青き稲妻の戦士
あけましておめでとうございます。
竜の渓谷を抜けた先にあるシンカー達の隠れ里。エルフにありがちな森の里では無く、山脈内に続く大空洞のひと区画を開拓したそれは、里というには程遠い、一つの町としての形を成していた。
辿り着くには洞穴の入口付近を陣取る翼竜達を殲滅するか、隠された入口を見つける他無い。
「やぁっと見つけましたわ、んフフ」
故にソレを見つけた時、灰猫は小躍りしそうになる自分を抑えるのに必死だった。灰色のサーコートを纏い、岩壁の上に立ち見下ろす先には、小さな森林地帯と、岩壁に空いた洞穴。そして小さな櫓とそこに立つシンカーのエルフが居た。
「皇帝サマがもっとチョロかったら楽だったんですけど…」
灰猫が担当していた任務は帝国側の制御。中立地域に程近い王国領にて、黒獣の発生に呼応して帝国側の介入による制圧と事実上の占有を成功させる。黒獣との戦闘で王国主力の妖精機部隊が大きな損害を被れば尚良し。これで帝国は灰猫達の組織を認め、影響下における予定だった。
だが結果はご破算も良い所。皇帝の不興を買うだけでなく、用意していた黒獣も、ファームごとやられてしまった。積もる所、大赤字である。
「あんなのが居なければねぇ」
計画は大きく修正を余儀なくされた。原因は戦場へと乱入してきた空を飛ぶ妖精機。正体は掴めず、足取りも追えない謎の機体。ただ一つ分かっているのは、圧倒的な戦力によって妨害される可能性があるという事のみ。
正体が分からない以上対策のしようが無い。足取りを追う事は別の者に任せて、灰猫は失った手勢を補充すべく奔走していた。
その一つがこれだった。シンカー達の密漁である。
平原の森林地帯にある小さな村では良質なコア持ちは殆ど居なかった上に、例の機体に再び邪魔をされてしまって収穫が無かった。
やはり横着はいけない。面倒でも期待値の高い場所を最初から狙うべきだったと、灰猫は反省していた。
「ンッフフフ、シンカーちゃん。アナタたちの事はいじらしくて好きよ、真面目すぎてその力を使えない所なんか特に。だからその命は私達が大切に使ってあげるわ」
そう言って灰猫は、小さな笛を思いっきり吹く。
それは魔笛、音は無く、風切り音一つ立てぬそれが響かせるのは魔素の共振。ヒトならざるモノにのみ聞こえる旋律が、調教された怪物を呼び寄せる。
その瞬間、エルフ達はすぐさま鐘を叩いて異常を知らせ始めた。勘が良い訳では無い、魔素を響かせる魔笛。人間には聞こえずともエルフにはハッキリと認識できたのだろう。
「流石ね、でも気付いた所でどうにかできるかしら?」
ソレは地響きと共に、岩壁を突き破って現れた。
重篤な魔素中毒によって黒獣化したグレートウォーム、予め保護術式を脳の一部に施す事で、狂乱しながらも一定の命令を判断できるように調整したおぞましき生体兵器。
(行け、潰しなさい――)
灰猫が再び命令の魔笛を吹いた瞬間だった。
「あら?」
洞穴から一機の妖精機が現れた。華奢なコバルトブルーの機体だった。
『参る!』
凄まじい速度と身のこなしでグレートウォームに接近すると、両手に構えた短剣をズブリと突き刺していく。
「まぁ速い、でもそんな程度じゃこの子は――」
『水よ!大気よ!汝は雲、荒れ狂う雷雲なり。点は天を衝き、一筋の閃を持って光を走らせよ!ライトニング・ストライク!』
「あら?」
妖精機は、グレートウォームの超高速で迫りくる触手を回避し続けながら、詠唱付きの魔法を発動させて見せた。それも雷、複雑な複合魔法だ。まさに光の如き速さで、それはグレートウォームに突き刺さった短剣目掛けて飛来した。
爆発のような轟音が遅れて響き渡る。グレートウォームは纏っていた黒泥を吹き飛ばされ、胴体は突き刺さった短剣の位置から弾け飛び、ピクリとも動かなくなっていた。
(概念化の難しい工程だけを絞った詠唱、それだけ機体術式の完成度が高いのかしら、随分と強い門番ね、それでも――)
灰猫は笑みを浮かべて別の魔笛を取り出す。
「あんなものを倒せるぐらいじゃ、私は――」
言い切ろうとした灰猫を遮るように、1羽のピポットピジョンが舞い降りた。足には連絡用の記録用魔石が括りつけられている。
「もう、今良い所なのに」
急いで魔石を取り出して魔素を込めると、記録された音声が再生された。
『灰猫、そちらにサラマンダーが向かっている。我々の足取りを掴まれているかもしれん』
今度こそ、灰猫は目を見開いた。
サラマンダーといえば、妖精王と名乗った例の機体が無傷で鹵獲した冠位の機体である。それが動いているとなれば、妖精王と名乗る者の手勢であることは間違いない。
『今すぐそこから離脱しろ!例の機体も潜伏している可能性もある。狙いが我らだとすれば、今尻尾を掴まれる訳にはいかんぞ』
(んもう!)
灰猫はピポットピジョンを飛ばすと、風魔法をかけながら全速力で駆け出す。
(一体何者?動きからして私達の敵対勢力なのは間違いないけど、まるで背後が見えない――)
いつの間にか先手を取られている感覚。
灰猫は腹の底から湧き上がる不快感を抑えながら山を下って行った。
書いている時のコンディションが悪いと、プロットだけをなぞった骨組みストーリーみたいなものが出来上がっていて、あとで見直すとうげってなっています。
整形したい欲が凄いけど、話が進まないのでまずは進めきる事に集中したいと思います。




