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闢発の妖精王1 壊滅編  作者: C先輩
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殺人交渉

機体を治す参考資料が目の前に転がり込んできて、テンション高め。


『妖精王さ』


 男の声だった。

 突然の闖入者は、恐れ多くもそう名乗った。見覚えのない、翠の鎧を纏った随分と細い機体だ。

 今の魔法を受けて、驚いたことにユズベルトの機体は傷一つ負っていない。目の前の華奢な機体は、サラマンダーの増幅魔法(オーバード・マジック)をどうやって防いだと言うのか。

 いや、そんな事は些細な事だ。今この者は、軽々に口にしてはならん事を言った。


『貴様、先程からの蛮行は我らをフィガロス王国軍所属、聖騎士隊と知っての行いか?』


 この男は水を差した上に、妖精機の始祖にして神格化されたかの妖精族(エルフ)を騙るとは――


『蛮行とは何だ、さっき立ちションした事か?確かにマナー違反だが許してくれ。公衆トイレを用意していない国が悪いし、そもそもこの国のトイレはそんなに良いものでは――』


『もういい黙れ』


 言い終わる前に身体は動いていた、聞いた自分が愚かだったのだと思い知らされた。羞恥から逃げるように、サラマンダーの腰に差した魔剣フランベルジュを抜き魔力を込めて駆ける。量産機どもを遥かに上回る膂力はその一歩一歩が大地を耕し、ぐつぐつと火を煮え滾らせる魔剣は、妖精機の装甲でさえバターにように切り裂くその切れ味を示していた。

 渾身の一振りを横一閃、こちらの速さに一歩も動けないでいる緑の妖精機へ炎の剣を振り抜く。


『―――なに?』


 思わず、声が出た。

 緑の妖精機へ剣が触れる少し手前から、押し返されるような力を受けて剣は勢いを弱めて止まる。異変を感じて腕を引こうとしても、今度はまるで何もない宙に固定されたように押し引きさえできない。

 緑の妖精機から声が聞こえた。


『素晴らしい!』


 その場違いな喜色を含んだ声に感じた違和感に、思い出したかの如く汗がつっと流れた。

 頭が鈍い痛みを訴える。本能が鳴らすことを忘れていた警鐘を、ガンガンと打ち鳴らすように血が流れているのだ。

 直後、見えない力によって、王国最高戦力の一角を担うこのサラマンダーが子猫を放るかのように吹き飛ばされた。

 つんのめるような衝撃と浮遊感に包まれながら、視界に映る緑の妖精機を見た。文字通り、指一つ動かさずにそこへただ立つ恐るべき機体を。


 次元が違う。

 選択を間違えた?ならば一体自分は、どうすれば良かったというのか――



 機体全面で限界まで圧縮した素粒子を叩きつけて、サラマンダーが吹き飛ぶ。だが地面に激突する前に手足で地を蹴り姿勢をコントロール、両足で綺麗に着地してみせた。

 ――期待以上のクオリティだ。

 妖精機サラマンダー、特別(スペシャル)機だと言うだけの事はある。魔法による大火力もそうだが、何よりも機体の速度と柔軟性が他の量産機と比べて桁違いだ。高い出力と、それを支え切る頑丈な身体(ボディ)を組んでいるのだろう。特にあの踏み込みは、推進剤も無いというのに凄まじい初速だ、屈強なスプリンターの如き筋肉でもついているのだろうか。


 〈アイリス、粒子の減衰は?〉


 〈貯蔵粒子(ストック)の消費量は2パーセント、再充填まであと10秒、問題ありません〉


 一撃でごっそりと素粒子を吹き飛ばされた銀竜とでは比べるまでも無いが、この妖精機を50機ほど集められると同等の火力投射が出来るだろう。


『成程相当に強力な機体持ちの傭兵を雇っていたようだなユズベルト。おい貴様!言え、いくらでそいつに雇われた!倍額を払うからこちらにつけ!そうすれば王国に楯突いた諸々も罪状も免除しよう』


 デナンと名乗っていた男がこちらに向かって喚いている。そうだ、中に人が居るのを忘れていた。


『分かっていないな』


『何?』


『我が名は妖精王、貴様達に隷属した我が民を解放せんとする者。故に――』


 仰々しく名乗りながら、適当な建前を嘯きつつサラマンダーの前へ滑るように移動すると、機体を粒子によって浮き上がらせ、そして告げた。


『その機体を明け渡せ。抵抗しないなら命は保証しよう』


『ふざけるな!これは陛下に賜りし王国の至宝!ユズベルトを討ち、真に王国の騎士として立つ私の為の象徴なのだ!』


 凄いな、これだけ実力差があってもそこは譲れないという事か。

 ここはもう一芝居打つ必要がありそうだ。


『ならば、その男は私が殺そう』


『は?』


『生きて帰りたくばその男の首一つで我慢せよと言うのだ、私は貴様らと好んで争うつもりは無い』


 しばしの沈黙の後、デナンが答えた。


『貴様の手を借りずとも勝利は確実!そんなもの交渉材料にすらならんわ!』


『何か勘違いをしているようだが、お前に任せていたら時間の無駄だから言っているんだ。見ていろ』


 サラマンダーを降ろし、ユズベルトのディナ・シーのもとへ向かう。


『私を殺すのか』


 ユズベルトの声が聞こえた。


『ああ』


『私が命を差し出せば、他の者達は生き残れるのだろうか?』


『あなたが差し出すのではない、私が奪う』


『あぁ――』


 失意の声が聞こえる。

 ユズベルトの機体を浮き上がらせ空間座標を指定、機体を粒子の圧力で潰し、引き千切っていく。


 〈しっかり守れよアイリス〉


 〈あまり難しい事をさせないで下さい〉


 強度に不安のあるフレイの腕部を素粒子で補強する。それを引き絞り貫手を放つと、圧潰していったディナ・シーの中央、コックピットを貫いた。

 魔法使いに徹する等とよく言ったものだ、これでは空手家である。


『さあ、今度はそちらの番だ』


 大穴が空き、ベコベコの鉄塊となったディナ・シーをサラマンダーの方へ投げ付けると、さっきの態度が嘘のようにデナンは大人しくサラマンダーから降りた。

目的の為なら似合わない小芝居もこなしてみせる男。

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