60話 4年後のベルーナ
ーーベルーナ邸にて
『タッタタ』
「パパー、見て見てこんなのできたよー」
ルーナはそう言って、先ほど魔法で作成した氷人形を片手に、エリックの書斎へと走る。
『バタン』
ノックもなしにルーナは、父であるエリックの書斎へと入っていく。
「ルーナ!」
「パパ!」
ドアを開けるとそこには、椅子に座るエリックと政務官のフィオがいた。
エリック・ベルーナ、21歳。
今年で領主歴4年目を迎え、実績も4年前とは比べ物にならない程に積みたて、威厳も少しだが出てきていた。
「見てこれ作ったの!」
そう言ってルーナは、右手に持つ氷人形をエリックに見せた。
「わぁ、す、凄いなぁ」
愛娘の作った氷人形を嬉しそうに見るエリックだが、その表情はどこか硬い。
「お嬢様、領主様は今大事なお話中なので、お部屋の外でユリンと遊んでくださいね」
そう言ってフィオはルーナを部屋からつまみ出してしまう。
「あ、やめてよフィオ、パパ、パパー!」
『バタン』
「さて、話に戻りましょうか」
「う、うん」
自身の娘の半泣きを直に見て複雑な心境になるエリックだったが、フィオとの話し合いに心を切り替える。
「それで、その魔道鉄の産出国との交渉はどうなんだっけ?」
「停滞しております、こちらの魔石とあちらの国の魔道鉄があれば質の良い魔道具が作成可能と伝えているのですが、耳を貸しません」
「そうかぁ……」
リップティッチ王国、そこは純度の高い魔道鉄の産出国であり、4年前にアーチボルトに紹介された国でもある。
エリックは、この4年でセントレアを上回る量の魔石の供給に成功し、ベルーナ領を見事アルト王国内の魔石の最大産出国とした。
その実績を携えて、今まで外交を行ってこなかったリップティッチとの独占交渉に臨んでいたのだが、交渉を始めて半年で進展はほぼ無い。
「領主様、やはりここは直接国を訪れるべきでございます」
「う、うーん、やっぱりそうなるかぁ」
エリックはそう言うと、額に手を当て苦い顔を浮かべた。
「行ってみたいのは山々なんだけど、あそこの国って、レヴァンスとアルト、それにバージョ王国の真ん中にあるから、ベルーナの領主の俺が出向くと騒がせないか心配なんだよなぁ、それに5大国協定もあるし……」
リップティッチ王国は、いわゆる中立国であり、戦争を自らは仕掛けない代わりにどの国もリップティッチに侵攻してはいけないと、5大国協定できまっている。
そのため、リップティッチ王国に国内の有力貴族が行く事自体が他国に警戒されてしまうのだ。
「領主様、そこはお忍びで行くのです」
フィオは悪い顔をしてそう提案する。
「……やるしかないのか」
そう話すとエリックは、静かに頭を抱えた。
ーーエリック邸の庭にて
庭ではエリック家の長男ルースと、その母エリー・ベルーナが小さな紙ヒコーキを飛ばして遊んでいた。
『ポスッ』
「あうっ!」
「あらあらルース、大丈夫?」
その時、ルースが小石に躓いて転けてしまった。
『ムクッ』
「だいじょうぶ」
そう言ってルースは自分の足で立ち上がった。
「怪我は……無いみたいね」
エリーは立ち上がったルースの身体を触ってみるが、どうやら怪我はしていないようだった。
「ルース坊ちゃんは本当に丈夫ですよね、この前も屋敷の二階から落ちても無傷でしたし」
ユリンは、無傷のルースを見てそう呟く。
ルース・ベルーナ、2歳。
魔力総量1万を誇る父エリックと、魔力総量2000の母エリーとの間に生まれた彼もまた、魔力総量8000を有する化け物である。
だがこの事実をまだ、祖父であるルージュ以外誰も知らない。




