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第三十八話 本当の決戦4

(うわっ、気持ち悪っ!)


 イソギンチャクのように襲い来る、七首達の四十一本の首。それらがガルゴの身体に這い寄り、巻き付き始めた。

 倒れたガルゴの、足・手・首・尻尾などの、身体の各部に、ロープのように巻き付き、拘束具のように締め付けてガルゴを捕縛した。

 これが数本程度なら、ガルゴのパワーで引き千切ることもできただろう。だが二十本以上の拘束首に捕まり、万力の力で締め付けられたガルゴ。

 それは全身に圧迫を感じながらも、彼の頑丈な肉体を死に至らしめるほどではない。だが容易には動けず、ガルゴは倒れた姿勢のままその場で固まることになった。


 ガブッ! ガブッ! ガブッ!


(ぐうっ!?)


 締め付けによる圧迫感の次に、ガルゴが感じ取ったのは、全身に注射されたかのような痛みであった。

 拘束に参加しなかった、残りの十数本の首。それらの首の頭が、牙を剥き、捕まったガルゴの身体に噛みついたのだ。

 体中を七首達に巻き付かれたガルゴの身体。そこの巻き付かれておらず、外から見えるガルゴの皮膚の部分に、七首達の牙が襲いかかる。そして彼らの牙が、ガルゴの肉体に突き刺さっていった。

 だが完全に突き刺さったわけではない。ガルゴの皮膚と肉は堅く、食いこんだ牙の長さは全体の二割程度であった。

 以前大型石眼に噛まれたことがあったが、その時は復活後まもなく弱体化中であり、噛まれた部分は柔らかい喉の部分であったため、大石眼の牙は上手く突き刺さった。

 だが喉の部分は、現在七首の首が巻き付いていて攻撃できない。そして時間が経ち、完全な力を取り戻したガルゴの身体は、当時より頑丈になっている。これではガルゴの身体に、大したダメージは与えられない。


 だが七首達は諦めない。噛みついた後も、顎に力を入れ続けて、牙をガルゴの皮膚に押し込んでいく。

 拘束中のガルゴは動けず、それらの牙の貫通作業を止めることができない。七首達が力を入れる度に、その牙が少しずつ、ガルゴの皮膚に深く食い込んでいく。


 ズブッ! ズブッ! ズブッ! バキンッ!


 やがて牙は皮膚を完全に貫き、内部の血管のある肉体に突き刺さっていった。

 噛みついた十四個の頭の内、四つの頭の牙が途中で折れた。そして残りの十個の頭の牙が、ガルゴの肉に深々と突き刺さる。貫いた皮膚と牙の間から、ドクドクとガルゴの赤い血が流れて出てきた。


(いてえっ! そして、やべえぞ、おいっ!)


 全身を刃物で刺される痛みに苦しみながら、ガルゴはこれまでになく焦る。

 牙はただ噛みついて、ガルゴの身体を傷つけただけではない。その牙から、ガルゴの体内に目掛けて、七首の石化の猛毒が、どんどん注入されていった。


 ガルゴが最初に感じたのは、静電気を浴びたような痺れだった。そして全身の感覚が鈍くなっていく。


 パキパキパキッ!


 そしてガルゴの感覚だけでなく、第三者からも視覚で判る変化が起きる。ガルゴの噛みつかれた部分の身体の部位が、石化を始めたのだ。

 ガルゴの濃い灰色の皮膚が、無機物的な薄い灰色に変色していく。噛みつかれた部分から、布を色水で染めるように、その変色が始まっていく。

 それは非常にゆっくりとした変化だったが、確実にガルゴの身体は石化を始めているのだ。


(やべえ……負けるのか? この俺が……)


 自分は死んでも生き返れる身体だ。だが石化は自力で解くことはできない。もし別の所で戦っている仲間達も倒れされたら、今度は本当に復活できない。

 以前戦った石眼が言っていたように、自分はこの世界で、望まぬ形で永遠の生を送ることになる。ガルゴの思考が、徐々に絶望に染まっていった。


「鷹丸に……何すんだよ!?」


 その時に、どこかから甲高い声が聞こえてきた。それはガルゴにとって聞き覚えのある少女=翔子の声に違いなかった。


 ズバッ! ドォン! グシャッ! ザクッ! ゴキッ! ザンッ!ザンッ!


 翔子の声の直後に、多種多様な破壊音が、ガルゴの耳に届く。抑え込まれていて、当たりを自由に見ることはできないガルゴだが、何が起こったのかは容易に理解できた。


 ガルゴの拘束・猛毒注入に集中していた七首達を、別の場所で戦っていた天者達が、一斉に攻撃したのだ。

 大勢の天者達が、近接組・遠距離組関係なく、一斉に七首達の身体に飛び乗っていく。そして今まで力を溜めていたらしく、その七首達に一斉に必殺の一撃を浴びせていった。


 翔子の炎の斬撃が、一つの七首の首を斬首する。

 猿山 真が、大型銃を一つの頭の眉間に突き立てて、その場でゼロ距離射撃を喰らわせた。

 清水教諭の渾身の拳が、一つの頭の脳天をかち割った。

 齋藤 恵真の毒の刀が、前と同様に一つの七首の目を突き刺した。

 長谷川 清子の、両手両足が触手になり、抱きつくように一つの頭に巻き付き、その首の骨が折れるまで締め上げる。

 犬神 拓也の鉞が、その巨大な刃で、一度に二つの首を切り裂いた。


「よくもザリ太郎をやったな! こんにゃろ、死ね死ね!」


 三浦達紀が怒りに力を任せて、魔力強化した混紡で、一つの頭を餅つきのように何度も叩く。そのたびに皮と肉が破け、頭蓋を砕いて脳症を噴水のように吹き上げる。

 他の面々も、それぞれの得意の攻撃方法の大技で、七首達を攻撃した。ガルゴへの攻撃に全力を費やしていた七首達は、防御も回避もできずに、それらの攻撃を無防備で受けてしまった。


「「ジャァァアアアアアッ!」」


 一度の十数本の首を失った七首達。これに激怒し、彼らはガルゴへの拘束と攻撃を一旦止めた。そして自分の身体に飛び乗っている天者達に、一斉に襲いかかる。


「皆逃げるよ!」


 恵真がそう命ずる前から、皆は一斉に七首達の身体から離れ、襲い来る蛇の牙から逃げていく。だが全員が逃げ切ったわけではない。


「はぐっ!」「ぐあっ!」


 逃げ切った天者は、二十人ほど。残りの十三人は皆、蛇の牙の餌食となった。

 七首達の各々の首と頭は、その巨大さのわりに素早く動き、自分の背中に乗っていた者達を、虫を潰すように次々と噛みつぶしていった。

 最初にやられた二人と同様に、彼らの小さい身体は、その巨大な牙と顎に砕かれて、ミンチとなって七首達の背中を赤く濡らしていく。

 運動能力の高い鬼人族は全員逃げきったが、他の大多数の葉人・龍人は、逃げ遅れて多数がやられてしまった。その中には、今まで指揮をしていた恵真もいた。


「齋藤!? ぎゃあっ!?」


 七首の頭から飛び降りた拓也が、リーダーがやられた事に動揺した隙に、倒された。

 今度攻撃したのは、七首の頭ではない。何も七首の攻撃方法は、石化眼と牙による噛みつきだけではない。

 その巨大な身体の後ろの部分、彼らの尻尾の先が、分かれ道の胴体に近づいていた。そしてその尻尾を振り、七首達の身体から飛び降りた天者達を、次々と叩きつぶしていく。


「構うな! 一人でも多く生き残れ!」


  バスッ!


 清水教諭がそう叫んだ途端、巨大な鞭となった尻尾が、彼を叩き飛ばした。叩き飛ばされた清水教諭は、その尻尾の主とは別の七首の胴体の壁に激突し、その場から落ちて地面に倒れ伏す。


「ぐがっ……」


 一撃目を受けた時点では、清水教諭はまだ生きていた。頭から血を流し、よろめきながらも立ち上がろうとする。

 だがそこに今度は七首の胴体が迫った。首の分かれ道付近の胴体が、一時地面から持ち上がった。後ろの方の胴体が、前の方の胴体を重心を支えて持ち上げて、身体の半分が少し浮き上がる。そしてその胴体を、清水教諭の方に向かって、一気に落とした。


 ドォン!


 七首のビッグサイズのボディプレス。その巨体に踏みつぶされた清水教諭は、七首の胴体ごと地面にめり込んで見えなくなる。


「ひゃあっ!」「ぎゃあっ!」


 皆どうにか七首達から逃げようとするも、長い七首の尻尾は攻撃範囲が広く。彼らから離れようとする、天者達を次々と攻撃していく。


「はっ!?」


 どうにか途中まで逃げ切った翔子だが、一瞬自分の足下が暗くなったことに気づく。どうにか蛇の尾先近くまで走ったが、彼女の頭上にその巨大な尻尾の先が、今にも振り下ろされようとしていた。


 ドン!


 これまで幾度となく発生した、地響きがまた一つ発せられた。その尾先は、大地をハンマーで叩くように、打ち付けた。背を向けて逃げていた翔子がいた位置の、僅か一メートル後ろの地面を。

 尾先はギリギリで、翔子への攻撃を外していた。そしてこの結果は、別段七首がミスで狙いを外したわけではなかった。


 七首達はガルゴを放置して、後ろへと逃げる天者達へと気を逸らしていた。何匹かが、天者を追おうと、後ろに身体を回そうとしていた。

 だがその中の一匹、翔子を狙った者が、その方向転換を妨げられていたのだ。


「グガァァアアアアアッ!《翔子達に、手を出すんじゃねえよ!》」


 いつのまにかガルゴは、体勢を立て直して立ち上がっていた。七首の首の一つに噛みついていた。二本の腕で、二本の首を根っこから掴み上げていた。つまり計三つの首が、ガルゴに捕まっていたのだ。

 そしてそれを数メートル分、後ろへと引っ張り上げられていた。翔子への攻撃を外したのは、これが原因のようだ。


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