黒獣狩り
EL.F.が中々治せなくてヤキモキ
陽の光も届かぬ深き地底の主――魔鉱喰い、ヒュージウォーム。
伝説の傭兵ウィッツの連続魔法を受けて尚殺し切るに能わず、焼け爛れた巨体がみるみるうちに再生し、黒獣となったその身体からは、再びベットリとした黒泥が溢れ出ていた。
ウィッツを思いっきり吹き飛ばすと、彼は綺麗に宙返りしながら着地して何か物言いたげにこちらを数秒見たが、そのまま脱出組の方へ駆けていった。
やりすぎたかと思ったが杞憂だったらしい、流石は伝説の傭兵だ。
ヒュージウォームとやらに向き直ると、既に再生が始まっていたのか、再び身体から悍ましい黒泥が溢れ出していた。
「うーん」
分からん――
あのヘドロみたいなのを撒き散らす魔物を黒獣と呼ぶらしいが、いくら観察しても全く原理が分からない。ウィッツが見せた魔法といい、自分の預かり知らぬ法則が当たり前のように存在している。質量保存とかどうなっているんだろうか。
思案していると、ヒュージウォームは巨体をうねらせながら、再生した頭部の触手を伸ばしてこちらへ襲いかかってきた。
五感に対して思考が加速する。EL.F.の超高速戦闘に対応すべく生み出され、脳内に埋め込まれた補助演算チップが、必要な情報を取得し、必要な情報を発信していく。
本格的な生身の実戦だ――
地を蹴って跳躍すると、爆発したように身体が飛ぶ。
迫る触手の間を抜け、軌道上を塞ぐ触手は粒子の壁で弾き、最短ルートでヒュージウォームの側面から天井へ飛び上がると、心臓が許す限界出力の粒子を叩きつけた。
大質量の岩が落ちてきたかのように、ヒュージウォームが地面に埋まる。ギイギイと叫び、もがきながら抜け出そうとしているが、地面にへばりついて動けないでいる。
10秒、20秒と圧力を掛け続けていたが、死ぬ気配が無い。核とやらを潰せていないのだろうか。
駄目か――
引き千切れては生え変わっている頭部の触手を見ても、やはりウィッツの言う通り、もっと大掛かりな手で倒す必要があるのだろう。
これ以上全開出力で抑えつけていてもガス欠になるので、距離を取って解放した。
さてどうしたものかと考えていると、ヒュージウォームは耳障りな鳴き声を上げながら、巨体を空洞の壁へとぶち当てる。
「おお!?」
どうもただの体当たりでは無い、奴の頭にあった無数の牙で壁を噛み砕き、凄まじい速度で壁を掘り進みながら、ものの数秒で巨大な身体を壁の中に入れてしまった。
凄いなヒュージウォーム。
もしかしてこの洞窟自体あいつが掘ったんじゃないだろうか。
近づいて穴を覗き込むと、穴は角度をつけて、上へ上へと向かっていた。
一体どこへ――考えていると、不意に頭の中で音声が聞こえた。
〈シュウ様、聞こえますか〉
〈アイリス?なんで無線が――〉
〈現在地から約2キロ先の平原に、巨大な生物が出現しました。その直後からシュウ様へのpingが返って来ましたので〉
なんと地上へ逃げたらしい、それにしてもとんでもない掘削速度だ。
〈今そっちはどうなってる?〉
〈軍の機体が応戦に向かいました〉
〈そいつは取り逃したここの親玉みたいなものだ。任せておけばいい〉
地上で警戒していた妖精機だろう。逃げた先に天敵が居るとは奴も可哀相な事だ。
〈それと、空艇と思わしき船影が一つ、こちらへ接近中ですが、如何しますか?〉
〈何?〉
妙なタイミングだ。
軍がこんなに早く援軍を寄越すのなら、わざわざ傭兵に金を払って探索させる必要は無い。
まさか賊だろうか、だが空艇を持つような賊なんているんだろうか、もう賊という規模では無いが――
〈手は出すな、姿を隠したまま動向を見守れ。俺もすぐそちらへ行く〉
〈了解しました〉
自重を相殺する程度の粒子を巻き上げ、ヒュージウォームが掘った穴の壁を三角飛びで駆け上がる。陽の光が見えて来た所で一旦立ち止まり、外の様子を伺う。
剣戟と爆発音、そしてヒュージウォームの鳴き声――戦闘の音は遠い。出ても大丈夫のようだ。
〈アイリス、イモムシが出てきた穴に来てくれ〉
〈もう居ます。高度を上げて下さい、迷彩の域内に収納します〉
言われるがままに、身体を浮かせて高度を取る。すると風景が一瞬歪むと、目の前に見慣れた機体がコックピットを開けて姿を現した。金のエングレービングが施された翡翠の装甲を纏う一騎当千の愛機だ。
「なんだか久しいな」
貴重な体験の連続で忘れかけていたが、シートの感触は実家のような安心感を得られる。
「おかえりなさいませ」
アイリスの音声がスピーカーから直接聞こえてくる。
「ただいま、さて状況はどうかな」
フレイと同期した視覚を使ってヒュージウォームを確認すると、300メートルほど先で6機の妖精機に攻撃を受けていた。
大盾を持った機体が注意を引きつけ、その後ろに控える2機が巨大な火球を浴びせていた。そして側面から突撃槍を構えた機体を先頭に、破城槌を構えた機体が縦列で突撃している。
ドンッと強い衝撃がここまで伝わってくるような勢いで、槍がヒュージウォームの横腹に激突する。深々と突き刺さった槍を持っていた機体は、そのまま手を放して離脱すると、後続の機体が槍の突き刺さった部位目掛けて破城槌を横薙ぎに振り抜いた。
発破でも起きたのかという破裂音と共に、ヒュージウォームの胴体が真ん中から二つに弾ける。火球を浴びてズタズタになった頭部が、これ以上は無いほどの悲鳴を上げてのたうち回り、グッタリと横たわる。
そこへ破城槌を持った機体が駆け寄り頭部を叩き潰すと、ヒュージウォームは完全に動かなくなった。
「へぇ、ああやって倒すのか」
白騎士隊とやらの連携は中々のものだった。集団戦術を駆使して効率的な討伐方法を確立させていると言えよう。
そしてEL.F.と比べて、いくら戦力的に見劣りしても、あれほど柔軟な動きで大地を駆け回り、武器を振り回せる構造はやはり気になる。
製造方法を参考にすれば、フレイの生体金属繊維をより頑丈な素材で修復できるかもしれない。
妖精機達は飛び散った肉片の中から、鉱物のような物体を拾い上げて回収していた。あれが所謂核という奴だろうか。
何にせよヒュージウォームは問題無く倒せたようだから、ウィッツ達が巻き込まれる心配は無さそうだ。負けそうだったら手を貸そうと思っていたが、要らぬ心配だったらしい。
ウィッツ達に合流しよう――そう思って機体から降りようとした瞬間だった。
村に停泊している、自分達を乗せて来た空艇ピーフォウルが、飛来した火球を受け火の手をあげた。
強い敵が居ないと張り合いが無いですよね




