滅編  作者: C先輩
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騒乱の始まり

 広大なガリア平原を一隻の空艇が征く。

 甲板では、煤を被ったように薄汚れた外套で身体をすっぽり覆った男が、眼下に広がる光景をじっと眺めていた。


 それは黒い海。

 自分達の組織が研究し、生み出した禁忌の軍勢――即ち、黒獣の群勢だ。


「お~やどうした蛇ころ。可愛い娘でもあの中に居たか?」


 そこへ特徴的なカールをした茶髪の男が話しかけて来た。両脇にはフードを目深に被った連れ人が2人控えている。


「カフカ」


 蛇と呼ばれた男にカフカと呼ばれ、男はウフウフと高い笑い声をあげてスキップをしながら甲板を歩く。


「もしかして灰猫ちゃんの事でセンチになってたかぁ?そう気を落とすなって俺様もとぉ~っても悲しいんだ」


「自分で殺したのに――」


 連れていた一人が声を発すると、スパンッと音が鳴りその男の声が途切れる。直後に硬くて丸い物体が甲板にゴトリと落ち、その一帯は血溜まりの池となった。

 カフカは首が無くなった男に近づき、血の滴る直剣を持たぬ左手で胸倉を掴む。


「おいオービス22!何を死んでいる!首が落ちているではないか!誰がやったぁ!?」


 揺さぶり、首元から吹き出る血の噴水を浴びるカフカを見て、もう一人の連れ人が言う。


「カフカ様ですって」


 目にも止まらぬ剣閃がもう一つ血溜まりを増やす。


「あぁ!この世はなんて残酷なんだ!命とはどうしてこんなに脆いんだ!」


「茶番をしに来たのか」


 その凄惨な光景に蛇と呼ばれた男は微動だにせず、淡々と告げた。


「ったく俺なりに慰めてやったというのに薄情な奴め!」


「不要だ。灰猫は使えなかった、それだけだ」


「ふぅん?」


 顎をしゃくるように蛇を覗き込んだカフカは、やがて薄笑いを浮かべながら踵を返す。


「まなんでもイイのよ結果が出れば。仕事ができてれば君はじゆう~に出来る」


「問題無い。そちらも抜かるな」


「キャー!怖い蛇さんに睨まれちゃう!じゃ俺ちんは役立たずのケツ拭きをしてきますわよん」


 白々しい悲鳴をあげて、カフカはその場を後にした。


「狂った道化に殺されるか、お前らしくもない」


 蛇は誰も居ない空へ呟いた。



「黒獣だ!黒獣の群れが攻めて来ているぞ!」


「妖精機出せ!行ける奴から攻撃に向かえ!」


「王立騎士団は何してる!?間に合わんぞ!」


 "大量の黒獣が押し寄せてきている"

 見張りから告げられた情報によって、ウガルの町はたちまち大混乱に陥った。


 すぐに動いたのは傭兵達だ。空艇と妖精機を保有する傭兵団が空へ上がり、迫りくる黒獣達へ向けて魔法による爆撃を繰り返す。

 だがそこへ、翼を生やした無数の黒獣が殺到し妖精機達はその対処に追われて掃討が進まない。

 妖精機だけを持つ傭兵が、ウガルの高い外壁の上から火球魔法を投射し続けているものの、大型の黒獣達には致命的なダメージを与えられないでいた。


「それで、どうするんだ?」


 黒獣の襲撃、その報せを聞いて一度バルカンが隠れている宿へ戻ってきた。

 本来ならばバルカンを回収してダグの町へ戻る所だ。しかし帰路には黒獣の大群。依頼主のご意向を仰ぐという意味合いで投げた問いに、トアン達は表情を暗くするばかりだった。


「俺を置いていけば北の山脈から迂回して帰れる。お前達は行け」


 最初に口を開いたのはバルカンだった。やたらと自己犠牲の精神に溢れている。


「馬鹿な!北には氷竜がいるんだぞ!」


 氷竜、その呼び方からして、空艇を襲うという翼竜とは別の――あの銀竜のような存在だろうか。成程それなら無理というのも頷ける。


「じゃあどうするんだ!何ならさっきの場所を掘り返して隠れてるってか!?」


 叫んだせいで腹が差し込んだのか、バルカンは顔をしかめる。


「バルカン、問題ないよ」


 それを宥めたのは、センだった。


「ここはフィガロス王国の要所。当然常駐している騎士団の部隊も精鋭。黒鉄隊の妖精機、太祖ドーヴェンを筆頭に、数十機の妖精機がいる」


「なるほどドーヴェンか!確かにアレが居るなら――」


 センの言わんとする事をトアンが理解したような口を開いた時、信号ラッパ(ビューグル)の音が町中に鳴り響く。

 音の発信源はすぐに分かった。港から大型の空艇が一艇、やや低空気味に外壁の外へその音を鳴らしながら進み出る。

 その船首には大きな人影が一つあった。その巨大なシルエットは、遠目から見ても妖精機と一目で分かる。


「噂をすれば、だな」


 妖精機ドーヴェン、サラマンダーと同じく高性能で強力な魔法を使える特機という事か。

 一体どれほどのものかと眺めていると、その人型のシルエットが手を振り上げた。


 ――直後、大地が絶叫する。


 大地震でも起きたかのような地鳴りだ。ウガルの町に迫りくる黒獣の群れは、横一線に大きく陥没した大地に進行を止められた。ただ陥没したのではない。その土は、無くなった分がそのまませり上がり即席の城壁のように黒獣達に立ちはだかった。

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