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闢発の妖精王1 壊滅編  作者: C先輩
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魔女

寒くて部屋を閉め切っていたらいつもウトウト眠くなっていて、なんでだろうと思ったら、

二酸化炭素濃度がえらい高くて、酸素不足になってたんですね。

 首都フィガロの王城、その朝は早い。

 ランタンを持った見張りの兵士が日の出より早く訪れ、厩舎では馬の世話をする世話役が既に走り回る音がしている。

 マーズはその様子を城内の廊下にある窓から一瞥すると、自らもランタンを片手に歩み出す。やがてひと際豪華な扉の前へ歩み寄ると、そこへ控えていた侍従が頭を下げる。


「おはようございます。閣下」


「王は起きておられるか」


「はい、ですが――」


 言い淀む侍従に事情を察してマーズは手で制止し、扉をノックした。


「陛下、失礼致します」


 返事も待たずマーズは扉を開ける。否、返事など来ないであろう事は予め分かっていた。

 部屋に入ると、マーズの鼻孔にムワっとした熱気と、ツンとした匂いが突き刺さる。マーズは僅かばかりに顔を顰めると、匂いの発生源へと向かった。


 ――まるで獣だ。


 それは死臭だと感じた。マーズがかつて凶悪な魔物達と死に物狂いで戦った時に感じた、獣の発する()えた匂いにどこか似ていたのだ。


 巨大なベッドの上に居たのはフーッフーッと鼻息を荒げ、汗をまき散らしながら、体重をかけて一心不乱に馬乗りになってナニモノかを何度も殴打し、時折奇声を発して腰を振る一人の獣だった。

 歪んだ欲望を吐き散らす獣にマーズは膝をつき、呼びかける。


「陛下」


 おおよそ華美な装飾の施された王の寝室には不釣り合いな光景を作り出していた張本人、フィガロス・クロル・ロスマエルは糸が切れた人形のように動きをピタリと止めると、ぬぅっとマーズへ振り向く。


「何故邪魔をしたマーズ、死にたいのかね」


 恰幅の良い腹回りからは想像もできない程にギョロリと迫り出た眼球に睨まれながら、マーズは淡々を答えた。


「ご判断を仰がねばならぬ事態が起きました故」


「待て、せめて2、いや4刻は待て、今夜通しコレを壊し続けて、ようやく至れそうなのだ!あの愉悦は何物にも代え難い。ぉ?ォオオオォォォオオォオオアアアア!?」


 喋り続けていたフィガロス王は突然ガクガクと痙攣を繰り返したかと思うと、力なくベッドに倒れた。ベッドの中原には、ジョロジョロと生暖かい染みを作りながら。

 それを見るや、フィガロス王に組み敷かれていたものが起き上がる。

 それは女体だ。マーズはソレを女性とは決して称さない。女の皮を被った人外、移ろわぬナニモノかであると知っているからにして。


「んふ、今日も素敵でしたわ陛下」


 乱れた黒髪を書き上げ、汗まみれのフィガロス王にそっと口づけをしたソレは、ベッドを降りるとシースルーのカーディガンを一枚羽織り、今しがたフィガロス王を狂乱させていた魔性の肉付きを隠そうともせずマーズへ歩み寄る。


「それで話というのは?」


 王が倒れるように眠り、先程まで王に顔が変形するほど殴打され続けていた者、そんな事は微塵も感じさせない存在感。王国の民ですらない者が騎士団長の報告を促す。その異常な光景にマーズは何も言わず、淡々と報告を行う。


「白騎士隊を助けた例の機体ですが、サラマンダーと共に北の山脈へ向かいました」


 マーズの前にツカツカと歩み寄ったソレは、ゴュと鈍い音を立てマーズの頭を踏みつけた。


「っオニキス――様」


「あなた、コソコソと色々やっているようだけれど、大概になさいな」


 マーズは激痛を堪えながら言った。


「何の、事でございましょう」


「ガーランドの娘と黒騎士」


 マーズは思わず唾を飲み込んだ。


「理由を作ってサラマンダーをスーン家に移譲させて使えるようにした所までは良かったわ。でもアテが外れたからって、今更お気に入りを逃がしたのかしら?もしかして、あの妖精機に何か期待でもしてるの?」


「決してそのような」


 オニキスは踏んでいた頭部を横から蹴り飛ばすと、大柄なマーズの身体がもんどりうって転がった。そして呻くマーズに続ける。


「我々がそれを見逃しているのはあくまで大業の前の些事だからよ。お判りになって?」


 オニキスの言葉に、マーズが返す言葉も、力も無かった。

 それは事実だからだ。


 曰く、この国の民は家畜なのだという。

 落ちぬ太陽の国と呼ばれたフィガロスは、中枢にさえ入り込む組織と、王を狂わせる傾国の魔女に掌握されていた。

 気付いた時には手遅れだった。

 表向きは何ら国に不自由の無い政が行われ、そこに武装蜂起をし得る大義は無い。

 むしろ良政だ。彼らの静かな侵略を受け、フィガロスは税制面の負担がグッと下がり、貴族派の力は弱まった。国民の暮らしは楽になり、流通が増え、より多くの国から人やモノが往来するようになった。

 民は日々の平和を謳歌し、豊かな実りを享受して太っていく。それこそが、彼らの狙いだったのだ。


 収穫の時は近い――


 オニキスはそう告げた。

 恐ろしい魔女の収穫祭が始まろうとしていた。



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