83話 漆黒の獣
アンドリュー・ワイズは狼男ではない。
ゲナト法国で行われてる獣人計画には、2つのステージがある。
一つは、通常種の獣人。
これはラングレーのゴリラ獣人が良い例である。
この世界にある程度生息していて、神話以外の生き物。
では、二つ目はーー。
『グォォオ』
3メートル近い体躯に漆黒の毛並み、そして三つの首……アンドリューの姿はとても人狼と呼べるものではなくなっていった。
「な、なんだよこれ」
その姿を見て思わず足が竦むエリック。
そしてアンドリューのその姿を、エリックは昔聞いたある神話の生き物のと重ねていた。
『はぁ、はぁ、流石に自我を保つのはしんどいぜ』
「……ケルベロスか」
『お、この姿の名を知っているとはさすがだなエリックよ』
ケルベロスとなったアンドリューは、そう言って不敵な笑みを浮かべる。
「それが本当の姿なのか」
『ああそうだ、俺の真の正体はケルベロス、今までの狼男の姿は三つ首のうちの一つってわけよ』
そう話すのは三つ首の真ん中であり、両脇の首達はエリックを睨んだり、ニヤついたりしていた。
ゲナトの獣人計画の二つ目とは、神話上の生物の獣人である。
ケルベロスやペガサスなどの獣人化をゲナトは研究しているのだ。
「……」
『なんだよエリック、怖気付いたのかよ』
「お前、その身体は元からそうだったのか?」
エリックはそうアンドリューに訊ねる。
『先天性のものではない、後から貰ったものだ』
「そんな身体にさせられて、悲しくはないのか?」
『……おいエリック、俺の国を……ゲナトをお前らアルトと一緒にするな、新興国ってのは常に力が必要なんだよ!』
そう言ってアンドリューは、エリックへ向け突進した。
『ゴスッ』
「くっ、なんて力だ」
ケルベロスとなったアンドリューの一撃をモロに受けたエリックはそのまま、数メートルほど吹き飛ばされる。
『バコォン』
『おいおいエリック、この程度の攻撃で吹き飛ぶとはお前も大した事ないな」
アンドリューは、森の奥へと吹き飛んだエリックへ向けそう言い放つ。
「痛え……いきなり突進してきやがって、この野郎」
頭を押さえたエリックはそう言いつつ、森の奥からゆっくりと歩いてきた。
『さすがの耐久力だな、魔力量1万ってのも嘘じゃなさそうだな』
「誰が嘘だって言ったよ?全部本当のことに決まってるだろ」
エリックはアンドリューの言葉にそう返した。
『エリックよ、気付いてるかは知らんが俺自身の魔力量はほぼゼロなんだぜ』
「そうなのか!?」
『なんだよ気がついてなかったのか?』
「あ、ああ、俺はてっきり魔力量が多いのかと」
『獣人化ってのは、魔力量が多いとうまく適合できないんだ、だから俺の魔力量は30くらいなんだ』
「さ、30だと!」
成人男性の魔力量の平均は150ほどであり、アンドリューの魔力量30はその5分の1程度しかない。
これは本来、大きな弊害となり得る事なのだが、獣人化は魔力量が多いと成功しないため、ゲナトにとってはむしろ好都合なのである。
『エリックよ獣人化ってのはな、移植される者の本来の魔力量が多いと、移植される獣の魔力が上手く身体に収まりきらない、だから適合者の元々の魔力は少ない方がいいってわけになる』
「……なるほどな、でも待てよその話が本当ならお前の今の魔力は、ケルベロスの魔力になるって事だから……」
『鋭いなエリック、そうさケルベロスの力を解放した俺の魔力量は7000に跳ね上がってる、そしてこんな事もできるんだぜ』
『ギュオオオ』
アンドリューはそう言うと、ケルベロスの右側の頭の口の中で黒紫色のエネルギーの塊を生成し始める。
「おいおいなんだよそれ」
それを見てエリックはそう呟く。
『あばよエリック、黒狼弾!』
『バシュッ』
そうして放たれたエネルギーの塊がエリックへと襲いかかる。
「まずい、防壁が間に合わない!」
『ズドォン』
放たれた黒狼弾はそのままエリックへと直撃し、その衝撃によりエリックは遠くへ吹き飛ばされてしまう。
『フハハ、どうだエリックよ、これがケルベロスの……俺の本気の力だぜ』




