第9話 愛住の初任務!
「諸君!おはよう!さっそくだが、古の呪いを発見する装置を開発した。名付けて『コレノロイ』だ」
スペルトンがそう言うと、何もない空間から煙と共に、バスケットボールのようなプカプカと宙に浮かぶ球体があらわれた。
「スペルトンさん。その恰好はなんですか?」
「手品師だ!地球にはマジシャンという魔法使いがいるんだろ? 彼らの衣装を参考にした」
スペルトンはそう言うとかぶっていた帽子から鳩のようなものを出し、ステッキからレーザー光線を出した。
「!」
偶然にも愛住と田中をかばうように一条がレーザー光線をくらい、軽く吹っ飛んだ。
「さすが一条!生物に害はない!少し痺れるだけだ!」
一同は『コレノロイ』を使って古の呪いの媒体を探すことにした。
だが、いかんせん呼びにくい。そこで一同は、『コレちゃん』と命名した。
「ほー、本当にニックネームをつけるんだな? 地球の『魂を込める儀式』ってやつか?」
スペルトンは感心したように言うと、軽く身体を叩く。
いつもの宇宙服に戻り、脱いだマジシャン衣装を丁寧に畳み始めた。
「コレちゃん、探してくれる?」
愛住が呼びかけると、球体が電子音を響かせた。
『コレ、リスト、6件、ハッケン』
空中にホログラムのリストが浮かび上がる。
「これ……まだ下書きだな」
田中が画面を覗き込んで言った。
「本当だ。未完成の下書きの物語でも、媒体になるんですね」
愛住が感心したように声を漏らす。
「スペルトン、その呪いの回収に難易度とかはあるのか?」
一条の質問に、スペルトンは畳んだ衣装を紙袋に入れながら答えた。
「どうだろうか? 物語の構造や文字数で変わるかもしれないな」
スペルトンがコレちゃんを操作すると、ホログラムに新たな項目が追加された。
「あ、この下書きの物語は『Dランク』みたいですね。比較的やりやすそうです」
田中が指差す。
「待て、この難易度Bの物語、俺知ってるぞ。とにかく文字数がめちゃくちゃ多いやつだ」
一条が苦い顔をした。
「ねえスペルトン、これ、スマホゲームもリストに入ってるんだけど」
愛住が画面の一角を指す。
「ゲーム? なるほど、その可能性もあるか。『コレノロイ』を開発してわかったが、何らかの強い感情が込められ、昇華しきれずに残ったものが古の呪いの媒体になりやすいんだ。地球では、それを『呪い』って呼ぶんだろ?」
「呪いか! まあ、物語が呪いになってもおかしくはないわな」
一条がさらりと言った。
「一条さん……なんだか、少し変わりました?」
田中が顔を覗き込むと、一条は頭をかいた。
「そうか? ……みんなには迷惑をかけたからな」
「物語の呪いが解けたら、やっぱり作者の呪いも解けるんでしょうかね?」
愛住がふと疑問を口にする。一条はニヤリと笑って答えた。
「自分で勝手に呪われておいて、他人に祓ってもらうっていうのも、よく考えたら変な話だがな」
妙に重みのあるジョークに、田中と愛住は愛想笑いを浮かべるしかなかった。
「難易度についてだがな、一条のあの物語はSランクだったぞ!」
そこに、スペルトンが空気を読まずに割って入る。
「なるほど、ならやれるかもしれない!」
「作者降臨のメタ展開で無理やり終わらせましたからね!」
一条の感嘆に、愛住が言葉を添える。
その傍らで、田中は静かにツアーゼルのフィギュアを見つめていた。
「よし! それではいつもの通りミーティングだ! 今日はコーヒーマシーンがあるぞ。お茶菓子はカステラだ!」
場を切り上げようとスペルトンが声を張り上げる。
彼は忙しそうにエプロンを着け、頭に三角巾を巻いた。
***
「泣かぬなら!」
「泣いて見せよう!」
「鳩とキジ!」
目の前の光景に、田中と愛住は完全に困惑していた。
下書きの物語に『エンダーオン』した直後、二人はすでに包囲されていたのだ。
突如現れた3人の男たちは、それぞれが自分こそ「真の勇者」だと名乗り、二人に握手を求めてくる。
そのメンツは――おっさん、魔獣、そして魔人。
いずれも、その種族のむさくるしさを限界まで煮詰めたようなビジュアルだった。
しかし、田中と愛住が事情を説明した途端、彼らはなぜか乙女のようにはしゃぎ出す。
「これぞ! 幸い!」
彼らはこの物語のイベントをすべてクリアしてしまい、完全に暇を持て余していたらしい。出口が見つからず困り果てていたところへの、待望の救世主登場だったというわけだ。
「では、さらばだ!」
エンダーゲートへと歩き出す3人。
――と、思った直後、彼らは一斉に振り返ってニタリと不敵に笑った。
ドォッ、と超高速で移動したかと思うと、まずは田中に全力のハグをかます!
尋常ではない圧を察知し、「ヤバい」と感じた愛住はすぐさま逃げ出そうとした。
が、遅い。
3人は瞬間移動で退路を断つと、逃げる愛住をガッチリとホールドした。
「うわあぁ!?」
悲鳴を上げる愛住をそのまま「わっしょい!」と胴上げしながら、勇者たちは満足げに高笑いした。
そして、嵐のようにゲートの中へと消えていった。
ξ
「田中、その手に持っているのはなんだ?」
一条が怪訝そうな顔で、田中の手元を指差した。
「あ、これ……シーツの切れ端みたいです。さっきの勇者たちに、ハグされたドサクサで握らされて……」
田中が困惑しながらそれを差し出す。
「ん? そいつはおかしいな。エンダーオンした世界からは、物質は持ち帰れない仕様のはずだが?」
スペルトンがそう言いながらシーツの切れ端を受け取り、ひっくり返して調べ始めた。
「どこからどう見ても、しっかりとしたシーツだ。……しかし、なぜ持ち出せたんだ?」
スペルトンが首を傾げていると、一条が視線を移した。
「……まあ、原因は追々調べるとしてだ。ところで愛住、初任務はどうだった?」
訊ねられた愛住は、魂が抜けたような目で遠くを見つめ、ぽつりと言った。
「……むさ苦しかったです」




