92話 撤退
『ザシュッ』
『ぐはっ』
ラナトスの振り抜いた聖刻印は、またもやグリフを守る盾となったパズールを切り裂いていた。
「健気だね」
「よ、よくやったぞパズール」
身を挺して己を守ったパズールにグリフは、よろめきながらもそう告げる。
『パキキキ』
そうしてラナトスの愛刀を紫色のオーラが覆い始める。
「グリフ、逃さないよ」
「来いよラナトス!不意打ちじゃなければお前なんぞ俺の風の魔力の餌食になるだけだ」
「神式魔剣技【聖刀一閃】」
「唸れ暴風、塵風乱戦」
『ズガァン』
ラナトスの力属性と神属性を纏った魔剣技と、グリフの風属性魔力の最大技"塵風乱戦"が激しくぶつかる。
塵風乱戦、右手と左手にそれぞれ逆回転の風属性の魔力を纏い、同時に放つ技であり指向性のある強力な竜巻を出現させる事ができる。
「はぁはぁ、なかなかやるねグリフ」
「そっちもなラナトスよ、この俺の塵風乱戦を防ぐとはなかなかの技よ」
「君、人格は終わってるけど技のキレや才能はちゃんとあるみたいだね、まぁそのせいでかなり勿体無い印象だけど」
ラナトスは肩で息をしながらそう話す。
「余計なお世話だよラナトス、その様子だとその刀抜くだけで大量の魔力を消費するみたいだな」
「……さぁ、どうだろうね?」
魔道具、神刀・聖刻印は抜刀時、魔力を500ほど消費する。
魔力量1万のエリックや8000のアーチボルトなら大した事はない量なのだが、ラナトスの魔力量は1500ほどなのでその500がとても大きい。
そのためラナトスは神刀・聖刻印を長時間使用するのは難しく、理想は敵の背後に回り込んだ不意打ち一撃で仕留める事なのである。
「無理すんなよ、もう魔力も限界なのはその様子を見れば誰でもわかる」
『キュオ』
そう言ってグリフは、右手に風を纏い始める。
「これは結構まずいね」
「あばよラナトス」
『パシュッ』
その時、上空に赤い閃光弾が上がった。
『あれは、ラングレーの作戦完了の合図か』
ボロボロのパズールは、その赤い閃光弾をみてそう呟いた。
「お、ラングレーの奴やったみたいだな」
そう言ってグリフは笑みを浮かべる。
「てなわけで俺は撤退させてもらうぞラナトスよ、命拾いしたな」
「……」
『ブワッ』
そう話して空中に浮くグリフをラナトスはただ黙って見つめていた。
『に、兄ちゃん!』
パズールは飛び去ろうとするグリフへそう声をかける。
「あ?お前の事なんて置いていくに決まってるだろパズール、せいぜいラナトスと仲良くやんな」
『ビュンッ』
そう言ってグリフは空高く飛び上がりどこかへ消えてしまうのだった。




