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第二十七話 再会と麒麟

「鷹丸!」


 この時の翔子の反応は、どう表現すればいいのか。とにかく嬉しさともどかしさと、何故こうなってしまったのかという迷いがない交ぜになりながら、翔子は飛びついて、鷹丸に抱きついた。


「うおっ!?」


 これに鷹丸は、驚きながらも満更でない様子で、彼女を抱き留める。そして胸の中で、薄く涙を浮かべながら、胸に顔を埋める翔子を見て、鷹丸は次にどのような行動をすればいいのか思い悩んだ。


(まいったな、この後なんて言えばいいんだろ? まさかこんな感動的ぽい場面で、あんたの名前なんだっけ?なんて言えねえよ・・・・・・。ああ、くそっ! 昔のクラスメイトには間違いないのに、どうしてこいつのこと覚えてないんだ!? 自分の物覚えのなさを、今になって恨むぜ!)


 名前も知らない少女に惹かれて、その少女の危機と聞いて、あの召喚の精霊の言葉を呑んで、この世界にやってきた鷹丸。

 だが今になって、失念していた一番の問題に直面していた。


 ビビビビビビ?ッ!


 鷹丸が個人的な危機に直面しているとき、その場で横やりを入れる音が発せられた。音源は翔子の服の中。彼女の持っている通信機が鳴る音。

 その音に、翔子は我に返り、少し恥ずかしそうな顔で、鷹丸の身体から離れる。そして慌てて、服の中から通信機を取りだして、応対した。


『翔子! 石化の治療に関して、やっと有用な情報が見つかったぞ!』

「達紀、こっちもすごいことになったよ! 鷹丸がこっちの世界に来たの! いつもの魂だけじゃなくて、生身で!」

『何だと!?』


 互いに重大な情報を口にする、翔子と。翔子よりも、通信機の向こうの清水教諭の驚きの方が大きいようだが。

 達紀だけでなく、鷹丸の方も驚愕していた。思わず大口を開け、目を点にして絶句している。彼が驚いたのは、石化の治療法のことではない。

 世界の狭間を渡った影響なのか、彼もまた常人以上の身体能力と感覚能力を、怪獣の姿にならなくても得られるようになっていた。そしてその高まった聴覚で、通信機から発せられた、達紀の口にした人名に驚いた。


(ええっ!? こいつ翔子なのか!?)


 鷹丸が固まっている間に、二人の話は進んでいく。どうやら一緒に、一旦拠点に戻ると言うことで、話しは固まったようだ。通信機を切って、翔子は再び鷹丸に向き直る。


「ごめん鷹丸。いきなりあんなことしちゃって・・・・・・。何から先に言えばいいんだろ? 私達、こっちの世界に来てから色々あって・・・・・・」

「ああ、あのオレンジボールから、大まかなことは聞いたよ。久しぶりだな翔子。あの時いきなりいなくなって、お前のことずっと心配してたぞ。無事で良かったぜ。そして大丈夫だ。これからは俺がお前のことを守ってやる」

「鷹丸・・・・・・」


 鷹丸の優しい言葉に、再び涙を浮かべる翔子。再び抱き合う二人。だがすぐに近くに憲兵達が近づいてくる音が聞こえてくる。


「天者様~~~! そこに何かあるのですか!?」


 複数の足音と共に、そんな声が聞こえてくる。どうやら憲兵達には、鷹丸の姿は見えていなかったらしい。

 ガルゴが消えた地点に向かったまま、戻ってこない翔子を心配したようだ。


「「やばっ!」」


 これに気づいた瞬間に、発せられた二人の言葉が見事に重なる。抱き合っていた二人は瞬時に離れて、森の奥へと走り込んだ。

 上空にいたタカ丸も、彼らの後を追って、森の中で合流する。そして逃げるように、二人は空へと舞い上がっていった。

 この間に、二人は一切言葉を交わさなかった。別に互いに説明せずとも、今ここにいることはやばいと、両者ともに理解していた。鷹丸は以前、ガルゴの姿で、この街を破壊したことがあるだけに。


 鷹丸と翔子は、タカ丸の背に二人乗りして、空をかけながら拠点へと向かっていた。


「鷹丸さっき“オレンジボール”とか言ってたけど、もしかして召喚の精霊に会ったの?」

「ああ、俺の所に来て、この世界を助ける手伝いをしろとか言ってな。翔子達も今危ないとかも言ってたし」

「そう・・・・・・ごめんなさい。私達のために・・・・・・」


 自分を助けるために、あちらの世界を捨ててきたのかと思い、鷹丸に謝罪する。だが鷹丸の反応は、翔子が思っていたのとは違った。


「その辺は誤らなくていいぜ。向こうの世界もやばいことになってて、正直こっちの世界に来れて良かった感じだし」

「えっ?」


 鷹丸は向こうの世界で自分が体験したことと、ニュースから判る範囲での、世界の情勢を口にする。それを聞いて、翔子が驚愕に染まっていった。


「そんな・・・・・・私達の世界にあれが来るのは、もっと先だと思ってたのに!?」

「だが実際に来ちまったからな・・・・・・もしかしたらもう世界中全滅したかも。正直こっちの世界に来なかったら、俺はあの世界で一生孤独だったかもな。そういう意味でも、こっちの世界に来れて良かったよ・・・・・・」

「それで精霊は今どこに? あいつ、私に話をした後、いつの間にかいなくなったんだけど」

「それは俺も知らねえ。こっちの世界の門を通ったら、もうあいつはいなかったし」


 これに翔子は、重大人物を逃がしたと、やや悔しそうな様子だ。だが鷹丸の話しを聞く限りでは、今元の世界に戻ってもどうしようもない。結局の所、石眼達の殲滅と、石化の治療法を模索するしかないのだ。

 一応石化された人々の生死は不明だが、以前よりは心配の度合いが下がっていた。以前王都で戦ったとき、あの大石眼に踏みつぶされた石像は、全て無事だった。あの石像はかなり頑丈だったようで、彼らには目立った傷がついていない。

 これならば、知らない間に壊されて、助けられなくなるということを危惧する必要はないだろう。


 やがて二人を乗せたタカ丸は、標高の高い高原へと空を上がり、やがて翔子達の拠点へと辿り着いた。


「こんな山の中で変わったところだな。妙に丸い湖の隣にリゾートホテルか?」

「違うよ。あの湖は、前に鷹丸が壊したお城の跡だよ・・・・・・」


 拠点である建物の前に着陸し、二人で中に入る。建物の一階の通路を歩き、やがて中央の大きな部屋へと辿り着いた。

 そこは学校の教室のような場所だった。長方形の図面の部屋に、いくつもの椅子と机が並び、奥に教壇のような大きな机がある。壁や床は、通路と同じコンクリート製である。

 その部屋の、右側にある机の二つに、それぞれ誰かが座っていた。


「おかえり翔子! それと鷹丸久しぶりだな!」

「どうも。あんまり覚えてないけど、とりあえず妹尾君、久しぶりね」


 三浦 達紀と阿部 葉子であった。五十以上の机があるこの広い部屋で、鷹丸と翔子を待っていたのは、この二人だけであった。


「おう。俺もあまり覚えてないけど、久しぶりだな」

「二人だけ? 他の皆はまだ来てないんだね?」

「ええ、やっぱり他所の街の護衛が大変みたいね。案外もうやられてたりして・・・・・・」

「不吉な事言うなよ・・・・・・でも剣崎君と若松さんがいなかったのは、ちょっと良かったかも」


 以前鷹丸に殺されたことのある、あの二人が鷹丸と会うと、変に話しがこじれる恐れがある。そういう意味では、今の切羽詰まった状況は、逆に幸いだったと言える。

 翔子と鷹丸は、その辺の机に適当に選んで座る。この会議室では、特に席は指定されていないので、誰がどこに座っても問題ない。


「それでさっき言ってた、石化病の新情報ってのは?」

「それは私が説明するわね。見つけたの私だし」


 焦った口調の翔子と違い、葉子が相変わらずのんびりした口調で話し始めた。彼女の片手には、やや古ぼけた一冊の、辞典のように分厚い本が握られている。


「私がこれを見つけた最初のきっかけは占いね。物は試しにやってみたのよ。石化病の手がかりはないかって。こんな大雑把な情報じゃ、まず無理だと思ったら、意外なことに反応を感じたわ。場所は王都の岩樹よ」

「岩樹? ああそうか・・・・・・」


 以前あそこは、石眼達の存在を恐れて、誰も近づかなかった場所だ。だがあそこにいた敵は、鷹丸が倒したため、今は以前よりも危険度が薄れている。


「岩樹の図書館を探ったら、以外と簡単に見つかったわ。やっぱり一番多くの情報があったのはあそこね。岩樹が早くから落ちたせいで、情報集めが遅れたのかも」

「それでどういう情報があったの?」

「具体的な治療法が書かれていたわけじゃなかったわ。二百年以上前に、石眼の被害にあった人達は、一匹の麒麟(きりん)に救われたんだとか?」

「「キリン?」」


 翔子と鷹丸が、真っ先に思い浮かべたのは、日本では動物園など見られる、アフリカの首の長い偶蹄類であった。だが葉子と達紀が、即座に首を縦に振る。


「その麒麟じゃないわよ。中国の幻獣の麒麟よ。こっちの世界じゃ幻獣じゃないみたいだけれど」


 この世界では、向こうの世界では架空の動物とされていた竜が実在する。だから幻獣の麒麟がいても、別に不思議ではないだろう。


「何でも“ヤキソバ”ていう名前の麒麟が現れて、石化した人達を、魔法で治したそうよ」

「何だ、その旨そうな変な名前は?」

「あっ、それ俺も思った!」


 その気の抜けた名前に、その場の全員が呆れた様子だ。


「そいつは石化病を治しただけでなくて、世界中の石眼を一匹残らず根絶したそうよ。まあ、今こうして出てきてるって事は、取り逃がしがどこかにいたんでしょうけど・・・・・・」

「もしかして重要な情報って、その伝承?」

「伝承じゃないわよ。これは実際にあったことって、記録に残ってるみたいよ」


 葉子は持っていた本を机の上に置き、その本のあるページを開いて、皆に見せる。

 そこには色々と難しい文章とともに、大昔に撮られたらしい、その麒麟の写真が掲載されていた。そこには鹿のような体型・竜のような頭・全身に魚類のような鱗が生えた、奇抜な姿のモンスターの写真があった。


「これが麒麟なんだ。うん、昔漫画で読んだのと似てるかも」


 翔子はあっちの世界に最後にいたのは小学生の頃だったため、麒麟のことは漫画やゲームの敵キャラとしてしか知らない。

 その本をパラパラと見てみる。専門的な用語が多くあり、今ひとつ判らないが、何となくこの記録は本物のように感じる。


「てことはよ。石化病を治すには、この麒麟を探さなきゃいけねえってことか?」

「そうなるわね。まあこれだけでもすごい進展じゃない。だって石化した人達は、助けられるって判ったんだから。この本によると、治療されたのは、その人が石化してから数年後みたいだし」

「それでこの麒麟の居所に関する情報はないの?」

「ないわね。麒麟の伝承は他にもあるけど、ヤキソバとは無関係ぽいし。そもそもそいつ、今この世界にはいないかも」


 また新たな難題が投げかけられた気がした。だが少なくとも、石化した人達は治せる。こっちの世界も、向こうの世界も、救う手段がある。

 そしてその方法は、そう焦る必要はないと判り、少しだけ安堵の空気が流れたのだった。


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