第三十七話 本当の決戦3
「ていやぁ~~~~!」
映画の格闘家のような声を上げているのは清水教諭であった。両手両足に、銀色の籠手を履いた彼は、拳での格闘戦を得意とする。
彼は石眼の頭の一つの頭上に飛び乗り、そこから足下=石眼の脳天目掛けて、何発も連続でパンチを当てている。
彼のプロレスラーのような巨躯から放たれる無数の重い乱撃。そのパンチを受け続けている、石眼の頭の一点が、少しずつ鱗が削れ、肉が潰れて血が流れ始めている。
頭部に強い痛みを味わいながら、彼は首を激しく動かし、自分の頭を何度も振り回した。これで頭に乗った清水教諭を、振り払おうとしているようだ。
「ぬうっ!」
自身よりも激しい揺れに、清水教諭は体勢を崩しかける。パンチを撃つの一旦やめて、石眼の頭の一部を、両手で掴みしがみつく。
「先生!? くそっ、喰らえ!」
ドン! ドン! ドン! ボムッ!
それを見て、遠距離攻撃組の他の天者達の何人かが、清水教諭の乗った石眼の頭に攻撃を集中させた。
何発もの銃弾や魔法が、その頭に迫る。頭を素早く振り動かしているため、その攻撃の半数は躱されてしまった。
そのうちの半分は上手く命中した。ちなみに外れた一発は、危うく清水教諭に当たりそうになって、僅かに彼の身体をかすめていた。そして当たった攻撃の一発。猿山 真の撃った銃弾が、大口を開けていた石眼の口内に当たっていた。
奴の口内で爆発が起き、舌が焼け、血が吐き出された。それに石眼の動きが一旦止む。
「うりゃぁああああ~~~~!」
その停止の隙を逃さず、清水教諭が再び乱撃を始めた。石眼の頭はますます削れ、肉が欠けて、下の骨が見え始めた。
そして一旦乱撃をやめて、彼の拳に必殺技発動の力が溜め込まれる。そして石眼が再び動きそうになったところで、彼は今まで殴り続けていたその一点に、渾身の一撃を与えた。
グシャッ!
石眼の脳天の一点から、噴水のように液体が大量に放出された。石眼の頭蓋骨が割れて、その内部の脳に、清水教諭の拳が貫いたのだ。
貫いただけでなく、その一撃の衝撃は脳全体を振るわせ、内部を潰していた。頭の大きさと対比すると、かなり小さめの蛇の脳は、それによって完全に機能を失う。
それによって力が抜けて、首が下がっていく中、清水教諭が、蛇の頭の上でガッツポーズを取っていた。
ガス! ガス! ガス!
犬神 拓也が鉞を振り回し、石眼の首筋に何度も、その重い一撃を与え続けていた。
その一撃を受ける度に、石眼の首の肉が斬られて、破れた皮から出血していく。それらはただ適当に撃っているのではない。一撃目を与えた後の傷口に、二撃目が上手い具合に命中している。
何度も斬っているのに、突いている傷口は一つだけ。そして鉞の一撃が入る度に、その傷口が広く深くなり、出血量も多くなっていく。
石眼は首を振り回して、拓也を振りほどこうとするが、首のダメージが大きいのか、その振り方は清水教諭の時ほど激しくない。
自身のように揺れる足下で、拓也はダンスような動きで上手くバランスをとりながら立ち続ける。そして一旦揺れが弱まったところで、四撃目の鉞の一撃を与えた。
グチャッ!
鉞の刃が、更に深く首の肉に侵入する。それは骨と気管に、あと少しで届きそうな所であった。後一発撃てば、確実にこの頭の息の根を止められるだろう。
「ぐうっ!?」
だがここで問題が起きた。鉞が上手く抜けないのだ。
巨大な敵の肉が、深々と刺さりすぎて、抜きにくくなってしまったのである。何とか力を入れて、自身の巨大な得物を引き抜こうとして手こずる拓也。
その間に、石眼の頭は、最後の力を振り絞って、彼を振り落とそうとする。だがその動きは封じられた。
(長谷川!?)
拓也が大地を見下ろすと、一人の葉人天者=長谷川 清子が、さっきと同じように、足から伸びる根っこで大地にくっつき、頭と両手から伸びる蔓をこちらに伸ばしていた。
そしてそれが、今拓也が乗っている石眼の頭に絡みつき拘束して、動きを止めているのだ!
「サンキュー長谷川! ふんぬぅううううううっ!」
石眼の頭の動きが封じられた間に、拓也が人一倍全身に力を込める。そして鉞を全力で引き抜きにかかる。
ズボッ!
鉞が一気に引き抜かれた。引き抜いた勢いで、バランスを崩して、拓也は危うく転びそうになる。
だが何とか体勢を立て直し、このまま地面に落ちるという最悪の事態は避けられた。引き抜かれた傷口から、更に大量の血があふれ出した。
口もろとも蔓で縛られた石眼の頭が、それによるダメージか、苦悶で震えていた。
「トドメだ!」
体勢を完全に立て直した拓也が、再び鉞を振り下ろした。
グシャッ!
斬る、というより何かが潰れるような音が聞こえた。彼の鉞は、石眼の頸椎と気管を切断した。
首の肉の七割ほどを斬られた石眼は、これによって完全に息絶えて、首が下に落ちていった。
遠距離攻撃組の支援攻撃&葉人の拘束での支援を受けながら、近接戦組による、石眼の頭の各個撃破という戦法。これは実に上手くいった。
さっき上げた三人以外では、石眼の目を狙う者が多かった。各々の首が次々と倒れる。脳を全て失った一匹の七首石眼が、絶命して倒れ伏した。
そしてもう一匹も、残す首は後一つになった。他の首の始末を終えた天者達が、一斉に残った一本に、目を向ける。
『貴様ら、何故我の石化眼が効かぬ!? あのガルゴが何かしたのか!?』
ここにきて初めて七首が喋った。最後の残された首から放たれたのは、戦闘の最初での疑問の声であった。
最初に彼は、天者達に石化眼を浴びせていた。これで勝ったと思い込んだからこそ、彼は天者達に隙を見せてしまったのだ。
だが彼の言うとおりに、その石化眼は、天者達に全く効いていなかったのだ。その一つの首に、皆の視線が集まる中、恵真が彼に対して口を開いた。
「私ら一度あんたらの石化を受けたからだよ。麒麟の像のあった町の、本屋にそういうのがあってさ。何でも、一度石化して、治った人間は、身体に免疫ができて効きにくくなるんだとさ」
あの町にあった資料を探しても、石化病を治す手がかりは見つけられなかった。ただし石化眼に対する、その事実を知ることはできた。
そのため天者達は、石化眼を全く気にすることなく、堂々と戦いに挑んだのである。
『そうだったのか……それは我も知らなかったな……』
「折角会話の機会ができたんだ。一応聞いとくけどさ、ストラテジストってのは、あんたらで全部か?」
『さあな、それは我にも判らぬ。だが石眼は今この場にいるので全てだ。だがもう手遅れだぞ・・・・・・』
手遅れ。その意味を皆が理解したとき、一瞬顔を険しくした。だが恵真は特に動じずに、最後の首に刀を向けた。
「いいわよ。例え全世界の人間を石化したところで、私らが全部後から救えばいいんだから。私らとあの大怪獣がいれば、何だってやってみせるわ」
恵真の刀に、また異色の猛毒が纏わり付く。その刀に渾身の力を込めて、恵真はその首の喉元を突き立てた。
五体の七首とガルゴの戦いは拮抗していた。周囲を取り囲む、五体の七首達を、ガルゴが様々な手法の攻撃で対抗する。
襲い来る三十五の頭を、尻尾を振り回して払いのける。体当たりを仕掛けてきた者を、蹴りつけたり、小規模威力の青炎熱線でやり返す。そんな攻防が、何度となく繰り広げられている。
以前は一対一で戦ったときは、容易に勝利したガルゴ。以前より彼はパワーアップしていたが、流石に五体が相手だと手間取っていた。
(あいつらはどうなった!? 倒したのか!? もうやられたか?)
七首達の攻撃を受けるので精一杯のガルゴは、他の仲間達の近況を見るだけの余裕はなかった。気配を探るほどの集中力を保てないし、一瞬でも視線を向こうにむければ、その隙に七首達のいずれかから攻撃を受ける。
五対一の戦いが中々つかずにいると、唐突に変化が訪れた。
(何?)
頭を何度も突きつけていた七首達が、急に攻撃をやめたのだ。同時に何故か怪獣サイズで数歩分の距離、ガルゴから一斉に離れ出す。
これはどういう戦法の準備かと、ガルゴが警戒したとき、六つの赤い光が彼を襲った。
ズゴォオオオオオオオオッ!
「グガァアアアッ!」
轟音とガルゴの悲鳴が二重に響き渡る。彼を襲ったのは五つの赤い熱線。それがガルゴの背中に直撃し、赤い炎を撒き散らして爆発した。
それはガルゴの強靱な肉体にも痛手を与え、彼はバランスを崩して、その場で右足から地面に転び倒れた。
その熱線が飛んだ先、彼から二百メートルほど離れた位置の大地には、今までガルゴが相手していたのとは別の、もう一匹の七首がいた。
その七首の頭は、一斉に口を開けており、その口内から砲撃直後の大砲のように、白い煙を噴いていた。ガルゴを襲った熱線は、この一体が噴いたのである。
彼を襲った熱線は六つ。何故六つかというと、その七首の首の一つが、途中から切断されて、頭の一つを失っていたからだ。
予想外の不意打ちに倒れ込んだガルゴ。その隙を狙って、他の七首達が、一斉に彼に襲いかかってきた。
なお、その不意打ちを仕掛けた七首の、背後から更に数百メートル先の地面には、今まで七首の一体と対戦していたザリ太郎が、両鋏をもぎ取られてジタバタと藻搔いていた。




