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闢発の妖精王1 壊滅編  作者: C先輩
20/66

シュウという男

時系列としては少し飛びます。

 夕陽が差し込む頃、コーンロウの表通りから少し入った宿通りを1人の騎士が行く。

 端正な顔立ちの娘である。長く色艶の良い赤髪を後ろで括り、機動性を損なわぬよう軽鎧を纏っていた。

 聖騎士隊に所属するアシュリーは、通いなれた町の石畳を、カチャカチャと鉄靴の音を鳴らして突き進んでいた。


「ここね」


 目的の宿を見つけて立ち止まる。看板にエンジェルハートと書かれた宿は、良心的な価格と美味い料理が提供される事でそれなりに有名だ。

 扉をくぐると、酒場のような食事処が広がる。あちらこちらで仕事を終えた男達がグラスを仰いで馬鹿話に花を咲かせて賑わっていた。


 つかつかとカウンターへ進むと、調理した皿をカウンター越しに手渡していたガタイの良い男と目が合う。


「あらいらっしゃい。綺麗なお嬢さん。今日は食事?それともお泊りかしら」


「いえ、ここの宿泊客の――シュウという男について話を伺いたいのですが」


 そう、目的は先日、国家に仇なす活動を秘密裏に画策していた白騎士隊の長、ユズベルトが雇った傭兵達の調査である。

 証拠を押さえる為に隊長デナン・スーンが自ら現場へ赴いたものの、首謀者たるユズベルトは戦死。激しい抵抗による披露と、共に国を守る騎士隊長であった同僚の謀反に心労が祟った隊長も療養中。その補佐の為、アシュリーは事後調査を引き受けていた。


「あらシュウちゃんのファン!?彼もスミに置けないわねぇ。食事が終われば大丈夫だと思うから、少し待っててもらえるかしら?」


 そう言いながら、すぐ次の料理に取り掛かり、男がフライパンを振り始める。

 確かに時間が悪い。こんな時にじっくり話を聞こうにも、騒がしくて仕方が無いのだ。


「お忙しい自分に申し訳ありません」


「良いのよ、何か飲む?ウチはエールと果実酒も評判よ」


「勤務中ですのでお酒はちょっと――ではミルクで」


 ルクレツィアと名乗ったその男は、スキンヘッドで朱色に光る照明を照り返しながら、サービスよと言ってミルクと一緒に小皿にツマミを用意してくれていた。

 豆を甘く煎って塩をかけた物のようで、歯応えと共に旨味が広がる逸品だった。


「美味しい…」


 アシュリーの口からつい声が漏れ、咄嗟にルクレツィアの方へ顔が向くと目線が合い、グワシッと音が聞こえそうなウィンクをされる。

 周りのテーブルを見ても、男達がエールを飲みながら似たような豆を頬張っている。人気のメニューなのだろう事が伺えた。

 一時の喧騒に身を委ねながら、アシュリーは時が経つのを待った。


 夕食時も過ぎ、食事を終えて談笑も済んだ男達が帰路に付き始める頃、布巾で手を拭きながら、カウンターからルクレツィアが出てきた。


「お待たせしてごめんなさいね」


「いえ、こちらこそ美味しい料理をありがとうございました」


「やだわあんなの手慰みよ、今度はちゃんとしたご飯を食べて頂戴」


「はい、それで――」


「俺に話とは何だ?」


 不意に背後から声がして、アシュリーは振り向いた。

 声は奥のテーブル席に座っている男からだった。精巧な刺繍が施された布地を使った旅装束に身を包み、行儀良くスパゲティを頬張っている。


「あなたがシュウ?」


 歩み寄り、アシュリーは問う。近くで見ると、やや線の細い印象を受ける優男のようだ。

 シュウ――ユズベルトに雇われた傭兵の調査資料で、アシュリーが最も怪しいと睨んでいた男。

 駆け出しの傭兵で、実力を買われて特例的に今回雇用されたとあるが、如何にも胡散臭い。何故こんなタイミングで有能な新人がこの町に都合よく居るのか――


「何かな?」


「あなた、随分と腕が立つのね、出身は?」


 そして最も怪しいのは、他の傭兵達と違って、身元の特定がほぼ不可能だった点だ。現在逃亡中の白騎士隊と共に行方知らずとなった傭兵も含めて、今回加わった傭兵達の資料は組合から一通り提供されている。だが町に帰ってきたこの男にはその内容が乏しい――資料だけの話しでは無い、どの国から来たとか、言葉の訛りだとか、種族や扱う技術によって何かしらの()()があるもの。だというのに、この男からはそういったものが感じられない。


「なんだ、オーナーの言った通り俺のファンなのか?」


「とぼけないで、聖騎士を侮辱するならその場で斬るわよ」


 警戒心からか、本能としての反射か、アシュリーはスラリと直剣を抜き放ち、穂先をシュウへと向けた。対するシュウは動じずスパゲティを食べ続け、最後の一巻きを口に放り込むと、フォークを置く。


「なるほど聖騎士。その鎧についている紋章、確かに見覚えがある」


 シュウは立ち上がると、ちょっと待っててくれと言って皿をルクレツィアへと返すと、その場でカウンターの椅子に座って向き直った。


「全く、人々が憩う場所で剣なんか抜くなよ。質問には嘘偽り無く答えてやるから、目的を話せ。君の知りたい情報があるとすれば、俺も相応しい答え方ができる」


「あなたの話を信じろと?気遣いは不要よ。あなたは聞かれた事だけ答えていればいい。その真偽は私が判断する」


「はっ、そんな聞き取りで得られた情報に一欠片ほどの正しさもあるかよ。俺は俺の言葉に偽りが無いと、お前の信じる神に誓ってもいい。だが君はどうだ、人の話しを自分の都合で捻じ曲げて判断しないと何に誓える?」


 鼻で笑うようにして、シュウはまくし立てる。

 そうまで言われるのはアシュリーとしても予想外だった。国家に帰属しない傭兵といえど、やはり正規軍たる自分達には遠慮気味で、荒っぽい威勢も少しは大人しくなるというのに。

 だが、その態度こそ益々アシュリーの疑いを深める事になった。


「だったら単刀直入に聞くわ。あなたは間諜かしら?それともユズベルトの一味?」


 アシュリーの言葉に、シュウは心底つまらなそうな顔をして、答えた。


「あぁ~はいはい間諜です間諜です」


 投げやりな態度に、アシュリーは顔に血が昇っていくのを自覚したが止められなかった。


「貴様!」


 一気に踏み込み、剣先を肩口へ向けて突き込む――否、突き込もうとしたその瞬間、アシュリーは感じたことの無い浮遊感と共に身体の自由が効かず、ひっくり返るように宙へ浮く事となった。

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