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没落貴族に異世界転生?でも総量1万越えの魔力と商才活かしてはじめる国づくり!  作者: 神崎あら
小国編

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95話 法王

ーー首都、サンサールにて


 『タッタタ』

 「母様!」

 「パズール……」


 薬草を手にし首都にある城に戻ったパズールは、まっすぐに母のいる部屋へと駆けていった。


 「見てよ母様、ヤズル草だよ」

 「あらあら泥だらけじゃない」

 「もう母様ってば!見てよこれ」


 パズールの母、ティアナ・ワイズはヤズル草よりも泥だらけで帰ってきた息子の方が気がかりであるようで、パズールの泥を指で落としてやっていた。


 『ゴシゴシ』

 「もうやめてよ母様」

 「まったくこんなに泥だけにして、早くお風呂に入ってしまいなさい、サティ、パズールをお風呂にお願いね」

 「かしこまりました、奥様」

 

 そう言ってティアナは、従者を呼びパズールをお風呂に連れて行くように告げる。


 『ガシッ』

 「では行きましょう、パズール様」

 「嫌だ、話せよサティ!」

 

 そうしてパズールはサティによりお風呂へと連れて行かれてしまった。


 「ふふ、まったくパズールは元気ね……ゴフッ」


 パズールを見送るとティアナは突如咳き込み、吐血してしまう。


 「母様!」

 「平気よグリフ、いつものことよ」 

 「……」


 ティアナの吐血は1年ほど前から始まった。

 最初のうちは、3日1回あるかないか程度だったそれはだんだんと回数が増えていき、現在は1日に数十回はしている。

 グリフにはわかっていた、母は助からないと。

 しかし優しいグリフはパズールにその事を告げられるずにいた。



ーー城の大広間にて


 『ドサッ』

 「くっ、身体が重えな」


 アンドリューは身体を大の字にして床に寝そべりながらそう呟いた。


 「……何をしているアンドリューよ」


 そんなアンドリューを見て、父であるゲラート・ワイズはまるで虫でも見るかのような目つきでそう話す。


 「あ?冷やしてんだよ、悪りぃかよクソ親父」

 「ワイズの血を持つ者としてその行動は恥ずべきだぞ」

 「そうは言っても、熱いんだよ身体がよ」


 アンドリューの身体は度重なる獣人化の実験により異常代謝となっており、常時体温が38.5度を超えていた。


 「ふっ、惨めなものよ、長兄でありながらワイズの血に嫌われて風を継げずに人体実験とはな」

 「なんだとクソ親父、一体誰のせいで俺がこんなクソみたいな実験に付き合ってると思ってんだ!」

 『ムクッ』


 そう言って起き上がったアンドリューは、父であるゲラートの方へと歩き出す。


 「やめろ兄さん!」

 『ブォッ』


 しかし割って入ってきたグリフにより、アンドリューは身体を浮かせられてしまう。

 そしてグリフの隣には、お風呂場から逃げてきたパズールの姿もあった。


 「グリフか!」

 「何してるんだよ兄さん、それに父さんも!今は家族で争っている場合じゃないだろ」

 「……す、すまねぇグリフ、それにパズールも」


 風魔法により宙に浮かされたアンドリューは、俯いてそう謝罪した。


 「ふっ、くだらん奴らよ」


 そう言ってゲラートは大広間をあとにして何処かへ行ってしまった。


 『スタッ』

 

 グリフはそのままアンドリューを地面へと下ろした。


 「兄さん、父さん言い争うなんてらしくないよ」

 「すまねぇグリフ、ちょっと今余裕が無くてな、ついカッとなっちまったよ」

 「神獣種の獣人化はやっぱり大変なんだね」


 グリフはそう言うと悲しそうな目でアンドリューを見た。


 「なんだよグリフ、そんな悲しそうにすんなって俺が神獣化に成功すればパズールは実験をしなくて済むんだ、これくらいやるさ、それよりもグリフお前は……」

 「わかってるよ兄さん、俺がこの国を変えてやる、この歪な国をね」

 

 グリフはそう言うとニコッと笑った。


 「頼んだぞグリフ」

 「ああ、任せろ兄さん」


 ゲナト法国には、建国当初からの悲願があった。

 それは天使を人の身に宿す事。

 その実験には代々王の妃がやる事になっており、ティアナもその被験者となった。

 ティアナは天使との相性が良く、天使を身に宿して5年以上なんら異常など無かったが、1年ほど前から突如として拒絶反応が始まり、瞬く間にティアナの身体はボロボロになっていき余命が残り僅かとなっていた。

 そんな折、父であるゲラートはティアナから天使を下ろす事を検討していると三兄弟に告げる。

 しかし下ろすには条件があり、1つはアンドリューがケルベロスの宿主となること。

 2つ目はグリフが正統な後継者として風の属性の魔力操作を極めること。

 そして3つ目が新たな適合者を探す事だった。


ーー3年後、パズール13歳、グリフ16歳、アンドリュー19歳。


 『グサッ』

 「ゴフッ、グリフそれでいいのよ」

 「ごめんね母様、こうするしかないんだ」


 深夜、皆が寝静まったこの時間。

 グリフは母であるティアナの腹部を刺してそう呟く。


 「う、うぇぇぇん」


 グリフの横にいたパズールは刺された母を見て泣き出してしまう。


 「私の中にこんなものがいるから、あの人は……ゲナトの王達は狂ってしまう、だからこの天使は私ごと葬るべきなのよ」

 

 吐血しながらもそう話すティアナ。

 天使の宿主となった者が、宿主のまま死ぬとその中の天使も死ぬ。

 これは代々ゲナトに伝わる確かな情報。

 そしてこれを覚えていたティアナは、ゲナト法国の狂気の元凶を断つべく、グリフに頼み込み実行に移した次第である。

 ちなみにパズールは、たまたま母の寝室にいただけで、詳細は知らされていない。


 『ふふ、可愛いティアナ、私のティアナ、まったく可愛くない事するわね』


 そうしてティアナの中からその元凶は姿を表すのだった。


 「か、母さん?」

 『まったく愚かな息子ね、こんなのでこの国を救えると本気で信じているとは』

 「母さんじゃないな……お前、天使か」


 現れた天使はティアナの身体を乗っ取り、ティアナの顔と声を真似てそう話す。


 『ふふ、私は死なないわよティアナ、たとえお前が死んでもこの血を分け与えた息子達の身体で私は生きる!』

 『ズオオオ』


 そうしてティアナの身体から這い出た天使は、幼いパズールの元へと向かって行く。


 「わ、わぁぁあ」

 「よせ!」

 『ズシャッ』


 そうして天使は、パズールを庇ったグリフの顔に吸収されていく。


 『ズオオオオ』

 「に、兄さん!!」

 

 

 



 


 

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