29話 バナーとの商談
まさかセントレア側の使者が、よりによってこのおバカ貴族の坊ちゃんとはな。
こいつにちゃんと商談の話とかできるのだろうか……不安だ。
「それで没落野郎、例のあれは持ってきているんだろうな?」
「当たり前だろ、ほらよ」
そう言って俺は後ろの荷馬車を指差した。
「いいね、約束通りできたじゃねぇかよ」
「そりゃどうも」
良かった、ちゃんと取引をしてくれるみたいだ。
ま、こいつも名家の跡取りだもんな、そのくらいの常識はあるか。
今回俺はセントレアへ向かう馬車の中に、約4万個ほどのソーセージを持ってきている。
これは協力する対価の前金代わりに売りつけたものであり、この街でその取引をするつもりだ。
ちなみにセントレアもゼネラル家同様に食糧難らしく、ソーセージの取引は案外簡単に締結できた。
「よし、それじゃあこれで取引成立だ」
『ジャラッ』
俺は対価であるアルト王国で流通している金貨、200枚をバナーから受け取った。
「ありがとよ、セバスチャン!ほらよ」
俺はバナーから受け取った金貨をそのままセバスチャンに渡す。
「確かに受領しました」
「じゃあセバスチャン、手筈通りその金貨をベルーナに頼むよ」
「かしこまりました」
そうしてセバスチャンは、そのままベルーナへと帰っていった。
ソーセージの取引はこれから毎週2万個を納品予定であり、今後ともセントレアとは良い関係を築いていきたい。
まぁ向こうの出方次第だけど……。
「それでバナーよ、俺は何をすればいいんだ?」
「あ?そんなの戦地の最前線、敵国に奪われた領土奪還に行ってもらうに決まってるだろ」
やはりそう来たか、こいつらセントレアからしたら俺は使い勝手の良い消耗品みたいなもんだしな、まぁ覚悟の上だけど。
「わかった、俺1人か?」
「んなわけあるかよ、ちゃんと一師団がいくさ……それに」
そこまで話したところでバナーは、気まずそうに遠くを見た。
なんだ気になるな。
「よぉおお!!そこにいるのが現ベルーナ領主かぁ!!」
その時、バナーの見つめる先の豆粒ほどの大きさの人影から大きな声がした。
いやいやなんだよこの声量、ここからあそこまで100メートル以上は離れてるだろ。
「おい没落野郎、ちゃんと返事しろ」
「お、おう、いかにも!!俺が領主のぉ!!エリックだぁぁぁ!!」
俺は自分の限界ギリギリの声量を出し、そう叫んだ。
「おお!!聞こえたぞぉぉ!!よろしくなぁぁぁ!!」
「……すげぇ声だな」
引き気味に俺はそう言った。
「あれが今回、お前と一緒に行く師団長にして俺の親父、ロックウェル・セントレアだ」
「……は?」
いやいや待て待て、ロックウェルと言えばここセントレアの領主じゃないか。
そんな人が俺と一緒に最前線に行くとか、どうなってるんだ、一体。




