77話 ゲナト法国
ーー酒場の近くにて
『パキキキ』
「ふぅ、にしてもワイズ家がここに来ているとはね」
エリックは凍って動けなくなったアンドリューを見てそう呟く。
「なんじゃ子孫よ、こいつを知っているのか?」
「アンドリューって奴は知らないけど、ワイズ家なら知ってるよ、つかルースよ、呼び名なんだけどさ父で統一してもらってもいいかな?」
「別に構わんぞ、父よ」
ルース改めその中身の3代前の領主であるサルーサ・ベルーナにエリックは断れると思っていたが、帰ってきたのは構わんという言葉だった。
「あ、ありがと」
「うむ、別に呼び名にはそこまで拘ってはおらんからな、それよりもワイズ家というのに興味がある、教えてくれ父よ」
とても2歳児とは思えない態度でルースは、父であるエリックにそう訊ねる。
「……まぁ父と呼んでくれるだけ良しとするか、いいかいルース、ワイズ家ってのは北の大国ゲナト法国の教祖家系なんだ」
「教祖家系、なんじゃ教祖は世襲制なのか?」
「厳密にいうと世襲制ではないらしくて、なんでも教祖が死ねばその魂はその息子に宿るって言ってるらしい」
「ほう、おもしろいな」
ルースはそう言ってニヤッと笑った。
「いやいや面白くないって、そのせいでゲナトはその代の教祖次第で戦争したり和平したりでめちゃくちゃなんだよ」
「なっははは、なんじゃそれはもうしたい放題じゃないか」
「だからそうなんだって」
エリックは苦い顔をしてそう呟く。
ゲナト法国とは、今から80年ほど前にレヴァンスから独立したゲナト教信徒により作られた新国である。
そこから現在のサイモン・ワイズまで、法王はワイズ家の実質的な世襲制となっており、近隣諸国と戦争をしたり協定を結んだり破棄したりと、何かと諸問題の多い国である。
「それで父よ、このデカブツどうするのだ?」
「とりあえずこの街の騎士達に身柄を送るかな」
「うむ、良い判断だ」
そう言ってルースはうんうんと頷いた。
「なぁルース、いやサルーサさん貴方にとって俺ってどんな立ち位置なんだ?」
エリックは気まずそうにそう訊ねる。
「うーん難しいな、まぁ一先ず父とは思ってるよ」
ルースはそう言って2歳児らしく可愛く微笑んだ。
「う、嘘くせぇ……まぁ俺にはそんな感じでいいけどさ、エリーにはくれぐれもバレないように頼むよ」
「うむ承知した」
「さぁ、宿に戻ろうか」
「……して父よ、エリーは誠に良い女だな」
ルースは藪から棒にとんでもない事を口走る。
「おいお前、自分の母親になんて事を!」
「良いだろ、ここにはいないのだし、しかしお前ら夫婦は本当に若いな、そんなんで上手くやっていけてるのか?」
「色んな人が支えてくれるから領地運営はしっかりできてるよ」
「そうか……なぁ父よ今度、この私に今のベルーナを見せてくれないか?」
真剣な眼差しをエリックへ向けてルースはそう話す。
「ああ良いよ、そうだよな気になるよな」
「まぁそりゃあな、なんたって私からすれば未来の自分の領地なのだからな」
ルースは星空を見つめてそう呟くのだった。




