27話 エリック戦地へ行く
ーー2週間後
出産から2週間たった。
産まれた子は女の子だったので、俺はラテン語で月を意味するルーナと名付け、それはもう溺愛している。
「ルーナ、パパでちゅよー」
「きゃはっ!」
早朝、俺は日課である娘のルーナに、いないいないばあをしていた。
「エリック……あなた必死ね」
「え、なにが?」
「いや、なんでもない」
ルーナの横で寝ているエリーはそう言って俺から目を逸らした。
商談やらなんやらで家を空けることが多い俺は、家にいるうちはなるべくルーナの元へ行き、ルーナが父の事を忘れないようにしている。
おそらくエリーはそんな俺の思惑を知った上で、必死ねと言ったのだろう。
エリーよ、俺は忘れられたくないんだ、わかってくれ。
「ばぁ!」
「きゃはっ!」
「……そんな事よりもエリック、貴方戦地に行くと聞いたけど大丈夫なの?」
エリーは心配そうにそう訊ねてきた。
3日ほど前に協力関係にあるセントレアから新たに援軍要請の書簡が届き、俺はこれから戦地へ行く。
家族を残すのは心配だが、そのためにラナトスさんを呼び戻しているのだから、そこは任せるつもりだ。
ちなみにベルーナからセントレアに送る戦力は俺1人である。
まぁ俺がうちの最高戦力だし、向こうも異論はないだろ。
「ああ、時間的には大丈夫だよ、午後出れば間に合うわけだし」
「そうじゃなくて……」
エリーはそう言うと、不安そうな顔を浮かべた。
なるほどな、出発時間じゃなくて俺の心配をしてくれてるのか。
うん、良くできた嫁だ。
『ギュ』
俺はそのままエリーを抱きしめた。
「ちょっ、いきなり何するの!?」
「……エリー、多分俺はこれから半年ほどここを空ける、でも心配しないでほしい、俺なら絶対大丈夫だから」
俺はエリーの耳元でそう呟く。
「わかっているわ貴方が強いことはね、でも心配なのは貴方の心よエリック、家族と離れて平気なの?」
エリーは俺の心を見透かしたようにそう話す。
そ、そうきたか。
まぁ確かに産まれたばかりのルーナやエリー、そしてじーやに会えないのは辛いけど、これは我が領、ひいては俺たち家族のための決断でもあるのだ。
覚悟はできている。
「平気ではないかもね、でもさエリー、これは俺の……いや領主のやるべき事なんだ、だから頑張りたいんだ」
「わかったわ、私とルーナは貴方をここで待つ、必ず無事で帰ってきてね」
「ああわかってるさ」
そうして俺はさらに強い力を加えて、エリーを抱きしめた。
ーー裏山にて
「若領主様!」
「ラナトスさん」
俺は出発前にラナトスさんに会いに来ていた。
「どうしたんだい、もう出発の時間だろ?」
「そうなんだけど、出発前にラナトスさんと話をしたくてさ」
そう言うとラナトスさんは目をパチクリさせながら、俺を見た。
「えっと、なんだい話って?」
「ラナトスさん、家族をこのベルーナを頼むね」
真剣な眼差しでそう話すと、ラナトスさんも同じくらい真剣な眼差しを俺へと向けた。
「そういうことか、もちろんさエリック、いやエリック様、任せてくれ」
ラナトスさんの言葉から、若領主が消えている。
なるほどな、俺の覚悟をわかってくれたのか。
「ああ任せるよ、ラナトス」
そうして俺はセントレアへと出発するのだった。




