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最終話

 ブシュッ!


 ガルゴの口から血が噴き出した。別に彼が血を吐いたわけではない。堅く鋭い歯と、強靱な顎に捕まった七首の一つの首が、根元から噛み千切られたのだ。

 皮と肉と骨が食い千切られ、一つの首が大地へと落ちる。この七首の残る首は四つ。二つの首は、ガルゴの握力によって、気管を圧迫されて呻いていた。

 爪を立てて掴んでいるため、掴まれている首の真ん中から、血が流れて出ている。そして掴まれていない二つの首が、ガルゴの両肩に噛みついた。これに僅かな痛みを受けたものの、ガルゴの力を止めるには至らない。


 ブシュゥウウウウウッ!


 果実を潰したように、血が果汁のように噴出する。首を噛み千切ってまもなく、ガルゴの両腕が、二つの首を握りつぶして粉砕した。

 そして次に自分の肩に噛みついていた二つの頭の、喉元を握る。さっきと同じように、爪を立てて、喉を強く握りつける。


「「ガガガガガガッ!」」


 二つの首の苦しそうな呻き声が上がる。二つの首を掴み上げながら、さっき敵の首を噛み千切って、血まみれのガルゴの口から、青い光が発せられた。


(死にやがれ!)


 ガルゴの口から青炎熱線が発射される。すぐ目の前にある、首の大半を失った、七首の身体目掛けて。


 ボウン!


 さっき発射した必殺熱線と比べると、大分威力が落ちる軽量版青炎熱線。それをこれほど近距離で受けた七首の身体。七つの首の分かれ道の、胴体の一番太い部分に、熱線が直撃する。

 その根元部分が半分ぐらいが粉砕され、血と肉の花火が放たれた。ガルゴが掴んでいた二つの首は、その爆発によって、根元から砕き千切られて絶命していた。

 これが実質この七首のトドメの一撃であった。


「「ジャアッ!」」


 一匹がやられたことに、残りの五匹が、攻撃対象を天者からガルゴに移した。一度方向転換させた身体を、再び戻そうとするが、時既に遅し。

 ガルゴに背を向けた状態の七首の背面胴体を、ガルゴ思いっきり踏みつける。


「ジャッ!」


 七つの首の分かれ目の根元近くを、強く踏みつけられて、一匹が地面に押しつけられた。丁度ガルゴが、一匹の七首の背中に飛び乗った状態になる。

 そのまま尻尾を振り、その七首の右隣に行った一匹に、尻尾を鞭のように叩きつけた。二つの首を失った七首の、残りの首を、まとめて薙ぎ払った。

 尻尾を振るために、身体を回したため、ガルゴの身体の向きは、左隣の七首に向けられた。


 ボウン!


 先程と同じ、軽量版青炎熱線が放たれ、その左隣の一体に命中した。先程のように即死には至らずとも、相当なダメージを受けて横に倒れ、その更に左隣にいたもう一体にぶつかっている。

 ガルゴは今踏みつけている一体の首の根元に向き直る。藻搔いている首達の根元へ、ガルゴは拳を振り上げて、そこに重いパンチを振り下ろした。

 パンチングマシーン測定だと何万トンあるかも判らない、強烈すぎるパンチが、木の根のように、複数に分断していく途中の胴体を殴りつけた。

 一発ではなく、その後何発も、餅つきのように殴り続ける。


「「グゲエッエエエエエッ!」」


 最初の蹴りつけ&踏みつけに呻いた七首は、そのパンチの連打に、更に苦しみ出す。反撃する余裕などなく、頭を陸に上げられた魚のようにばたつかせ、口からは白い泡と赤い液体を吐き出させていた。


 ガルゴの攻撃で怯まされた残りの七首達は、何とか体勢を整えて、再びガルゴに攻撃を仕掛けようとするが……


「余所見すんじゃないよ!」


 その隙に翔子含めた、生き残りの十四人の天者達が、ガルゴへと姿勢を向けていた七首達を攻撃した。

 翔子の炎を纏った刀の赤く光る刀身が、本来の得物の何倍もの長さに伸びていた。そしてそれを振ると、振られる僅か時間の間に、更に数倍に一気に伸びる。その伸びるエネルギーの斬撃が、七首の胴体を斬り付けた。


 ザクッ!


 七首の真ん中の胴体に、焼け焦げた傷ができた。一刀両断といかないまでも、その刃は七首の胴体の肉を深く切り込んだ。

 他の天者達も、彼女と似たような拡大形の攻撃で、七首達の胴体を攻撃していく。本来七首の一番の急所は、七つに分断されて細くなった首である。

 だがそこは七首の最大の攻撃部位である、口と牙がすぐ近くにあるため反撃されやすい。だからあえて急所ではない、太い後ろの胴体部分を狙っているのだ。

 七首の身体は大きいため、急所を狙わなければ、簡単に必殺の一撃を当てられる。


「ガガ……ガァ!」


 胴体を切り刻まれる痛みに苦しみながらも、何とか自分を攻撃する天者に反撃しようと、首の向きを変えようとする。


 ボウン!


 そしたらまた青炎熱線の爆音が響いた。ガルゴが踵で敵の背中をグリグリ踏みつけながら、軽量版青炎熱線を、天者を狙う七首を撃ったのだ。

 左隣の奴を撃つと、今度は右隣に向き直って、熱線をぶつける。攻撃を当てたのは、首と首の分かれ目の根元部分。天者の攻撃のためにいたところは、七首の胴体辺りであるため、ガルゴの熱線が味方を巻き込むことはなかった。


「ガアッ! ……ゲェッ!」


 その熱線を受けて、ますます黒焦げになった七首が、再度ガルゴに首を向けると、再び天者達の攻撃が、七首の胴体を襲う。

 翔子の伸びる炎の刀身が、七首の胴体を深々と突き刺していた。ガルゴを狙えば天者が攻撃し、天者を狙えばガルゴが攻撃を加えるという、両面攻撃が、七首達を襲っていった。


 ガルゴと天者達の猛攻が続く。それはもはや前後挟み撃ちの袋叩きであった。ガルゴの熱線・牙・爪によって、七首達の頭と首に無数の傷がつき、一本また一本と、首がボトボトと落ちていく。

 一方の七首達の胴体と尾が、天者達に焼かれ殴られ切り刻まれていった。尻尾を振り回したり、身体を振り回したりして反撃しようとするが、頭部をガルゴにボコボコにされているため、集中できず大した反撃ができずにいた。


「ゲェ……」


 一匹の七首が息絶えた。頭部はまだ数本健在だが、胴体の方の内臓と心臓を傷つけられた。天者達の攻撃による傷は、何度もつけられる内に深くなり、やがて致命にまで至ったのだ。


 その一方でガルゴに踏みつけられていた一匹が、全ての首を千切られて死亡した。すると今度は左隣の七首に飛びかかる。

 そうしながら七首達が、次々と絶命していった。そしてついに残りは一匹となった。


「待って! 止めは後で! 話がしたいの!」


 最後の一匹は、既に絶命寸前だった。四本の首が引き千切られ、二つの頭がかち割られて、生命機能を停止している。

 最後に残った一本も、何度も殴られて既にボロボロだった。胴体の方も、天者達の幾重もの攻撃を受けて、無数の傷がある。身体の各部が焼けただれ、何本もの深い切り傷ができて血がダクダクと流れ出ている。

 ガルゴが後一発殴れば、それだけで死んでしまいそうだ。


 そんな彼への止めの一撃に、制止の声を上げたのは、翔子であった。ガルゴも他の天者達も、これで戦いは終わりと息巻いて突撃しようとしたが、その声に大慌てで制止する。

 翔子の方はというと、彼女も警戒のため刀を構えながら、その残りの七首にゆっくりと歩み寄ってくる。


「さっきは落ち着いて話す余裕がなかったけど、最後にもう一度聞かせて。あなた本当に何がしたかったの? 確か前に会った奴は、祖先の望みを叶えるとか言ったけど、本当にそれだけなの?」


 結局この七首達=人妖というものの存在意義とは何だったのか? それは歴史上、人妖の被害にあった多くの世界で、多くの知りたがっていたことだろう。

 そして今ここで、最後の人妖かもしれない者に、最後の質問が投げかけられていた。


『答えられる目的は、その言葉が全てだ。その目的を捨てれば、我の存在意義はなくなり、我らの命は消える……』


 片目が潰れた、そのボロボロの最後の頭から出た回答はそれだった。


「生きたかったから、今まで多くの世界を滅ぼしたの?」

『……それは我にも判らぬ。今こうして滅びかけていても、死への恐怖など全く感じぬ。……それに……もしかしたらこれで良かったのかもな……本当に我らは何だったのか……』


 その言葉が、七首の最後の言葉であった。とてもじゃない納得しきれない回答のまま、七首は倒れ伏した。

 持ち上げていた首が、地面に倒れる。それと同時に血を這う胴体からも力が抜けていき、身動き一つ、呼吸するしなくなった。完全な絶命である。

 そしてこれが魔王と天者達の戦いの、本当の意味での終結であった。


 立ち尽くす怪獣と十数人の小さな戦士達。

 周りには、バラバラになった大蛇たちの首と、身動き一つしない太くて長い、蛇肉の塊である。その場では誰もが無言だった。

 犠牲者は出たが、彼らも少しすれば復活する。だが誰もが何を口にしていいのか判らない、不思議な心境に立たされていた。


『とりあえず……飯にするか? 戦いすぎて腹減った』


 場を変えたのは、ガルゴのそんな暢気な言葉だった。その場で我に返ったかのように、今までの戦いの気疲れから、翔子を先にその場の全員が、そこに座り込んでいた。






 拠点があった高山の麓にある村。ここもまた静かな場所だった。以前から人口が少なく、静かではあったが、今は人の気配一つしない。当然あの石眼達の仕業だ。


「やっぱり蛇を全部殺しても、石化は解けないのね?」


 畑を耕した姿勢で石化した村人を見つめながら、あの戦いで犠牲になったはずの恵真がそう嘆く。

 無人の村を歩く者達の数は、三十名以上。あの戦いの数時間後に、天者達は全員復活していた。今はこの村に食糧を探しに入ってきたところだ。


「仕方ないだろ。それだけで治ったら苦労はねえ。まあ俺もちょっとは期待してたけどよ」

「どのみち向こうの世界に帰らないとな。俺たちで何とかするしかないんだろうな。今この世界には、俺たちしかいないんだし……」

「そう? 私は今のままで、皆だけの世界でもいいけど?」

「それは寂しいだろ? 妹尾の奴が戻ったって話を聞いて、俺はあっちの世界でのあの漫画の続きを見たくなってきた」


 皆口々にそう語る。最初は心労からか、暗い雰囲気だったが、今は随分明るく、気軽に話し合っている。


「私達……帰れるよね? 皆と一緒に……」


 以前以上に仲の良い雰囲気の皆に、翔子が隣にいる鷹丸に、小声で呟くように口にする。


「当然さ。絶望なんてする必要はないぜ? それに万一駄目だったとしても、俺がお前と一緒にいるしな」


 そう肩を叩いて鷹丸が答える。自分で行っておいて、キザで恥ずかしいと思いながら、翔子と手を結び、それを見た数人の仲間が呆れ顔を浮かべていた。


 突然この世界に召喚され、意義の判らない戦いに巻き込まれ、そして終わらせた少年少女達。

 彼らはこの滅んだ世界で、今でも生きている。そして何年先かは判らないが、滅んだ二つの世界を蘇らせようと、これから長い時間奔走するだろう。


 その先の未来は、未だ誰にも判らない……


本作は一応これで完結となります。麒麟ヤキソバと石化病など、本作で未解決に終わった話は、現在連載中の別の小説の方で纏めます。

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