第13話 パッカス!
愛住が目を開けると、そこは一条たちが乗るロボのコックピットではなかった。
上空を飛ぶ飛行機。その操縦席だった。
「うわわわわ! 私、運転免許さえないんだけど!?」
目の前には、見たこともない複雑な操縦桿。
愛住は大パニックになった。
そのとき、ふとハルの昨夜の言葉が脳裏によみがえる。
『この世界は魔力で満ちあふれている。だから愛住さんも、魔法を使えると思うよ』
「……魔法?」
その瞬間だった。
視界が、ガラリと変わった。
まるでゲームの三人称視点。
自分自身を上空から見下ろすようなカメラが現れ、機体の周囲360度、上空、下方まで、あらゆる空間情報が一気に頭へ流れ込んでくる。
敵の位置。
味方の位置。
地形。
距離。
速度。
さらに、視界の中央には見慣れた数字が浮かんでいた。
【03:30】
「……ゲーム?」
愛住が恐る恐る下を見る。
すると、視界が自動的にズームした。
眼下では、ロボットたちが激しい戦闘を繰り広げて――いない?
――動いていない。
「止まってる……!?」
爆発の炎も、敵のミサイルも、空気の流れすら完全にピタリと止まっている。
視界の端では【TUTORIAL PAUSE】の文字が、静かに点滅していた。
愛住は何かを握っている手元を見た。
「……え?」
そこにあったのは、真っ赤なゲームパッドだった。
「なんで!?」
とりあえず十字キーを押す。
ズバッ!
機体が空中で綺麗に旋回した。
「曲がった!」
しかも、Gの影響もまったくない。
「これ……ゲーム!?」
もう一度、十字キー。
ズバッ。
「……上下が逆?」
何度か動かして、愛住は操作方法を理解していく。
そして、ふと画面の隅にあるゲージに気づいた。
「……あれ?」
さっきより減っている。
機体を動かしただけなのに、ゲージがガクンと落ちていた。
その横には、目にバッテンのついた顔のアイコン。
「これ……体力?」
焦った愛住の目に、別のアイコンが飛び込んできた。
【お饅頭】
「……おまんじゅう?」
試しに押す。
すると、客観視点で見下ろしていた自分が、どこからともなく取り出した袋からお饅頭をモグモグと食べ始めた。
「…………」
愛住は固まった。
続いて現れたアイコン。
【お茶】
ポチッ。
今度は緑茶をゴクゴクと飲みだす。
すると――
ゲージが、ぐんっ、と回復した。
「食べる。飲む。回復!」
愛住の目が輝く。
「よし!」
完全にゲームとして理解した。
『──チュートリアルを開始します』
視界中央にホログラムの[リング]が次々と展開された。
『[十字キー]で機体を操作し、提示されたリングを通過してください』
「あ……はい!」
愛住がチュートリアルのアナウンスに返事をする。
[十字キー]を細かく入力し、空中を浮遊する光のリングをくぐり抜けていく。
『Excellent!!!』
「はい!」
『──パイロット、実に良好です。続いて回避行動。ミサイルを検知』
迫りくる誘導弾の警告アラート。
『[L3ボタン]長押しでブースター展開。[〇ボタン]でチャフを射出してください』
「は……はい!」
[L3]をギュッと押し込む。
ブースターが噴き出し、機体がさらに上空へ急加速する。
視界に現れたチャフの指示に従い、[〇ボタン]を押す。
機体後方から光る金属片がばら撒かれ、敵のミサイルが明後日の方向へ逸れて爆発した。
『Perfect!!!』
「はい!!」
『──攻撃を実行してください』
前方空間に、無数の「標的ターゲット」が浮かび上がる。
『[R1]でバルカン射撃。[R2]でミサイルを発射』
「はぃ!!」
愛住が[R1]を押し込む。
ズガガガガガッ!
重低音とともに弾丸が吐き出され、標的を一掃する。
続けて[R2]。
ドンッ!
ミサイルが尾を引きながら飛翔し、動き回る標的を次々と吹き飛ばしていく。
『Ace pilot!!!』
「ハイ!!」
完全にテンションが上がっていた。
愛住が[右スティック]をくるりと回す。
全天周モニターの景色がなめらかに、ぐるりと一回転した。
広大な世界が、完璧に視界に収まる。
一つずつ試していくうちに、愛住は楽しげに口角を上げていく。
「……いける」
握った真っ赤なゲームパッドを見る。
「これなら……いけそう!!」
その瞬間。
視界中央の数字が――
【00:00】
になった。
『LET'S GO!』
画面いっぱいに巨大な文字が躍り出る。
同時に、どこからともなく大歓声が響き渡った。
ワアアアアアアアアアア――!!
「がんばれよー!!」
「おまえがエースだ!!」
静止していた世界が、一斉に動き出す。
「愛住、行きます!」
愛住はゲームパッドを握り直す。
そして――
機体を勢いよく急降下させた。




