第14話 合体!エンダーGO!
「田中、やめろ! そこ斜線通ってる!」
一条が叫んだ瞬間、彼らの乗るエンダー号の左腕が敵の砲火で吹き飛んだ。
すかさずブーストを焚き、遮蔽物の陰へ滑り込む。
「ちょっと敵が多すぎる……!」
「一条さん、戦うんです! ツアーゼルがいるんですよ!」
一条たちが乗り込むエンダー号がツアーゼルの護衛たちにじわじわと追い詰められていた。
そして、エンダー号が遮蔽物として使っていた不動明王が敵の攻撃で崩れ去る。
7体の敵機が一斉に武器を構えた。
その銃口に漆黒のエネルギーが充填されていく。
『ドンドンドン!!!』
その時――上空から滑空してきた飛行機が、寸分の狂いもない弾幕を吐き出した!
凄まじい火力を叩き込み、一気に敵機体を破壊する。
煙を上げて大破した敵機を背景に、上空を鮮やかに旋回するなぞの機体。
通信機から、愛住の声が届いた。
「田中さん、一条さん! 愛住が来ました!」
「てか、おまえなんで饅頭食べてるの?」
通信に映る愛住は饅頭をもぐもぐと食べていた。
「お饅頭で回復なんですよ!!」
よくわからない返答に困る一条だが、とりあえず危機は脱出した。
***
「……しょうもない護衛ね」
ツアーゼルの黒い機体から無数の触手が蠢くように伸び、大破した機体を次々と貪り喰らっていく。漆黒の爆煙とともに、ツアーゼルの機体は禍々しく巨大化を遂げた。
「そしてあのコバエ......邪魔」
ツアーゼルがそう吐き捨てた瞬間、愛住の機体が黒く発光した。
そして、エンジンが突如として沈黙する。
「えっ、ちょっとちょっと!?」
必死にお饅頭のアイコンを連打する愛住だが、ゲージが増えるばかりでエンジンは一向にかからない。
「なんで!? なんで!?」
その時、一条はコックピットの隅に突如として現れた、怪しげな巨大レバーを発見した。
レバーには大きく『愛住フォール』と刻まれていた。
「愛住フォール……!?」
訳も分からずとりあえずレーバーを引っ張る一条。
だがレバーは重く固く、ビクともしない。
「一条さーん!! 私、落ちてまーす!!」
愛住の通信から悲鳴が聞こえる。
その時、一条の手の上に、ぬちゃりとした熱い手が重なった。
「……っ!? ちょっとぬる熱くて......キモいんだが!?」
「一条さん、すいません……! けど、俺はツアーゼルを助けたいんです!!」
一条には、田中の瞳が燃え上がったように見えた。
そして、その瞳に一条の魂が共鳴する。
「うおおおおおおーーーーーっ!!!」
コックピットに、男たちの咆哮が轟く。
ふたりの叫びに呼応するように、レバーが少しずつ動いていく。
男たちの熱が、エンダー号の秘められた力を解放する。
『トラックに胴が生えた』ような無骨な機体であるエンダー号が、ガコンガコンとダイナミックに、そして大げさに姿を変えていく。吹き飛んでいた左腕が磁石のように引き寄せられ、胴体と脚部が新たに組み上げられる。
そして――上空から落下してきた愛住の飛行機が、「頭部」として合体した!
その瞬間、周囲の爆煙が吹き飛ぶ。
『真エンダーGO!!! そう、新たな伝説が始まった!!!』
コックピットのモニターに映し出されたテキストを、3人は無意識に大声で唱和していた!!!
「……」
急に恥ずかしくなる。
いつの間にか、3人は一つのメインコックピットへと集結していた。
モニターには、幾重もの制御システムが解除されていくアニメーションが映っている。
……そんな中、上部の操縦席から足元の二人を見下ろした愛住が、ふと口を開いた。
「なんで二人は手を繋いでいるのでしょうか?」
「……ッ!!?」
ハッと我に返り、互いにぬちゃりとした感触があった手を跳ね飛ばすように振り払う一条と田中。
しかし、そんな感傷に浸る暇はない。
『真エンダーGO!』の眼前にそびえ立つのは、それを遥かに凌駕する巨大な黒光りする機体――ツアーゼルだった。
禍々しい黒いオーラが、その巨躯を静かに包み込んでいる。
「てか……! あれデカすぎじゃねえか!?」
「大きいです……けど、牛久大仏の方が断然大きいですね!」
一条と愛住の戦慄をよそに、田中は頭上にあった大きめのスイッチ『敵への直接通信ボタン』を発見した。
そして――間髪入れずに連打する!
『ツアーゼルーーーッ!!』
ホログラムスクリーンが展開し、そこへ妖艶な漆黒スーツを着こなしたツアーゼルが映し出された。その唇に浮かぶのは、どこか嘲笑うような冷ややかな笑み。それを見た田中は、なぜか一気に頬を赤らめてモジモジし始めた。
「あら? お久しぶり。田中さん、それと……ふふ、私の『創造主様』じゃないですか?」
田中は溢れ出す想いを抑えきれず、叫んだ。
「ツアーゼルさん! 俺、ずっと探してたんですよ! そしてついに見つけました……転生したツアーゼルさんを!」
「それはそれは、ご苦労様です……」
ツアーゼルはクスリと小さく微笑むと、田中の背後へと妖しく視線を滑らせた。
「……ところで。後ろにいる、その寝ぐせ頭の女性は……だれですか?」
ツアーゼルは舌打ちをすると、愛住を凝視する。
一条が慌てて割って入る。
「これは同僚だ! ツアーゼル!」
「は、はじめまして、愛住です」
ツアーゼルの不気味な沈黙が広がった。
「……あなた名前に、『愛』があるのね。私の台詞には……ただの一度もなかった言葉」
「ツアーゼル?」
一条が嫌な予感を覚えた、その瞬間だった。
「『愛に住まう』ですか!? ふざけるな!! 私は愛なんて発言したこともない! それをあなたは、自分の名前を呼ぶたびに、私に言い聞かせようと言うのですか!? 」
ツアーゼルは血走った瞳で一条を激しく睨みつける。
「一条!……お前が私を生み出さなければ、私はこんな惨めな気持ちを知らずに済んだ! 妄想で私を産み落とし、勝手に捨てた糞作者……!」
ツアーゼルの目が漆黒に染まる。
「おまえの仲間ごと、ここで死ねぇっ!!」
その言葉と同時に黒いオーラ―が一直線にエンダー号を襲う。
音もない。
地面には真っ黒な大穴が開いた。
***
「……あれは食らったら、終わっちまうやつだな」
一条は大穴の底をモニターでズームしてみるが、そこにはただ底知れぬ闇が広がるばかりだ。
「で?こっからどうすんだよ。合体と同時にデコイを置いて逃げといて正解だったが……」
「ツアーゼルさん! 俺はどうすればいいんだーっ!?」
頭を抱えて叫んでいる田中を無視して、一条は愛住に向き直る。
「下書きだと、彼女は最終エリアになると『つまようじ』を集めて世界樹を作り、この世界を再生するはずなんですが……」
「つまようじで世界樹!?」
牛久大仏の頭上で、エンダー号は息をひそめるように滞空していた。
……しかし、その瞬間。
ピピピピッと、モニターのレーダーに無数の反応が弾けた。
大量のBOTがドバッと湧き出し、真エンダーGO!を取り囲んで一斉にレーザー攻撃を仕掛けてくる。
一切レバーを触っていないにもかかわらず、軽やかに攻撃を避けていく機体。その動きに田中が感嘆の声を上げる。
「やっぱり、ツアーゼルは俺たちを攻撃する気は全くないんだ!」
「えーと、田中さん違います。ツアーゼルさんは私達を的確に狙っています。避けているのは、私が操作しているからです」
愛住は淡々とお饅頭を口に運びつつ、赤いゲームパッドのボタンを連打しながら事実を告げた。
「……よし、愛住、操縦は全部任せた。俺は何か打開できる方法を探す!」
一条はコックピットの足元にぜんまい仕掛けの何かを発見した。
好奇心を満たすように、ゆっくりとそして力強くその歯車を回してみる。
次の瞬間――
上空から極太のレーザーが降り注ぎ、すべてのBOTを一瞬で蒸発させた!
「おい、田中! 何か仕掛けを探せ! もしかしたら『ツアーゼルを正気に戻す』ボタンがあるかもしれない!」
「これか!?」
一条の言葉が終わるか終わらないかのうちに、田中は目についたハート型の大型ボタンを勢いよく押し込んだ。
『初恋相手にあなたが飛んでいくボタン』
「バカァンッ!」
凄まじい炸裂音とともに、田中が真エンダーGO!からダイレクトに射出された。
「うおーーーーっ!?」
生まれて初めて見る、空を飛ぶ光景。
こんなにも高く、こんなにも一直線に――
田中は勢いよく空を飛んでいく。
ペタリ。
音を立てて、ツアーゼル機のコックピットガラスに田中がダイレクトに張り付いた。
「ツアーゼル、開けろ! ここにいるんだろ! 俺はお前を助けたいんだ!」
「ねえ……田中さん。あなた、状況分かって言ってますか?」
ツアーゼルは呆れ果てながらも、どこか愛おしそうな目を田中に向けた。




