エルフの里へ
アイリス「なんで馬も持ってきてるんですか?」
シュウ「本物の乗馬って憧れてたんだよね」
拓かれた森の一角、かつてヤリン達のような青く暗い肌色と透き通る銀の艶髪が特徴のエルフ達が暮らしていたという集落は、無残な姿へと成り果てていた。
「これは、酷いな」
残存する敵が居なかったので、ガスパルと一緒にヤリンの仲間達を探したが、生存者は無く、惨たらしい遺体だけが見つかった。
ヤリンの両親も探したが見つからなかった。何せ遺体が判別が付かないほどの焼死体や、妖精機に圧し潰された肉塊が多く、人物の特定が不可能なレベルだったのだ。辛うじて判別できる遺体の中から見つけられなかったという事は、つまりそういう結末をご両親は迎えたのだろう。
「すみません、ここまでして頂いて」
埋葬をガスパルと手伝うと、ヤリンが深々とお辞儀をして謝意を伝えてくる。顔を上げると、その表情は先程より随分とやつれているようだった。
「助けられなくてすまなかった」
「大丈夫です。いえ、ちょっと堪えてるかな…でも元々望みは薄かったですし、王様ここまでして頂いてむしろありがたいというか…」
ヤリンは結局、王様と呼んでくる事を止めなかった。そもそもエルフですら無いのだが、彼女がどうしても譲れないと言うし、多少背中が痒くなるぐらいで実害は無いので好きにさせた。
〈アイリス、何か分かったか?〉
〈アシュリーさんがまだ周辺を走り回っていますが、敵生勢力と関連するものは見つかっていません〉
〈痕跡ごと踏み潰しているような気もするんだが…まあ、戻ってくるように伝えてくれ〉
〈承りました〉
面倒な話になってきたような気がする。
タイミングといい、先程の連中はヤリンを追っていた勢力と同じでは無いだろうか。人攫いがエルフを狙うなら、これほどの殺戮を犯すとは考えにくいし、ヤリンが戻ってくるのを期待して待ち伏せていた可能性もある。
「ヤリン、君が狙われる理由に心当たりはあるか?」
「あ、えっと――」
ヤリンに問うと、急にしどろもどろになり、挙動が怪しくなった。心なしか顔まで赤らんでいる。
「終わったぞヤリン、ん?なんじゃ一体」
そこへ集落の納屋から拝借した鍬を担いだガスパルが、残った作業を終えて歩み寄ってきた。
「ヤリンが狙われる理由を聞いていたんだ」
「あ~、成程の。ヤリン、恐らくあいつらは妖精機の核を狙っておったんじゃないか?」
「た、たぶん――」
納得顔でガスパルがこちらへ向き直る。
「そうか。おいシュウ、この子はな、恐らく強力な妖精機を生み出す為の素材として狙われておるんだ」
「なんでだ?」
「やはり知らんか、要するにサラマンダーに近い性能の機体を作り出せるという事よ」
ガスパルは簡単に原理を説明してくれた。
本来の妖精機は、エルフが昇華という儀式を経て、その姿を核に変えたものを動力源とするが、現在の量産機は、魔物の体内で魔素が濃縮された核を利用している。これはシンが無い状態と言われ、出力的には劣るが、代わりにエルフの残留する意志に影響を受けず、相性問題が発生しない事から、軍用兵器としての信頼性にも繋がっているという。
そして重要なのは、不純物の少ない、若いエルフの核というのは加工がしやすく、同様の製法で妖精機の主機にしてしまえるという事だ。
つまり――
「ヤリンを魔物と同じ製法で妖精機に組み込むと、シンが無いのに高性能機になる?」
「胸糞悪い話だがそういう事だ」
想像以上にヤリンは要人だった。
「ヤリン、君はこれからどうする?」
「――分かりません」
ヤリンはそう答えて、続けた。
「本来なら、エルフの部族が数を減らした場合、別の部族に身を寄せるのですけど、私はシンカーなので…」
シンカー、ヤリンのような肌色を持つエルフ達の総称で、扱う魔法の体系を表す言葉でもあるという。
「帝国領に近い森は、リンカー達の森なんです。でも彼らはシンカーをとても嫌っていますから」
「ふん、確かに奴らはかつてその身を犠牲にして人類へ貢献をしたが、今は自尊心が高いだけの、いけ好かん連中じゃ」
ガスパルまで毛嫌いしているリンカーは、白い肌と黄金の髪色を持つエルフ達らしい。やっと想像していたエルフが出て来たようだ。
「ガスパル、そこで機体の修理は?」
「流石に無理じゃろ。むしろヤリンを助けたのは嫌われる要素になってしまうぐらいじゃ」
やはりそうなってしまうらしい。
「ヤリン、他にシンカーの里は?」
「あるにはあるんですけど、辿り着くのが困難でして」
「一つは呪海じゃろ」
「ジュカイ?」
「ヱビスより更に向こう、魔素の汚染地域が多くて黒獣がウヨウヨおる地域よ。まさに呪われた樹海じゃ」
なるほど呪海である。
「私達は魔素が濃い場所でも暮らしていけますし、シンカーの戦士は黒獣とも戦えますから。そのせいで黒獣もどきとか言われるんですけど…」
シンカーはその体質上、魔素の汚染とやらに強いらしい。皮肉な事に、それが人種差別の引き金になっているという事でもあるようだ。
「具体的な場所も、ハッキリとは知られて居ないんです」
「もう一つの場所は?」
「あ、いやアソコは一応分かるんですけど、もっと…そもそも辿り着けなくて」
「まさか、山か?」
ガスパルの声に、ヤリンは少し躊躇いがちに頷き、おずおずと口にした。
「北に並ぶ山脈に、竜の渓谷と呼ばれる場所があります。その先に、四方を山に囲まれた小さな森があるんです。そこに彼らは暮らしています」
突然出て来た竜、という単語に心拍数が上がったのが分かった。
「確かに、辿り着けさえすれば、一番期待できる場所じゃな」
「ヤリン、そこへ案内してくれ」
迷う要素は無かった。ガスパルの言う期待とはまさしく、フレイの修理という意味であるからして。
アシュリー「馬は叔父さんが乗ること多そうだし、名前つけてあげなよ」
ガスパル「ふうむ、じゃあモモかの」
アシュリー「モモ!?」




