長の戦い
生身で戦えば、10割デナンに勝てるユズベルト最大の弱点は、政敵の多さ。
ファルク村跡地、その外周に停泊していたユズベルト率いる空艇部隊は、マジックセイルを大きく広げ、上空へと浮き上がる。
同時に、甲板上からデナンの率いる空艇へと無数の火球が放たれた。だがその多くは、デナンの駆る妖精機、サラマンダーによって放たれた迎撃用の熱線が放たれ、横薙ぎに切り払われていく。
『んふははは!雑兵がいくら群れようと、冠位を賜りし真の妖精機の前では塵芥に等しいわ!』
デナンの高笑いと共に放たれた無数の大火球が、ユズベルトの空艇へと飛来する。迎撃に放たれた火球を二回りは上回る火球の勢いは殺しきれず、空艇の装甲は衝撃と共に削られていった。
ユズベルトに反撃の意志は無い。相手は一騎当千の妖精機――勝てる見込みが無かろうと、あらぬ罪を着せられ弁解の余地も無く死に追いやられる訳には行かなかった。
空艇同士の追撃戦は、魔法による激しい砲撃戦によって数分ののちに決着した。
快速を誇るアルゴス級の速力に一縷の望みを賭けたユズベルトであったが、その希望は無情にも打ち砕かれる。
『竜骨損傷!速力維持できません!』
被弾箇所が悪かったのだろう、伝声管から伝わる声にユズベルトは溜息を漏らした。
――ここまでか。
「着底せよ、総員退艦準備」
竜骨がやられては、仮に応急処置をしても高速巡航は望めない。
空艇アルゴスは観念したかのように動きを止め、ゆっくりと高度を下していく。
「各位、生き残る事を最優先とせよ。諦めず、いつか汚名を雪ぐ日まで」
そう言ってユズベルトは伝声管の蓋を閉じると、ブリッジをあとにする。
少しでも多くの者が逃げられるよう、時間を稼ぐ為に――
「さて、これは一体どういう事だ」
迷彩で隠れたまま黒獣討伐を観察していたら、乗ってきた空艇が大爆発を起こした。
新手かと思ったが、どうも相手は人間で、それも同じ軍属の者達のようだった。
「向こうの言を鵜呑みにするなら、我々はテロリストに雇われた私兵組織でしょうか」
バカでかいボリュームで繰り広げられる会話内容から、アイリスの的確すぎる状況分析が返ってきた。
「そういう奴らは、この世界じゃどういう扱いを受けると思う?」
「反乱分子ですから、即時制圧してしまうのが効率的なのでは。現に先制攻撃を受けているようですし」
「てことは、あそこの村で今大騒ぎになってるウィッツ達ってピンチだよな」
「まとめて始末されそうですね」
「うーん、じゃあここは一つ、恩を売っておこうかな」
会話で出ていたエレメントという機体も気になる。
「正体は隠しておくのでは無かったのですか?」
「隠すさ。俺は後で穴ぐらから這い出てくる予定だよ」
そう言っている内に、空艇によるドッグファイトが勃発していた。逃げていた空艇は煙を上げて停止し、中から一際装飾の施されたディナ・シーが歩み出てきた。随分派手な機体だ、長剣とやや大き目のラウンドシールドを構え、カッシウスのようなトサカのあるフェイスの機体が巨大な青いマントを靡かせている。
凄い機体だ、推進器があるEL.F.じゃ確実にマントが燃える。
『我が名はユズベルト・ヴァン・グライスラー!我が王と、我が家門に誓いを立てたこの身は、何者の策謀にも屈しない!』
『白々しいぞ獅子身中の虫めが!閣下に賜りしこの力で、貴様を貴様の悪事諸共消し炭にしてやるわ!』
追手の空艇からサラマンダーと名乗る機体が降りる。エレメントという特別な機体というだけあって、その造形は量産機のディナ・シーとは随分違う。その意匠はさながらうねる焔のような緋色の装甲だ、おまけに鬼か何かを思わせるような強面のフェイス、そして一対の錫杖のような杖を両手に構えていた。
どことなくワビサビを感じてしまうのは気の所為だろうか。
「ちょっとカッコいいと思っていませんか?」
「まさか」
何故バレたのか。
「折を見て介入するぞ」
「くれぐれも、超重剣の使用は控えて下さい」
アイリスが釘を差してくる。
そう、フレイの腕はまだズタズタなのだ。今回は魔法使いに徹するとしよう。
妖精機同士の戦い――先に仕掛けたのはユズベルトだった。盾を構え、剣筋を隠すようにして一直線に突撃していく。当然デナンは反撃とばかりに、杖の前へ巨大な火球を生み出すとユズベルト目掛けてそれを放つ。が、ユズベルトの先制攻撃は続いていた。デナンの魔法が発射されるとほぼ同時に、機体の盾をデナンの機体目掛けて投げ付けた。盾は投擲と同時に、何かの魔法でも掛かっているのか風を巻き起こしながら加速し、火球に激突するとけたたましい衝撃音が響き、火球がその場で派手に爆発、巻き上がった粉塵で急に視界が悪くなった。
『小賢しい!』
デナンが叫ぶと、サラマンダーの杖を交差させた。すると機体周囲に炎が逆巻き、気流を生み出して粉塵を吹き飛ばした。
――便利だ。妖精機の魔法というのは、あんな事もできるらしい。
視界が晴れた時、デナンの正面にはユズベルトの機体は無かった。
『はあぁぁぁ!』
ユズベルトが渾身の力で長剣を横薙ぎに振り抜く。視覚の外、側面からの攻撃にデナンは一歩反応が遅れていた。
だが――
『浅いぞ!』
逆巻く炎が生み出す熱波は、まさに風の壁だ。ユズベルトの剣は勢いを減衰させられて有効打になっていなかった。
まさに攻防一体といった所だろう。デナンとやらが自信満々なのも頷けるというもの。
剣を振り払うようにサラマンダーの杖が一閃すると、ユズベルトのディナ・シーは受けきれずに弾かれ、たたらを踏んでうつ伏せに倒れた。
これはもう、機体の基本的な地力差の問題だ。勝負あり、行くとしよう。
『ぐぅっ』
『んふはははは!勝負あったなユズベルト!』
トドメとばかりに、ご機嫌な声をあげながらデナンはもう一度特大の火球を機体頭上に生み出すと、躊躇いなくユズベルトへと放った。
〈推進器全開放、粒子壁最大出力〉
操作を脳波へ切り替え、爆発推進も使っての急加速。備蓄していた粒子を障壁にしてユズベルトの前に立った。
爆発――激しい衝撃によって、多段展開した障壁がほぼ吹き飛ばされてしまった。妖精機の魔法はかなりの威力を誇るらしい。
視界が晴れてくると、デナンが驚いたように話しかけて来た。
『な、何だ貴様は!?』
「ああ、俺は――」
おっと、外部スピーカーに切り替えていなかった。
『妖精王さ』
非倫理的な実験によって魔法適正の高い男児として生み出されたデナンは、生まれつきの欠陥である精神の不安定さを忠誠心と信仰心によって補っている。




