エルフの戦士を連れて
竜の谷の脇を抜けて、木々が生い茂る獣道のような悪路を疾走する。
同行者はエルフの戦士が3人。トアンとバルカン、そしてセンと名乗る小柄なシンカーエルフだった。
なんだかしりとりに弱そうな名前が多い。そういう風習だろうか。
向かっているのは、昨日グレートウォームの襲撃を起こした者と思わしき人物の根城だ。セン達隠密行動に長けたエルフ達がその場から離脱する気配を追跡して辿り着き、持ち帰った情報を元に追撃を行う事となった。
「ふん、気に入らねぇ」
そういって唾を吐いたのは、軽鎧に身を包み、長槍を背負ったバルカンだった。
「バルカン、お前まだ――」
同じく装備を固めたトアンが、眉を顰めて続ける言葉をバルカンは遮る。
「勘違いするなトアン!俺はシュウの戦闘力を既に認めている。気に入らねえのは、この森の中を俺達よりも涼しそうな顔をして普通に併走できてる事だ!」
そう、バルカン達エルフは森林における機動力が抜群に優れていた。それこそ、平野を駆ける馬が如しだ。障害物となる森の木々をむしろ足場として利用し、三次元的に駆け抜けていく。
この身体は素粒子エンジンによる高速機動は可能だが、流石に見知らぬ立体フィールドで彼ら同じような事を単独でやれと言われてできるはずも無い為、自分はトアンの通っていくルートを素直にトレースして居ただけなのだが、バルカン的には癪に障るのだろう。
「私はいい、長が使えるって言ってるんだし」
そのバルカンの脇を駆けるセンは、淡泊な反応だった。
小さな体躯を黒い外套とターバンですっぽりと包み、青白い肌と紅い瞳、ターバンから見えている僅かな銀の髪だけが特徴の、まだ幼ささえ感じる少女の声を持つエルフだった。
「まぁまぁ、ちゃんと仕事はするから安心してくれ」
ダグの町を治めるエルフ、リヨースに依頼されたのは、彼らが追う組織に充分な損害を与えるというものダグの町へ辿り着く同胞達には、明らかに人為的と思わしき黒獣の災害によって里を失った者も多いらしく、その黒幕をリヨース達も探っていたのだという。
そうしている間に、ついにダグの町が敵組織と思わしき勢力に補足されたが、逆にこちらも尻尾を掴むキッカケになったという事だろう。
とはいえ相手はグレートウォームさえ使役する組織。正面から妖精機を伴って攻め込んでも苦戦は免れず、首魁には逃げられる可能性さえある。
そこに現れたのが自分という訳だ。隠密のセンは兎も角、エルフの戦士達は森での防衛線には長けているが、こういった作戦はあまり経験が無いのだという。故に正面切っての戦いでも相当な実力を持つ為に同行しているバルカンとトアンを除いて、他の戦士達はお留守番だ。
行軍速度を優先して魔物は殆ど無視したが、森を抜ける直前で遭遇したワンダリングボアを仕留めて、食事休憩を取った。
仕留めたのはトアンだ。体長2メートルはあろうかという大物だったが、風魔法によって一気に加速し懐へ飛び込むと、ジャマダハルのような刺突武器を手に渾身の打突を繰り出し即死させた。
バルカンとトアンは手早く放血し、携帯していた縄で足を括り樹に吊るす。センがその脇で集めてきた木枝を組み、徐に短剣を取り出してそれに翳す。
「"トーチ"」
短剣の穂先から、蝋燭の火のような火の玉がボゥと点く。あれは魔法を使う道具だろうか。センはそれを木に近づけて焚火を作る。
「ねぇ」
その様子をぼーっと眺めていると、センに話しかけられた。
「すまん、何か手伝うか?」
「いい、それよりも教えて」
「何をだ」
「あの妖精機、どこで拾ったの」
「ああぁ――」
リヨースに深く追及されていないから忘れていたが、そういえばフレイは妖精王の遺産と嘯いていた。
セン達が帰還後、リヨースが説明した時には懐疑的だったが、工廠で確認したセンが戻ってくると、急に大人しくなり同行にも賛成してくれたので、納得したのかと思ったが、そうでもないらしい。
「あれは確かに王の――竜の気を纏っていた。そんなものを何故あなたが持っていて、使えるの?返答次第では――」
スッとナイフを構えるセンを、しかし後頭部を叩いて止めたのはバルカンだった。
「セン、無駄な事はよせ。俺に組手で1本も取れないお前が、こいつにどうこうなどできん。それに――」
そう言いながらバルカンは地面にどかっと胡坐をかいて座り、膝に肘を当てて掌に顎をつける。
「我らが祖の遺産というなら強い奴が持つべきだ。それが悪党で無いなら、俺はなんでもいいぜ」
「俺は悪党では無いのか?」
「悪党なのか?」
無茶苦茶な不躾さだが、極端なまでに単純で腹に一物を抱えない態度は好感が持てた。シンプルなのは大切だ。
「独善を語るつもりは無いが、ちゃんと君達の協力はするし、君らを害するつもりは毛頭無い」
「じゃ1個だけ聞かせろ。お前の、ヒトとしての短い時間で成し遂げたい事はなんだ?」
最強の証明――
咄嗟に浮かんだ言葉を、しかし飲み込んだ。
それはEL.F.乗りとして、或いはビルダーとしての夢。だが銀竜との死闘を経た今、それは一定の充足感を得られている。
それよりも、この自然溢れる不思議で貴重な体験を無駄にしたくないという思いが、今は強くあるからだ。
少し考えて、答えた。
「旅をして、人と沢山出会って、美味い飯を食って、一日でも多く、気持ちよく寝る日を増やす事だな」
生身で追いつけないアシュリーもお留守番です。




