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第二十八話 三人の天者、再び

 翌日赤森王国の隣の国の領内にて。

 赤森王国との国境付近のとある山林の中。そこにある小山の麓に、一つの洞窟があった。

 穴の形は、ドアのような横に長い半円形で、人が通りやすいようになっている。その洞窟の入り口の付近には木々がなく、森に囲まれた公園のような広場がある。

 これを見ると自然ではなく、人為的に作られたであろう洞窟。その子供の秘密基地の大型バージョンぽい所で、一つの危機が迫っていた。


「くそっ! あと何匹殺せばいいんだよ!?」

「知るか! とにかく殺し尽くせ!」


 その広場では激戦が行われていた。


 戦っている者の片方は、今双方の世界を脅かしている、あの白い蛇=石眼の群れである。大きさは人間と同じぐらいあり、あの大石眼の大怪獣よりはずっと小柄だが、大蛇であることには変わらない。

 それが何十匹も、次々と広場の周りの森から姿を現しているのだ。


 それと戦っている片方は、三人の少年だった。それは以前ガルゴと戦った後、行方不明になっていた、犬神 拓也・猿山 真・雉本 武の三人組の天者である。

 かつてガルゴと戦ったとき同じ得物を抱え、首には何故か、イヌのような赤い首輪がはめられていた。

 彼らは石眼達を、次々と殺していく。拓也は気功を纏った鉞を振るいまくる。その巨大な刃が、一振りで数匹の石眼の首を跳ね飛ばす。

 真は洞窟付近に立ち、そこから森の中から湧き出てくる、石眼の群れを、大型銃で次々と射殺した。射殺と言うより、粉砕という感じで、石眼達の肉体が弾け飛ぶ。

 武は頭から、ラフレシアのような毒々しい花を開花させて、そこから大量の毒花粉を放出させた。その毒粉の嵐が、複数の石眼達の身体を止め、徐々に身体を弱らせながら、毒殺していった。


 三人が殺した石眼の数は、既にかなりのものだ。この広場には、既に石眼達の死骸が、足の踏み場もないぐらいに埋め尽くされており、大量の血の臭いが充満している。恐らく、もう千匹は殺しているのではないだろうか?

 だが戦いは全く終わらない。どんなに殺しても、森の奥から次々と湧いてくる石眼が、この場所に姿を現すのだ。

 石眼の一匹一匹は、以前戦った蟒蛇よりも弱い。だがこれだけの数を、一度死んで弱体化から完全に回復していない三人が相手をするのには、やはりきつかった。

 三人ともかなり息があり、体力的にも精神的にも苦しそうである。


(このまま退却しちまうか? しかし・・・・・・)


 拓也は背後にある、あの洞窟をちらりと見ると、その考えをすぐに振り払う。そしていつ終わるとも判らない戦いを、続行した。





 そんな激戦区に、空から近づいてくる者達がいた。タカ丸に乗った、鷹丸と翔子の二人組である。

 鷹丸は以前のような半裸ではなく、この世界の一般服である和服を着ている。紫の襟と黒い生地、そして青い羽織を纏った、向こうの世界の新撰組っぽい衣装だ。


 現在下に広がる森の向こうの一カ所から、多くの銃声や、魔法による爆発の音が聞こえる。

 それと同時に、多くの血の臭いが流れ、それを常人より高い嗅覚を持った二人が感じ取って、ちょっと気持ち悪そうな顔をした。


「あそこで誰か戦ってるな。あれも天者か?」

「はっきりとは言えないけど、この魔力と気功力は多分そう・・・・・・それで鷹丸も加勢するよね?」

「ああ、勿論だ。というか俺一人でいい!」


 そう言うと、鷹丸はタカ丸から飛び降りた。翔子がいつも使っている方法であるが、この高度からすると、常人では自殺行為である。

 鷹丸もつい最近まで、その常人の領域の世界にいたのであるが、何度か怪獣として戦った経験からか、こういう無茶も意外と早くから出来るようになっていた。


 ただ飛び降りた後の、彼の様子は翔子の場合とは大きく異なっていた。

 彼は人間の姿のまま、大地に降りたのではない。飛び降りて、翔子達から十メートルほど距離が離れた辺りで、彼に変異が起きた。正確には彼の周りの空間がであるが。

 鷹丸の身体から半径数メートル空間に、円形の薄い靄が発生した。その靄は、鷹丸が飛び降りから着陸の、ほんの僅かな時間に、急速に拡大していく。

 ただ大きくなっていくだけでなく、靄の形が、円形から何らかの動物の形を作るようになった。それは大きな尻尾の生えた、トカゲのシルエットのような姿。鷹丸はそのトカゲ型の靄の、胴体の中心部分にいる。

 そしてその靄に、色がつき始めた。いや、ただ着色しただけではなく、それは気体のような状態から、確かな形をした物質へと変質していく。それによって鷹丸の姿は、それの内部に隠れて完全に見えなくなった。

 ズン!


 これまでにない大きな足音が鳴り、大地を振るわせる。着陸地点の木々を無惨に踏みつぶし、姿を現したそれは、何とガルゴであった。

 この世界に来た鷹丸は、眠りについてからではなく、自身の意思でこの怪獣の姿になることが出来るようになっていた。


 鷹丸は次元の門を潜った後も、他の天者=緑人達と違って、その姿に変異はなかった。角・葉っぱ・尻尾などは生えず、肌の色も変わらない。三人種のどちらにも属さない、見た目は普通の人間と同じであった。

 身体能力は大幅に上がったが、それは鬼人よりも少し劣る。龍人のような強力な魔力もなく、葉人のように植物を操れるわけでもない。

 その代わりに、このガルゴへの変身という、圧倒的な力を身につけたのだ。この世界で自在に変身できる能力を得た鷹丸。

 その力は、前の世界で一回死んで弱体化状態であるにもかかわらず、以前よりも力が上がっていた。矛盾する言い方だが、ようするにガルゴの基礎スペックが上がったということで、弱体化から回復すれば、以前や今よりも、遥かに強い力を発揮するということだ。



「何だ今の音!? まさか石眼の馬鹿でかいのが・・・・・・」

「違う! ガルゴだ!」


 激戦を繰り広げていた拓也と石眼達だが、突然の轟音と、感じ取れる巨大な気配に、一瞬攻撃の手が止まった。

 それは石眼達も同じで、何事かと背後の森を見る。ズンズンと馬鹿でかい足音と、バキバキと木々が折れる音が聞こえ、それがこの場まで近づくと、彼らの視界に映ったのは、あのガルゴという大怪獣だった。

 その巨大な影が戦場を覆い、その辺りを少し暗くする。


「何だよ!? こんな時にこいつが!? それとも石眼の仲間か!?」


 拓也がそう言葉を発した直後に、ガルゴは彼の言葉とは正反対の行動を起こした。


 グチャッ!


 肉が潰れる嫌な音が聞こえる。ガルゴの丸太よりも太くて巨大な足が、石眼達を踏みつぶしたのだ。

 十匹以上の石眼達が、彼が乗っかっている地面の死骸もろとも、その巨大な足の裏の下敷きになったのだ。


「「ジャアアアアアアアッ!」」


 拓也達よりも、このガルゴの方が、優先して排除すべきと判断したようだ。石眼達の群れが、一斉にガルゴの足下に襲いかかる。

 その後行われた、ガルゴと石眼達の戦闘は、一方的な殲滅戦であった。


 石眼達はガルゴの足や尻尾に噛みついたり、身体にしがみついて上の身体に昇ろうとしたが、全くの無駄であった。堅くて分厚い鱗には、彼らの牙は全く通らない。その巨体にしがみついた者達も、ガルゴが少し身体を震わせると、簡単に振り払われてしまう。

 人間が蟻の群れを相手するように、石眼達は為す術もなく、ガルゴの足や尻尾の餌食になっていく。ガルゴは傍らから見ると、踊っているような動きで、大地にいる石眼達を殺していく。


 元々広場にいる者だけでなく、後から駆けつけてきた石眼達も、恐れなくガルゴに立ち向かうが、為す術もなく殺されていった。

 連続して地面を叩いたせいで、大地は揺れまくり、その場にいるの物は立っていることすら難しいほどに、身体の平衡感覚が狂わされる。


「おいおい! あの洞窟大丈夫か!?」

「錬成術で壁も天井も強化してるって言うから大丈夫だろ!? てか、そうでないと困る!」


 この状況に、戦いの勝敗とは別の件での不安に駆られる拓也達。ガルゴの踏みつけ攻撃は鳴り止まない。おかげで近辺の森は、彼の足と尻尾の犠牲となって壊滅状態だ。

 酷い揺れのせいで、離れた所にある森にも、倒木するものがあった。


 やがてガルゴの踏みつけ攻撃が止んだ。この一帯に近づいてきていた石眼が、全てガルゴの餌食となったのだ。

 一帯のかつて森であった場所には、粉々になった木々と、ミンチになった石眼達の死骸が混ざり合い、即座にモザイクをかけたくなるような、血生臭い光景が広がっていた。

 当然ガルゴの尻尾と足も、血で真っ赤に塗れている。この戦いでガルゴに殺された石眼達は、恐らく二千匹以上になるだろう。もしガルゴが来なかったら、拓也達は数に押されて、負けてしまっていた可能性が高い。


 この後どうすべきか? やはりこの怪獣と戦わなければいけないのか? と重い表情でガルゴの巨体を見上げる三人。石眼は全滅しても、武器を構えての臨戦態勢は解かない。

 それにガルゴも振り返り、高い背丈から彼らを見下ろす。


『ようゲーマー三人組。久しぶりだな』

「「「!」」」


 見上げるガルゴの頭部から、下にいる三人に向けて、何者かの声が発せられた。一体何者声か? ガルゴの周辺には、彼ら以外に誰もいない。


「まさか、お前が喋ったのか!?」

『・・・・・・まあな。まあ・・・・・・何というか・・・・・・この前会ったときは・・・・・・』


 やはりガルゴ自身が喋ったらしい。何かすまなそうな口調で、拓也達に話しかける。

 その時、その場に空から第三者が舞い降りた。それは彼も知っている、召喚時から翔子と共にいたあの大鷹だ。


「タカ丸!? 翔子か!?」


 タカ丸が石眼の死骸で埋め尽くされた地面に着陸し、騎乗していた翔子が降りてきて、三人に駆け寄る。


「大丈夫、ガルゴは味方だよ! 何か前に色々あったみたいだけど、私が説明するから、今は武器を収めて!」

「あっ、ああ・・・・・・」


 事態が未だに呑み込めずにいるが、とりあえず翔子の言うままに武器を収める三人。あまりにあっさりと、因縁の相手への警戒を解く。ガ

 ルゴから発せられた、子供のような声質の言葉に、若干毒気が抜かれたのかも知れない。


『じゃあ、俺も元の姿に戻るぜ。よく見てろ・・・・・・』


 以前翔子が見たときと同じように、ガルゴの身体が透けてどんどん消えていく。あっというまにその巨体が消えると同時に、かつてガルゴの右足が地面をついていた地点に、変身を解いた鷹丸が立っていた。

 手を上げて、拓也達に「よおっ」と軽く挨拶する。この光栄に三人は目を見開き、大口を開けて唖然とした。


「お前は・・・・・・・・・・・・・・・誰だ?」


 ガルゴが人間の姿になったのに驚愕したが、四年前から会っていないクラスメイトの顔は、誰も覚えていなかった様子。


「ええと・・・・・・その人も天者なのかしら?」


 不意にその場から、第三者の声が聞こえてくる。声がした先は、拓也達が必死に守っていた、あの洞穴であった。そ

 の洞穴の入り口に、紫の長髪で、黒と緑の網目文の和服を着た若い女性が、こちら窺うような視線でこちらに目を向けていた。

 後からこの女性だけでなく、何人ものバラバラな年代・性別の人間達が、洞窟の中から出てきて、目の前の石眼達の死骸を怯えながら見ている。


「この人達を守ってたの?」

「ああ、まだ中に二千人ぐらいいる」


 真の問いに、翔子は少し驚く。あの洞窟の内部は、二千人も入るぐらい広かったらしい。


「この辺りの村々の生き残りだ。後は皆石にされちまったよ・・・・・・」

「そう・・・・・・判ったけど、やっぱり赤森王国だけじゃなかったんだ・・・・・・」

「ああ・・・・・・それであのガルゴに化けてた奴は何もんだ? 味方でいいんだよな?」

「うん。その話は長くなるんだけど・・・・・・ていうかあんた達こそ、今まで何やってたのか、聞きたい所なんだけど? あんたらがいなくなって、向こうじゃ結構騒ぎになったんだよ? 阿部さんの占いでも、何故か見つからなかったし」


 翔子の問いに、拓也は一瞬言葉に詰まった。そして苦々しい顔を向けながら、先程最初に

顔を出した女性に目を向けた。


「あのクソアマに今まで捕まってたんだよ! 俺らを変な実験に使いやがって」

「どうだよな~~~何か色々させられたよな~~~たまに逆レ・・・・・・」

「とにかく、好きで連絡しなかったわけじゃねえ! そんなに騒ぎになったっていうなら、それはそれですまなかったが・・・・・・」


 途中で武の言葉を遮るようにして、拓也がそう強引に話しを片付けさせた。



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