78話 騒乱
ーー宿屋にて
「ルース!」
「母さん!」
『ガバッ』
宿屋に戻るとエリーはルースを見るなり強く抱きしめる。
……中身の事を考えると複雑な絵面だが、まぁここは許そう。
「母さん、父さんが助けてくれたんだ!すっごい強くてカッコよかったんだよー!」
ルースは2歳児らしく父の凄さを母に誇張気味に語った。
おいおい……あんたがそれをやるともはや違和感なんだよ。
『クスクス』
ふと隣を見るとラナトスがクスクスと笑っていた。
こいつ、他人事だと思って笑いやがって。
まぁでも、とりあえずルースを救えたし良かったか。
「さすがねエリック、私の旦那をやるだけはあるわね」
「おう、旦那の威厳が守れたようでなによりだよ」
「にしてもエリック様、ゲナトの刺客達はどうしたんだい?」
「ああ、アイツらなら今頃この街の牢屋の中だよ」
あの後、俺とルースはシスティーナさんの元へアンドリュー達ゲナトの者を連れて行き、拘束してもらった。
まぁアイツらのことはシスティーナさんに任せるとして、今回の襲撃はゲナトだけなのだろうか。
レヴァンスとかからも刺客が来ていたりするのかな。
「システィーナさんのところか、少し心配だな」
ラナトスは顎に手を置いてそう呟く。
「心配ってなんだよラナトス、街の牢屋にいれば安全だろ」
「いや、そもそも簡単過ぎるんだよエリック様」
「簡単?」
「ああここまで簡単に出来過ぎてる、そとそも他国からの刺客をこれだけ順当に捕まえられる事ってあんましないよ」
「まぁ確かに……」
ラナトスにそう言われて、俺は酒場での事を思い返す。
ま、待てよ、あの時酒場にはアンドリュー以外にももう1人、ルースを捕らえた奴がいたはず。
そういえばアイツはどこへいったんだ。
「エリック様、この件はこれで終わりとは俺は思ってないよ、もっと何か見落としている事があると思うんだ」
「……すまんラナトス、早速だが見落としている事があるかもだぞ」
「本当かい!ならそれを早く教えてーー」
『バン』
その時、部屋の扉が勢いよく開いた。
「た、大変です皆さん」
扉から出てきたのは息を切らしたユリンだった。
「どうしたのユリン?」
「エリー様……今しがたこの街の騎士達から連絡があり、騎士団長システィーナ・ティッチさんが、牢屋に捕らえられていたアンドリュー・ワイズと共に姿を消したそうです」
「なっ、なんだってー!」
俺はユリンのその話を聞いて思わず大声を上げてしまった。
「お父さんうるさーい」
「す、すまんルース」
「ユリン、その話は本当かい?」
ラナトスは落ち着いてユリンへそう確認する。
「はい、本当です」
「そうか……まさか狙いは初めからシスティーナ様だったのかな」
ラナトスは静かにそう呟く。
まずいな、もしその話が本当なら俺達はアンドリューに利用されたという事になる。
うーん、これはシスティーナさんを助けるのが賢明だよな。
「よしラナトスよ、今すぐシスティーナさんがいなくなった牢屋の方へ行ってくれ何かわかるかもしれないし」
「了解」
「エリーとルース、そしてルーナはとりあえず部屋に戻ってくれ、サーシャ!3人の守りは任せたよ」
「わかりました」
俺はすかさず、ラナトスとサーシャに指示を飛ばす。
「エリックはどうするの?」
エリーが心配そうにそう訊ねる。
「俺はリーヤと共に奴らを追うよ」
「でもどうやって?」
「竜の力を使って奴らを追う、だから頼むよリーヤ」
「もちろんです」
リーヤは両の手を握り嬉しそうにそう言った。
「じゃあ行ってくる、ラナトス、それにサーシャも頼むよ!」
『了解』
そうして俺は宿屋を出て、システィーナさんの後を追う。




