紛糾
サイドストーリー 王国編
ガリア平原の最も広大な土地を領土とするフィガロス王国の首都、フィガロ。その王城にある会議室では、ここ数年は誰も聞いたことが無いような怒号が飛び交っていた。
「一体どうするというのだ!」
「スーン家は何を考えておるのか!」
「そもそも白騎士の容疑は――」
「そんな事より元素機だ!奪われたとは何事か!」
彼らは帰還した聖騎士隊長デナン・スーンの報告に戦慄した。
それは民衆の支持が厚い白騎士隊の国家反逆という容疑。そして拘束の為、妖精機部隊という事を考慮し、万全を期してスーン家が継承せし元素機の冠位を持つ妖精機サラマンダーを投入するも、第三者の介入により失敗。サラマンダーは鹵獲されてしまったという内容だった。
「にわかには信じがたい内容だ」
喧噪の中、一人の男が声を発する。途端、場は静まり全員の視線がその男へと注がれる。男は軍服に身を包み、テーブルに肘を当て、蓄えた顎鬚を撫でつけながら報告書を眺めていた。
フィガロス王国騎士団長マーズ・グライスラー。フィガロスの軍部における最高司令であり、今回の事件における責任者でもある。
当然、諸侯達は説明を求めた。
「グライスラー卿、此度の件、秘密裏に聖騎士隊を動かしたにしては事が大きすぎるようですが、その意味をご理解されておられるか?」
「無論だ」
妖精機は国家の軍事力を指し示す重要な戦力の指標だ。中でも元素機と呼ばれるような特機は、その1機だけで戦略規模がガラリと変わる代物である。それを所属不明機に鹵獲されたとあっては、ただの失態どころでは無い。
「だったら――」
「だったら私が責を取ってこの席を空けろとでも?元素機を軽々といなし、単独で飛行し、空艇を片腕で宙に浮かせて吹き飛ばす妖精機が、人知れず我らフィガロスの領土へ侵入し、暗躍しているこの最中にか」
デナン・スーンの引き起こした失態の責任を追及したい諸侯達は押し黙る。当然だ、今回の会議はマーズの責任問題というスケールでは到底収まらない事態に陥っていた。
マーズは続けた。
「報告から数日、各地の諜報員、並びに騎士達からの不明機に関する目撃情報は無い事から、表立った行動は無いのだろう。だが相手は妖精機、何かしら動きがあれば嫌でも目立つ以上、あれは特別な事情があったのでしょうな」
「その不明機と、白騎士隊が繋がっている可能性は?」
別の者から声が上がる。
「無いだろう、報告書によれば不明機はその場で隊長のユズベルトを殺害している。聖騎士隊含め、抵抗しない者は殺されていない事から、ユズベルトは何らかの抵抗を試みたのだと見るべきだ」
「ですがそれではまるで、スーン卿が無抵抗でサラマンダーを明け渡すのを、あの白騎士が阻止しようとしたように聞こえますな」
再び場が騒然とする。「本当の裏切り者はスーン家だったのか!」といった声や「では何故白騎士隊は今逃げている!」と言い返す声が飛び交う中、マーズは机をダァンと強く叩きつけた。
「白騎士隊の嫌疑は晴れておりませぬ、諜報員からファルク村や白騎士隊に関する不審な報告は確かに上がっていた。現場に居た聖騎士隊からも事情を聞いているが、やはり不審点は多いままです。それにデナン・スーン本人の弁によれば、不明機と直接戦闘による勝算は限りなくゼロに近く、隊が全滅した上でサラマンダーを鹵獲する事さえ容易い相手だったと言う。騎士達の安全を条件に機体の譲渡を迫られたというのだ。私は彼が難しい判断をこなしたと思っておるよ」
マーズの言葉に一同は唸った。
騎士の育成には時間も費用もかかる。聖騎士隊や白騎士隊はその部隊特性上、魔法適正の高い人物等を優先的に選定する為、人数を揃える事自体から時間も、そして費用も掛かる事はこの場の誰もが知っていた。
「それは確かに、ではならばこそ、奪われたサラマンダーは如何するのですかな」
「現状は捨て置くしかありません。幸い元素機の保有数だけで言えば、我らフィガロスは近隣諸国を圧倒しており、他国が連合軍となっても十分に対応出来うる戦力があります」
「だが、その不明機とやらは元素機が居ても歯が立たなかったのだろう?他国の秘密裏に開発していた特機だったらどうするのかね!」
「ありえませんな」
「その根拠は?」
「今回の介入に関しても、一国家が行うにしてはリスクを負いすぎているように見えます」
そう、この所属不明機の行動は様々な点でチグハグだ。
極秘の機体ならば、目撃者も含めて全て殺害すべきだし、そもそもそれだけの性能を持つ機体が、危険を冒して何故元素機の鹵獲だけに拘ったのか。何故それだけの大事を引き起こして、今更雲隠れしているのか。
「では、グライスラー卿の、武人としての勘では、あの機体な何者と見ておられるのか?」
問われたマーズは、腕を組んで数秒ののち、答えた。
「大規模な傭兵団の機体という線が濃厚ですが、或いは――」
マーズは立ち上がって、諸侯達を見回しながら言った。
「別大陸からの侵略ですかな」
何だかんだ資源大国




