エヴァン 08
「あ、そうだ。ほらこれ。誕生日プレゼント」
忘れるところだった。
懐から火龍の鱗を取り出してオズに差し出すと、目を丸くしてそれを凝視した。
え、なに?
やっぱ、なんか包んだ方がよかったのか?
オズの視線に耐え切れずうろたえて助けを求めると、ハンナとアンドリアからほら見たことかという目で見られた。
いや、だって、そんないちいち包んでられないだろ?
なあ、とイーサンの方を向いたが目をそらされた。
裏切り者め!
「…炎のような何か…」
火龍の鱗を凝視していたオズが、サクラを振り返る。
「これ?」
サクラは笑みを深めた。
「プレゼントだそうですよ。どうなさいますか?」
「…受け取りたい、んだけど…大丈夫?」
「御心のままに」
オズの問いに、サクラが臣下の鏡のようにきれいな礼を返す。
「質問に微妙に答えてない気がするのは気のせい?」
アンドリアの突込みに、サクラはウフフと笑う。
「気のせいってことにしましょう?すてきなネコミミのおねぇさん」
「サクラ…」
オズの困ったような声に、サクラは苦笑を返した。
「質問の意図があいまいです、殿下。私たちのようなモノはウソがつけないのですから、より範囲を限定していただかないと、お望みの応えをお返しすることができないのですよ」
どういう意味だ?
「ん、と。じゃぁ、これを受け取っても、サクラに害はない?なんだかとっても怖がっていたの、これでしょう?」
「まぁ!私を気づかってくださったのですね。ありがとうございます。ほんとうに大丈夫ですよ。ただちょっと触れたら火傷して、最悪の場合にはこの体を放棄せざるをえなくなりそうなだけですから」
それって死にそうってことじゃん!
俺の考えていることが分かったのか、口には出さずに突っ込んだのに、タイミングよく振り返って微笑まれた。
「この体は木でできているので」
「じゃあ、どうすればいい?」
困惑顔のオズに、サクラが微笑む。
「ご随意に。私のことはお気になさらず」
「それじゃあダメだって、弟君は言ってるんだろうが」
ちょっとイラついた感じでイーサンが言う。
ぶっきらぼうな彼らしい言葉に、ひやりと背筋を寒くする。
こんな、ただ見目がイイだけの人形のような子供の形をしているが、オズが、従樹といったのだ。
しかも、その前に見せたあの空間を超越するパフォーマンス。
コレは明らかに神霊の一種だ。
聖女のあの天使ほど人外じみた言葉の通じなさはないが、礼を欠くような行動をとればどうなるかわからない。
これがどんな能力を有しているかわからないが、いつどんな地雷を踏んでしまって、一瞬でこちらが屠られるなんてことがないとも言い切れないのが人外の恐ろしさだ。
「イーサン…!」
ちょっと思わず、いつも吊下げている剣の柄がある場所を空打った手に愕然としつつ、イーサンを反対側の手で軽く一歩下げる。
臨戦態勢。
パーティーのメンバーは、俺の唐突な迎撃態勢に戸惑いながらも身構えた。
それに対して、幼女の形の人外はころころと笑った。
「そうかまえずともよろしいのに。わたくしはあの天使ほど狭量ではありませんよ。赤い剣士さん」
「…失礼。人ではない者の地雷は、どこにあるのか人の身では測りかねるからな」
「それは良い心がけですね。ただ目についたというだけで町一つ滅ぼす方もいらっしゃいますし」
無邪気な風でサクラは笑う。
―――マジか。と、小さくイーサンの声が聞こえた。
なるほど、そんなのに比べたら聖女と弟を神殿に軟禁する天使ですらまだマシに見えてくる。
「殿下はそれをお受け取りになりたいのですよね?私に害のないような形で」
「うん。できる?」
サクラがエヴァンを見上げてきた。
「それは、加工しても?」
「ああ。こちらで勝手に加工するよりは、オズの好きにしてもらおうと思って」
「そうですか。殿下、髪飾りとブローチ、どちらがよろしいですか?」
「え?…ブローチだと正装した時につけられないから、髪飾り」
にっこり笑って頷いたサクラに促され、火龍の鱗を掲げる。
すると、鱗が何の前触れもなく薄紅色も炎に包まれた。
「ぅわ!」
「殿下!」
「「「エヴァン!」」」
急いで手を放し、火傷していないか見るが、なんともなかった。
ついでに言うと、熱くもなかった。
宙に浮いたまま、薄紅色の燐光を上げて燃える鱗を見る。
「…なんともない」
ひらひら手を振って見せれば、仲間たちがほっと息を吐いた。
サクラは苦笑して、不満げに見るエヴァンとその仲間たちに首をかしげた。
「殿下のお兄様にケガをさせるほど不器用ではありませんよ」
「あ゛ー…そーですか!」
「…炎、ダメなんじゃなかったの?」
「触れなければどうという事はありません」
「…なるほど、真理だな」
そんな、殺伐としているんだか、ほのぼのしているんだかわからない会話をしているうちに、炎が弱くなり、きらりと輝く何かが見えた。
サクラに促されてオズの差し出した手に、小さなピンク色の花飾りが乗った。
向こう側が透けて見えそうなほど薄い花弁が、貴婦人のドレスを思わせるほど幾重にも重なりあった小さな薄紅色の花。
満開に咲き誇るのが二つに綻び掛けたものが一つ、固く閉じたつぼみが一つ。
それがひと固まりで、レースのような花弁が三枚、花から零れ落ちてキラキラと細い金鎖に繋がれて音を立てる花の髪飾り。
技術の粋を凝らしても作り出せないくらい繊細で美しい細工のソレは、たいそう愛らしい。
「殿下にお似合いになるようにおつくりいたしました」
そりゃあ、美少女顔のオズにはよく似合うだろうが、どんなに美少女顔だろうが、可愛らしかろうが、オズは男だ。
「…コレ、僕がつけるの?」
「お気に召しませんか?」
間髪入れずに返すサクラは果たして故意なのか、天然なのか。
非常に判断に迷う。
「…女性ものじゃないの?」
オズの言葉に、サクラは心底不思議そうにきょとんと眼を瞬いて首をかしげた。
「女性もののように作り替えますか?」
オズは口を開いて閉じて、へにょりと眉尻を下げて、首を振った。
「ううん。良い。ありがとう」
渋々、という表現がぴったりな仕草でオズが飾りをつけると、大変よく似合った。
「…なんていうか…良く似合うぞ?」
「…うん。似合う、よ?元気出して」
エヴァンとアンドリアのフォローとも言えない言葉に、オズは力なく笑って答えた。
イーサンは、無言でオズの頭を撫でて慰める。
「…女性モノのような花冠もお似合いになると思いますよ?」
「やめてあげてください」




