第九話
あけましておめでとうございます。今年もぼちぼち書いていきますので気長にお付き合いください。
◇◇◇
花弁の淵がレースの様に美しく波打ち重なった大輪の薔薇が蕾を膨らませていた。
スッと背筋を伸ばし一株に一輪だけ楚々と蕾を綻ばせかけた薔薇は、中心部が白く、縁に近づくに従って淡い紅色になっていく。
まるでさくらさんの髪の色のようだ。
「おい、こっちだ」
ふと見かけた花に気を取られていたらかけられたガートナー師匠の声に、俺は心持慌てて駆け寄っていく。
王子様と魔法の勉強をしていた時に着ていた絹っぽい生地のドレスでは庭仕事の手伝いは出来ないから、ちゃんと動きやすい丈夫なエプロンドレスに着替えている。
王子様と比べてもずいぶん快活だったらしい王女様のお下がりのズボンがあるはずなのに、ここのメイドさんたちは俺にズボンを履かせる気はないらしい。
サクラさんには可愛い服装が似合うから俺的には全く問題ない。
師匠は俺の見ていた花を一瞥して鼻を鳴らした。
「あれはまだだ。今日はこれだ」
先ほどの花よりももう少しだけ花開いた、透き通る青緑色の花弁の薔薇を指して言う。
まるで繊細なガラス細工のような花弁は、驚くべきことに触れればしっとりとやわらかい。
前世の記憶的にはあり得ない花だが、この世界では品種改良で作られて貴族の邸宅には必ずあると言っていいほどポピュラーなものらしい。
前世でよく見かけたような薔薇の方がこちらでは珍しくてこの庭園の名物になっている。
硝子のよう薔薇の原種となった花は、雪の中に咲く透明度の高いそれこそ硝子のように透き通った植物で、蜘蛛の糸のように繊細な雪の結晶によく似ているそうだ。
原種は薔薇ではないが、品種が違っても交配できるのが異世界クオリティ。
この世界の生き物は、実体があればどんな種族とも交配して子孫を残すことが可能なのだという。
例えば、トレントは人と木の合いの子だし、オークはヒトと豚の…といった感じだ。
エルフだの獣人だの魔物だの妖精だのと言ういわゆるファンタジーで想像するような生物が実在するらしい。
もちろん、すべての生物は混沌とした交配と進化、自然淘汰の結果だろう。もうきっと最初の生物を辿る事もできはしない。
だからこそ純粋な薔薇だけの交配で作られたような品種が珍しいのも頷ける。
まあまず突っ込ませてくれ。
どうやって番った。主に木。
現在では、異種族間の交配は出生率の低さから倦厭される傾向が強いらしいが。
ちなみに、妖精族や獣人などもその血が濃い方に近くなるので、獣人の中でも、獣に近いのから獣耳があるだけや犬歯が長いだけのほぼ人みたいな奴だっているそうだ。
閑話休題終わり。
そういう“常識的な”情報は王子様のアーカイブにはない。
これらは師匠から聞いた言葉とそれをもとに俺が推測した結果だ。
教師陣がまだ教える必要はないと思っているのか、王子様自身が魔法の知識を得るために切り捨てたのかはわからないが。
そういう情報の方が俺が今欲しているんだけどなぁ。
そう思いながら透ける深緑の葉に触れる。
さらりとした薔薇の葉の触感に苦笑が漏れた。
ガラス細工のような外見のくせに、触感だけなら普通の薔薇と同じだなんて。
ゆっくりとその葉のギザギザした縁を撫でていて、ふと思いついた。
この薔薇と≪共有≫は出来るのだろうか?
俺は人であるつもりだから王子様との≪共有≫に特別違和感を覚えていない。
だが、サクラは元は桜の木なのだから、同じ植物であるこの薔薇の方が感覚を≪共有≫しやすいのではないのか?
疑問に思ったが、ヨシノさんからの返答はない。
検索中なのか、情報がないのか。たぶん後者だろうけど。
やってみるか。
触れ合った葉を伝って≪共有≫をかける。
お。意外と簡単にできたぞ。
広がった視界と感覚に加えて、この薔薇のルーツや育った環境情報がライブラリに追加された。
なるほど。師匠から聞いていたが、本当に別の種類でも交配できるのか。
この薔薇の花の数代前には、エルフっぽいのと交配した事があったみたいだ。
それにしても、師匠がどれだけ愛情を注いでくれているのか分かるな。
何気に師匠、植物に魔力を与えて成長を促したりしてる。魔力の使い方にもいろいろあるんだな。
こういうのを教えるために俺を師匠につけてくれたのだろうか。
師匠の好感度が上がりまくりだ。
しかし、植物っていうのは便利だな。
薔薇に≪共有≫していたら根が他の薔薇や木や様々な植物と絡んでいるから一つとつなげば魔力の続く限り、根伝いに≪共有≫し続けることが出来そうだ。
魔力の消費方法も考えていたところだし、ちょうどいい。
俺は少々調子に乗って≪共有≫範囲を広げていった。
王子様が剣を振っている姿が見えたところで、“俺”に触れる手に意識を引き戻された。
ごつごつとした師匠の職人の手が青緑色に透き通るワイングラスの足のような茎をそっと優しくつまむ。
一番初めに≪共有≫した薔薇の茎だ。
そろそろ魔力も程よく消費したし、共有範囲を残したまま意識を撤退させますか。
意識をサクラさんの方に引き戻しながら、納得していた。
サクラさんと植物は近過ぎて≪共有≫すると境界が曖昧になるらしい。
それこそ、自分に触れられたのか、共有した枝葉の方に触れられたのか分からなくなるくらいに。
これは感覚の共有範囲を制限する必要性があるかもしれないなと思っていたら、強い衝撃が走った。
体の一部をもぎ取られたような、ひどい痛み。
いいいいいいいいいいいいいいいいいいい、いったい?!
あまりの衝撃に俺は体の制御をいったん放棄してインナースペースに避難した。
痛みという衝撃を遮断して、情報をヨシノさんに求める。
へるぷ、ヘルプ!ヨシノさん助けて!
何が起こったの?!
≪花の剪定です≫
ヨシノさんの返答はいつも通り平静で平坦だった。
……………せんてい。
選定、船艇、先帝、尖底、せんてい、…剪定か。
そう言えば、師匠が薔薇の花の茎に触れたから意識を引き戻したんだった。
冷静になればなんという事はない。
ああ、サクラさんの一部が欠けたわけじゃないのか。
良かった。
ほっと胸をなでおろして、サクラさんの制御に戻る。
あ、とその前に。
ヨシノさん、王子様以外の他の枝葉は痛覚共有しなくていいからね。
特に必要がある時以外は視覚の共有だけにとどめておいて。
ああ、いっそのこと共有した視覚でマップ作って。
ついでに動くものを記録しておいてくれると助かるかな。
そこまで指示して今度こそサクラさんの体に戻って目を開けると、師匠が怪訝そうな顔で俺を見ていた。
「師匠?」
首を傾げると、師匠は眉を顰めた。
「声をかけても返事できないくらい体調が悪いなら早く言え」
急に反応しなくなったから心配して声をかけてくれたらしい。
俺がテンパってサクラさんの制御を放棄したのはそう長い時間ではないはずだが、その間に声をかけられてしまったのか。
口数が多い方ではない師匠から話しかけられることは珍しいのに、こんな時に運が悪い…のではないのだろうな。
俺を見ていたらちょっと様子がおかしいから声をかけてくれたのだろう。
職務に忠実だと言う事もできるが、いい人だ。
こういう人だから庭師の人たちに慕われているし、王妃や王子様の信頼が厚いのだろう。
「心配してくださってありがとうございます。もう大丈夫です」
師匠は俺みたいな子供が卑屈に見えるような態度をとることが許せないらしい。
俺は別に卑屈になっているつもりはなくても、師匠はあの庭師みたいな図々しいくらいの人を見ているから余計そう思うようだ。
そこには王子様のSOSを見逃してしまった罪悪感が見えなくもないが、俺だって客観的に見て子供がそんな態度をとるのは気持ちのいいものではないと理解できる。
俺が恥ずかしくない程度に甘えさせてもらう事にしよう。
思わず頬を緩ませてしまうと、師匠の眉尻が上がっていく。
「だ…!」
「サクラ?!」
雷が落ちそうになった瞬間に、王子様が聞いたこともないくらいの大声で叫びながら飛び出してきた。
唐突な登場に驚いて俺も師匠も反応できずにいると、見る見るうちに王子様は距離を詰めて俺の肩を掴んだ。
「大丈夫?!どこが痛いの?」
唖然としている内に頬を両手で挟まれて至近距離で顔やら頭やらをチェックされる。
「で、でんか?」
急に頭を掴まれて振り回されてフラフラの俺よりうろたえた様子で師匠が問う。
「殿下!どちら…へ?!」
「オズ様?!」
王子様を追いかけてきたらしいジュリアとウィルがぽかんと口を開けた。
すげぇ。この顔ぶれにこんな顔をさせるなんて、さすが俺のテン…王子様。
「…大丈夫です。何ともありません」
微笑んで手を広げると、体が欠けていないかチェックしていた王子様の手が止まった。
疑わしいと雄弁に語るアクアマリンブルーの瞳にひたと見据えられる。
「でも痛かった」
王子様につないでいたバイパスを伝って俺の感じた衝撃が伝わってしまったのだろう。
正直失態だ。
出来ればあまりひどい衝撃が伝わっていないことを祈るしかない。
「もう痛くありません。でしょう?」
両手を広げて大丈夫だとアピールするが、王子様は頑固にも首を振った。
「でも痛かった」
苦笑して視線を上げると、思ったよりもずっと真摯な目がそこにあった。
思わず大丈夫だと繰り返しそうとした言葉を見失ってしまい、口から出たのは別の言葉だった。
「…痛かったですか?」
「痛かった。でも僕じゃないってすぐに分かった。だから、とても心配した。サクラが酷く傷ついているのじゃないかと思って」
真っ青な顔色をして、確認途中で握りしめられた手首は痛いくらいだ。
俺なんかよりずっと、倒れそうにしているじゃないか。
ヨシノさん、王子様にはどれくらい伝わったの?
≪回線を閉じていた状態なので36.7%です≫
なるほど。
それくらいなら部位欠損ではなく、擦り傷などよりよほど大きな怪我をした程度の痛みか。
微笑んだ。
良かった。それくらいならまだ致命的なまでのトラウマにはならないはずだ。
「サクラ?聞いてるの?」
「ええ。…殿下は、優しいですね」
王子様が訝るような視線を向けてくる。
「私じゃありません。ちょっと、失敗してしまったんです」
「しっぱい?」
痛みによる衝撃のせいか、王子様の思考は追いついて居ないようだった。
俺は落ち着かせるために微笑んで、手首を掴んでいた王子様の手にもう片方を柔らかく重ねる。
ゆっくりと王子様の手から力が抜けて言って、手が外れたのでほっとして軽く手をつないだ。
アクアマリンブルーの瞳を覗き込めば、少し落ち着いたような色を見つけて笑みを深める。
「サクラは、大丈夫なの?」
ぼんやりと問う声に、笑って頷いてみせる。
「私は、大丈夫です。心配してくださって、ありがとうございます」
じっと俺を見ていた瞳から不意に力が抜ける。
ほっとしたら力が抜けたのだろう。その場に王子様が腰砕けた。
それが契機だったように、戸惑ったように様子を見ていたジュリアさんやウィル、師匠が近寄ってきた。
「何が、どうしたの?」
ジュリアさんは戸惑うように俺と殿下を見比べて、俺の方が幾分しっかりして見えたのか俺に聞いてくる。
「殿下?大丈夫ですか?」
ウィルはそう王子様に問いかけながらも、俺が何かしたのだろうと言わんばかりに睨んでくる。
師匠は何も言わなかったが、窺うような視線を向けてきた。
誰も彼も俺に原因があるんだろうと言わんばかりの視線だった。
うん。まあそうなんだけどね。
そんなに責めるみたいに見なくていいじゃん。泣きたい。
「お前、何にもしてなかっただろうが。どうして殿下がこんなになる事になったんだ?」
師匠の言葉に、ジュリアさんがますます困惑した顔になる。
「それは、本当なの?失敗したって、何をしていたの?」
二人の大人に俺は苦笑を返した。
「この薔薇に、≪共有≫できるか実験していたんです」
俺の説明に視線を移していて、師匠の眉がしかめられた。
それが、自分が先ほど剪定した薔薇だと気が付いたのだろう。
そしてジュリアさんも、俺の指した薔薇の木と眉を顰めた師匠の手にある薔薇の花を見て事態を理解したらしい。
少々その秀麗な眉を顰めて師匠を見て、俺にも非難がましさ半分憐憫半分の目を向けてきた。
ほんと、申し訳ない。
ウィルは何があったのかは理解していないだろうが、やはりお前が原因かと鼻に皺を寄せて睨んできた。
ぐったりと座り込む王子様には本当に申し訳なかった。
うつむいて立ち上がる気配もない王子様の手を握って覗き込む。
「ごめんなさい」
痛かっただろう、びっくりしただろうに王子様は健気にも緩やかに首を振った。
「…サクラがだいじょうぶなら、いいよ」
健気さに泣きたい。
顔もあげれないくらいショックを受けているのに、俺の事を気遣ってくれるなんて。
そっと頭をなでた。
王子様が驚いて顔を上げる。
俺と目が合って再び顔を伏せた。
びっくりした顔が酷いことになっていた。
―――ほんと申し訳ない!
やばい。罪悪感が半端ない。子供を泣かしてしまうなんて。
ウィルが親の仇でも見るように俺を睨んだが、その視線、甘んじて受け入れるよ。
ほんと、最低だ。
最大級に凹んだところで、ジュリアさんが手を叩いて俺たちの顔を上げさせた。
「反省すべき点は多いでしょうが、とりあえず、部屋に戻りましょう」
全員が思い思いに頷いた。
超の付く一流ホテルのロビーのような広さと品の良い豪華なティールームに、心を落ち着かせるハーブティの良い香りが漂う。
つるりとした陶器のような質感の真白いテーブルに、ブルーの染料で細かな蔦の模様が描かれたティーカップが人数分並べられている。
仄かな緑色のハーブティは、アマンダサンが心を落ち着かせる薬効のハーブをブレンドしたものらしい。
優しい香りの紅茶を淹れ、アマンダさんは慎み深いメイドの礼儀で人払いして自身も楚々と出て行ってくれた。
高級ホテルのロビー並みに広々としたサロンに、俺も含めて四人だけだ。
師匠はどう見ても落ち度がないから仕事に戻っている…と思う。ジュリアさんに何事か言われてこの部屋に着く前に分かれたからわからない。俺は今に至るまでずっとドナドナ気分だし。
柔らかく暖かな陽光がステンドグラスを通して白い大理石の磨き上げられた床に美しい幾何学模様を描いて、教会のようにすら思える。
隣に座った王子様はいっこうに顔を上げないし、俺とは反対側の王子様の隣からは敵意たっぷりの視線が突き刺さっている。
王子様の魔法の手伝いをしてからちょっと視線の険が取れるんじゃないかなと、期待していたところだっただけにきつい。だが、これは仕方ない。
完全に俺の失態で、よりにもよって泣かせてしまったのだ。
俺にだって当然言い分はある。
将来ポイされちゃわないために頑張って魔力の底上げと己の可能性に挑戦してみたんだ!
…うん。分かってる。
完全に自分本位だ。
王子様は皆の期待に応えるために自分の子供時代を棒に振って引籠って、先ほども自分の事はそっちのけで俺の為に駆けつけてくれた。
他人の為に一生懸命になれる六歳児を泣かす身勝手な三十路。
言葉にすると本当に救いようがない。
あまりの酷さにさらに凹んでいると、ジュリアさんがため息交じりに口火を切った。
「…落ち着きましたか?」
ジュリアさんの声に王子様は若干目を赤くしていたが、幾分落ち着いた様子で頷いた。
何気に王子様、涙をふくために目をこすったりしないみたいだ。
涙を人に見られるのが恥ずかしい、って感覚があるみたいなのに、何で?
「では、何があったか説明してもらえますか?」
ジュリアさんの言葉に、観念して口を開く。
「申し訳ありません。今日の魔法の授業で視線の≪共有≫を学んだので、殿下だけでなく他のものにも応用できないかと思って試したところ、共有範囲の指定を間違えてしましました」
「≪共有≫?召喚主以外にも使えるものなのですか…?」
ジュリアさんは怪訝な顔をして首を傾げた。
あれ?これって本当は他のには使えないものだったりするの?
でも使えたし、別に支障はなかった…よな?あ、範囲指定が難しいから応用編なのか?
正しい運用方法を知らずに行き成り使ったりしたらこんな風に失敗するって事か。
次からは気をつけないと。特に王子様にダメージがいくのはいただけない。
こんなに可愛い子を泣かしてしまうなんて、本気で最低だ。
「まあいいでしょう。ですが、貴方は殿下をお守りするのが務めなのですから気を付けてください」
ジュリアさんの言葉に、俺は神妙に頷く。
俺も王子様を泣かしたいわけじゃない。こんな失敗はもうしない。
「お母様!なぜもっと強く言い聞かせないのですか?!こいつは殿下を傷つけたのですよ!」
納得いかないと、ウィルがいきり立つ。
うん。お前はそういうと思ってた。
正直俺だってこんな簡単に許されることじゃないとは思うが、きっとジュリアさんの中では俺の首が飛ぶまでのリミットが減ったという認識なのだろうし、長い目で見れば妥当な判断だろう。
ジュリアさんは視線でウィルを黙らせようとするが、ウィルはその視線を無視した。
「お前なんか…!」
「ウィル」
掴みかからんばかりの形相で言いつのろうとしたウィルを制して、王子様が声をかける。
「ぼくは本当に、大丈夫だから」
「ですが…!」
「だいじょうぶ」
繰り返し言われると、ウィルはそれ以上言い返すことなく押し黙ったが、視線だけはオレを睨んだままだった。
ジュリアさんはため息を一つこぼして許してくれた。
本当に許してくれたわけではないだろうけど。
ウィルくらい態度に出してくれた方がありがたいこともある。
王子様みたいに一言も責めないでいると、罪悪感が半端ないんだよ!
「殿下は」
柔らかなジュリアさんの声に促されて、一度深呼吸した後王子様が口を開く。
「稽古中にいきなり痛くなって、びっくりしたんだ。でも、すぐ痛くなくなったし、僕じゃないってわかったからサクラが怪我したのかと思って…」
「一直線に走っていかれましたが、よく居場所がわかりましたね」
王子様がきょとんと眼を瞬く。
「あれ?そういえばそうだね。何となくそこにいる気がしたんだけど…?」
ああ、それは多分王子様との間にあるバイパスを伝ったんだろうね。
イレギュラーで思いもかけない衝撃がもう二度と王子様まで届かないように制限掛けたから、同じように離れた場所から俺の居場所を感知しようとするならよほど集中するしかないけど。
王子様はわかっていないみたいだし、ジュリアさんもそういうこともあるのだろうと追及してこなかった。
「三人とも今日はもう何もできないでしょうから、部屋へ戻っておやすみなさい。今日の分、明日からの訓練が辛くなるものと思ってください」
ジュリアさんのこの言葉で今日は解散らしい。
納得できない様子でウィルが憮然と俺を睨んでいるが、王子様が悄然とした様子で力なく立ち上がると王子様のほうへ心配そうな視線を向けて俺を無視した。
正しい判断だ。
今一番ショックを受けているのは王子様だからな。
ジュリアさんに促されるまま部屋を出て、各人の部屋へ向かう。
離れるのをごねたウィルが王子様の部屋に一緒に入り扉がきちんと閉まったのを確認してから、ジュリアさんが俺の方をたたいた。
「妃殿下がお待ちです。来ていただけますね?」
疑問形をとっているにもかかわらず、有無を言わさぬ響きがあった。
ですよねー。
国の要人を害して、さすがに口頭注意だけとかないわ。
もしかして先に分かれた師匠が王妃様に報告して先にお叱りを受けていたのだろうか。
…誠に申し訳ない。




