ガスパル
実は先週、投稿する予定だった22話を完全に忘れていまして、急いで書き直しておりました。
一週間遅れになってしまい申し訳ありません。
陽が落ちたコーンロウの裏通りを、ランタン片手に突き進む。
隣には先程宿で襲い掛かってきたアシュリーと名乗る女騎士が、ふくれっ面で付いてきていた。
「アシュリーちゃん、彼をガスパル叔父さんに会わせてあげて。きっと助けになってくれるわ」
宿のオーナー、ルクレツィアから言われたその言葉で、急に大人しくなった。オーナーとそのガスパルという人物の関係性は謎だが、この騎士サマの叔父に対する重要度は高いのだろう。不満気な態度をまるで隠せていないながらも素直に道案内をしてくれている。
向かっているのは、日中足を運んでいた工廠が立ち並ぶエリアから、少しだけ外れた職人街と呼ばれる通りだった。
「ねぇ」
女騎士、アシュリーが唐突に話しかけてくる。
「何か?」
「さっきの話、あなたは心当たりがあるのかしら?」
「無い。そもそも君の叔父とやらが何者かも知らん」
素直に話に乗ったのは、僅かでも妖精機に関連する情報を得る為でしかない。
そもそもの話、オーナーはこちらの情報をぽっと出の傭兵で、モズの話から少し腕が立つというぐらいしか知らないはずだ、妖精機に興味がある事は話しているが、まさか新米傭兵が実際に妖精機の技師を探している等とは思うまい。
「一応説明しておくと、昔ガスパル叔父さんは妖精機の天才技師と呼ばれていたわ、でも今は不当に罪の烙印を押されて技師としての資格を褫奪されたの」
「おっと、そうか」
ドクンと血流が早くなるのを感じた。興奮からというより、都合が良すぎるという本能的な警戒からだが。
「今は、昔の人伝に小さな工場で機体部品の製造をしてるわ――ほら、あそこが家よ」
工業地帯で働く職人達が詰めているのであろう、石造りの長屋の一角にある部屋をアシュリーが指し示した。つかつかと歩み寄り、そのまま手早くノックをして中へと入っていく。
「あ、おい」
慌ててついていくと、中はコンパクトな家具が置かれた質素な部屋だった。
「こんばんは叔父さん、私よ」
中央のテーブルにはゴワゴワとした髭を顎に蓄えたやや背の低い男が酒瓶を片手にラッパ飲みをしていた。この男がガスパルだろう。
「ぁあ?なんじゃアシュリーか、まだ生きておったかこのじゃじゃ馬娘が」
随分な言い様だ、仲は良くないのだろうか。
「叔父さん、また工廠の人達と喧嘩したって通報が来てたわよね、これで何回目?腕は良いんだからもっと折り合いをつけてよ。今度仕事を干されたらどうするつもりなの?」
「俺は手緩い仕事なんざしたくはねえだけだ。安物を作りたいならそういう人材を充てろ、俺は俺のできる最高の仕事ができればなんでもいいんだよ!」
「だからそういう環境自体を失う事になるんじゃない!」
「うるせえ!おめえも男なんざ連れまわしてチャラチャラしやがって、俺の反対を押し切って聖騎士になった割りに随分と遊んでるみてえじゃねえか」
「ちょっと!こいつはそんなんじゃ――」
話が愉快なこじれ方をしそうなので、そろそろ割って入ろう。
「初めまして、名匠ガスパル。彼女は先程宿屋で知り合い、斬り付けられたばかりの間柄だ。誤解のなきよう」
「待って、別にあなたを斬ってはいないじゃない!」
「それは君が弱いから斬れなかっただけだ。少し黙っていてくれ」
「ぐぅっ」
驚いた、本当にぐぅの音を上げる人間がいるとは。
「面白いアンちゃんだな、名前は?」
「シュウです」
「おう、ガスパルだ。で何の用だ?この馬鹿娘の小言が用件じゃあるまい」
「妖精機に関して力を貸して欲しいのだが、ルクレツィアさんからあなたを紹介されまして」
「断る」
素っ気ない返事だった。
「理由を伺っても?」
「見たところフリーの傭兵か?てぇことはジャンクのディナ・シーでも手に入れて個人で修理して欲しいって所だろうが、例えアイツの頼みでも俺はあんなガラクタを認めねえし、そもそも触るつもりがねぇのさ」
そう言ってガスパルは酒瓶をグビグビと飲んでいく。ただの酔っ払いかと思ったら色々と観察すべき所は見ているし、何だかんだ説明もしてくれるあたり、根が良いのだろうか。
何にせよ、オーナーには感謝しなければならない――
「ははっ、その点は心配ご無用です。良い機体なんですが、扱える人が居ないもので」
途端、ガスパルの眼つきが鋭くなる。
「おいお前、どこの国から来た。フィガロスの馬鹿共ならこんな事しなくても厚かましく元素機の整備を要請してくるはずだ。言っておくが、例え今の国が腐っていようと敵国の機体まで整備したりはせんぞ」
変に警戒されているようだ。というか機体は道具なのだから、敵も味方も無いだろうに。
「この国を害するつもりは毛頭ない」
「その保証がどこにある」
――駄目だ面倒になってきたぞ。
そもそもテコでも動かない人間を今の俺は強制的に動かせるのに、何故手間暇かけて説得しているのだろう。
そんな風に思ったのがいけなかった。
「はは!そんなものある訳無いだろ、あんまりくどいとぶっ飛ばすぞ」
直後、場が凍り付いてしまったのを感じ取る。ウィットに富んだ軽口を日頃から嗜んでいないせいだ。
「表へ出な」
綺麗に誤解したガスパルが壁に欠けていた身の丈ほどのハンマーを担いで部屋を出ていく。
お話し合いは失敗らしい、今度からジョークの研究もしなければ。
やっと美女が登場したと思ったら、蚊帳の外気味、ちょっと哀れ




