94話 パズール・ワイズ
ーーラナトス&パズールにて
「ぷはぁ、なんとか生き延びたね」
地面に大の字で寝そべったラナトスは、パズールへ向けてそう言った。
『シュウウウ』
パズールの身体は蒸気を出しながら萎んでいき、ミノタウロスの姿から元の人の姿へと戻っていった。
「兄ちゃん……」
「あんな事されてまだ兄貴呼び名のは、驚きだね」
「うるせぇラナトス、俺にとってはあれでも良い兄貴なんだ」
「良い兄貴?」
「ラナトス、お前は兄貴が狂ってると言うがな、それはゲナトを知らないから言える事なんだ」
パズールは俯きながらそう呟く。
「ゲナトを知らないか……まぁ俺もゲナトのことは、獣人がいる事と現法王が狂ってる事くらいしか知らないからなぁ」
「親父が狂ってるね、まぁそれは正しいよ」
「そうなのか、正直俺からすればグリフも充分狂ってると思うけどね」
「兄貴は元はああじゃなかったんだ、俺やアンドリューの大兄貴とも仲が良かった、でもそれをあの親父は許さなかったんだ」
悲しそうにパズールはそう話す。
「何があったんだい?」
「それは……」
ラナトスにそう訊かれたパズールは、ゆっくりと口を開く。
ーー10年前、ゲナト法国にて
「あ、見つけた!」
ゲナト法国の首都サンサールの郊外にある森の中で10歳のパズールは、この地で万能薬として飲まれている薬草のヤズル草を見つけて、喜びの声を上げていた。
『フワッ』
「おいパズール、何やってんだ?」
「ワイズ兄ちゃん!」
そんなパズールを上から見ていたワイズは、思わずそう声をかける。
「その草、もしかしてヤズル草か?」
「うんそうだよ!これを飲ませれば母様も良くなるはずだよね」
目を輝かせてそう訊ねてくる幼いパズールを見て、ワイズは少し驚いていた。
パズールとワイズ、それとアンドリューの母であるティアナ・ワイズは重い病を患っており余命僅かと医師から言われている。
もちろん、法国一の治癒魔法の使い手の医師が手を尽くした上でそう言っているのだ。
助かる見込みなどない。
そしてそれを知らないパズールは、健気にここ毎日山へ入りヤズル草を探していたのだ。
「はは、そうだなパズール、早くそれを母様のところへ持っていてやろうな」
「うん!」
『フワッ』
そう言ってワイズはパズールを担いで、空へと飛び上がる。
パズールがここ最近ずっとヤズル草を探していた事を知っていたワイズに、辛い現実を伝える事は出来なかった。
幼い弟の健気な良心をワイズは傷つけたく無かったのだ。
「兄ちゃん、母様が治れば父様も大兄ちゃんもみんな笑顔になるかな?」
パズールは自信を抱えて空を飛ぶワイズにそう問いかける。
「もちろんだろパズール、父様も兄様も笑顔になるさ、もっと言えば俺だってこの法国の民だって笑顔になるよ」
「わぁ、それ聞いたら俺、なんか楽しくなってきたよ」
そう言って笑うパズール。
「ああそうだな、俺も楽しいよパズール」
そう話し笑い返すワイズ。
そうして2人は、サンサールへと帰還するのだった。




