第11話 本物の「勇者」!
「一条さん!」
「どうした?」
一条の腕輪の通信機から愛住の声が聞こえた。
「てか、おまえどこにいるんだ?」
「たぶん……みんなの後ろです!」
「たぶん?」
「というか!」
愛住の声にノイズが混ざる。
「飛んでます!」
「……誰が?」
「私がです!」
「いや、え? 意味わからんが!?」
「わかりません!」
「わからないの!?」
「わああああああああああーーー!」
「愛住!?」
「たすけてくださーーーーい!」
通信機からのその声が、遠ざかっていくように聞こえた。
「一条さーーーーん!」
「なんだ? てか、今どこなんだ!?」
「早くーーーー!」
「てか、だから、どこだよ!!」
***
愛住の発信機の反応を頼りに、一同は現場へ駆け付けた。
そこはまるで、生け贄の絵に出てくるような魔物の巣であった。
ゴブリンが、骸骨剣士が、四足の化け物が、そして巨体に覆われた一つ目の巨人たち。彼らは台地を埋め尽くし、色とりどりの色彩を散らして咆哮していた。
そして空には、無数のドラゴンが舞い、その中心にどでかいドラゴン――その足に捕らわれた愛住がいた。
「……いくよ」
田中が声のした方を振り向いた時には、そこにはすでに誰もいなかった。
次の瞬間、魔物の大群の中央が爆発した。
ハルが剣を抜いた瞬間、ゴブリンの大群が真っ二つに裂けた。
イチロンが骸骨の大群に近づくだけで、敵が塵となって消えていく。
「すげー!」
地球組の二人は、目の前のリアル無双光景に拍手をする。
そして、スペルトンも笑顔で拍手をしていた。
***
「うむ!あれが!噂のトレジャーだな!」
ハルとイチロンが魔物の大群を倒し愛住を回収した後、宝箱が出現した。スペルトンが宝箱に駆け寄ると、トラップが発動し大穴が開いた。スペルトンはその穴から底へと落ちていく。
「ちょっ、何してるんですか!」
ハルが瞬時に移動すると、落ちていくスペルトンをキャッチした。そのままふわりと宙に浮かぶ。
「では、気を取り直して開けるぞ!」
スペルトンは、自身のオリジナル職業(光の使者・レベルMAX)を選ばず、トレジャーハンター(ルーキー)を選択した。この世界では、唯一トレジャーハンターだけが宝箱を開けることができるからだ。
「ここだ!」
スペルトンが迷わずに叫んだ瞬間、宝箱のトラップが発動する。
――ブチュウウッ!!!
宝箱から、勢いよく何か恐ろしく汚いものが吹き上がった。
「うわああっ!?」
地球組が悲鳴を上げ逃げる中、すかさずイチロンが静かに手をかざす。
吹き出た汚物は、一瞬で光となって消え去った。
「さすがイチロン! さて、肝心のお宝はなんだ?」
スペルトンが期待を込めて宝箱の中を覗き込んだ。
だが――中身はただのゴミだった。
「……おい! これが、宝なのか? 私の定義とずれがあるぞ!」
スペルトンが溢れんばかりのガラクタを指さして呆れ顔で尋ねる。
「あー、このゲームそんな宝ばっかりでしたよ」
田中が困ったように首を振って苦笑した。
***
「あっちの奥にお目当てがいるみたい」
イチロンが鼻を鳴らしながらダンジョンの奥を指差した。
そこは地下19階にある部屋。
プレイヤーたちの間で恐れられている、『バグの間』だった。
「一条さんのゲームのデータも論理的にはあそこにあるんですよね? 俺もあそこで動けなくてやめたんですよ」
田中が言うと、一条が苦笑交じりに頷いた。
「あの部屋に入ったら、出られなくなってな……しかし、そのデータと今の俺が合わさったらどうなんるんだ?」
一同がその部屋に足を踏み入れた瞬間、背後の扉が消え失せた。
そして室内には、意思を持たない悪霊のようなプレイヤーデータが、すごい数で彷徨っていた。
「これが呪いの元凶か。しかし、すごい数だな」
「あの初期のプレイヤー数から推測するとかなりの数がいるんじゃないですか?」
スペルトンが手を掲げると、眩い光とともに強大なエンダーゲートが大きく開かれた。
部屋を埋め尽くし、出られなくなっていたプレイヤーたちが、ゲートへと吸い込まれていく。長年閉じ込められていた彼らの呪い?が解放されていく光景は、どこか神秘的ですらあった。
ダンジョンに静寂が戻り、無事に任務完了となったその時――ハルの腹の虫が「ぐぅ〜」と小さく鳴った。
***
任務から戻ると一同は地球組が住居とするあのアパート前に集まった。
「わ!なつかしい!学生の頃こんなとこに住んでました!」
ハルがキョロキョロとあたりを見回し、イチロンは何やらメモ書きをしていた。
田中がそのメモを覗くと、イチロンはアパートをスケッチしていた。
「おーい!準備できたぞ!」
スペルトンはあの居酒屋の隣に新たな空間を構築すると、お好み焼き屋「豆狸」という店が現れた。
店内は香ばしいソースと懐かしいダシの香りが空間いっぱいに広がり、鉄板の上でジュージューと音を立てる。イチロンが鼻をひくひくさせる。
ハルのために、地球組の3人は張り切ってコテを振るった。どこかハルを気遣うような温かい空気に、ハルは苦笑いを浮かべる。
「あのですね。わたしはですね……」
ハルは熱々のお好み焼きをふうふうと冷まし、一口飲み込んでから言葉を続けた。
「気にしてませんから。むしろ今を楽しんでます!」
ハルが手をかざすと、鉄板のお好み焼きたちが、くるくると回転し始めた。
「こんな感じです」
そう言って、彼女はウインクして見せた。
***
店を出たあと、イチロンは「神様に呼ばれている」と言いながら申し訳なさそうに帰路についた。
ハルは愛住の部屋に一泊することになった。
部屋に入ると、足元へ近づいてきた猫のまるちゃんをハルが優しく抱き上げる。窓の外には、夕日から深い夜へと溶けていく静かな海が広がっていた。
「たまに、こうして泊まりに来てもいいですか?」
「もちろん。いつでも大歓迎だよ」
二人は夜の砂浜へと歩き、波打ち際に腰を下ろした。
ハルは膝の上のまるちゃんを撫で、広がる星空を見上げる。
そして、彼女は自分の『事情』を静かに語り始めた。
波は静かに寄せては返し、星だけが二人を見守っていた。
その夜、愛住は本物の「勇者」を知った。




