第1章 問題のある相棒②
——というのが、昨日の出来事だ。
リンが魔法で応急的に橋を補強したものの、それは「今すぐ崩れはしない」という程度のもので、馬車の通行には不安が残るものだった。
本格的な修復には石工を呼ぶ必要があり、おそらく——数年がかりの工事になるだろう。
依頼主は魔物がいなくなったことには感謝していたが、半壊した橋を見る目は複雑だった。
報酬は受け取らなかった。
いや、受け取れるはずもなかった。
リンの橋桁の応急処置と報告が終わったのがもう真夜中の話で、レンスティアに帰り着いたのはもう明け方であった。そのまま宿屋で泥のように眠り、起きたのがついさっき。そしてこれが二人の今日の一食目ということである。
アルティは深いため息をついて、麦酒のジョッキに口をつけた。
冷たい液体が喉を通る。美味しいけど、美味しさで心の疲労は相殺されなかった。
「思ったんだけど、あれ、一撃でやる必要なかったよね?」
リンが匙を止めた。少し考えるように視線を上に向けてから、
「うーん、でも、こっちにくる分を一匹ずつ狙って落とすとなると、結構大変そうでしたよね。間に合わないかなって」
「だからって、せめて何分割かしたらよくない?」
「いやまあ、それは結果論と言いますか、丁寧にやってるとアルティさんが怪我しそうだなと」
「そのお気遣いはどうもありがとう嬉しいんだけど、まだ怪我した方がマシだったとも思うのよね?」
「命と健康には変えられませんよ、アルティさん。自分の体を軽視するのはよくありません」
「……なんでかな、すごく正論なのに、すごく納得いかない気がしてる」
アルティは木の机に突っ伏した。
これまでの依頼を思い返す。
もちろん、問題なく終わった依頼もいくつもあるのだが、街道の魔物を退治する依頼では森の一部を焼き尽くして、その火を消すために今度はそこら辺を水浸しにして、リンとアルティもずぶ濡れになった。山賊の住処を全壊させて盗品を発掘するのに半日かかったりもした。
セドリックの件で共闘した時には、リンの知識にも魔法にも助けられた。
杖なしで魔法を使うところも見たし、どう考えてもただの魔法使いではないのだ。
だからこそ、冒険者の仕事もうまくやってくれると思っていたのだが——
「大味なんだよね……」
大雑把というか、適当というか、加減を知らないと言うか、とにかく、「雑」なのである。
「ん? でも、探し物した時とか、めちゃくちゃ丁寧に魔法使ってなかった?」
「僕をなんだと思ってるんですか。丁寧に魔法を使うことだってありますよ」
「それをどうして常にできないの?」
「調節が難しいんじゃないですかねえ……」
「なんで他人事みたいに言ってるの?」
「あんまり考えたことがなかったんですよね。言われてみたら、戦闘魔法の制御が苦手なのかもしれないですね」
「魔法のことは詳しくないけど、あんな威力あげようとするから調節できないんだと思うのよ。威力をあげずにこう——ほどよく……なんかないの?」
「そうですねえ……」
「これまで、誰か指摘してくれる人はいなかったの……」
「いなかったですねえ。いやあ、アルティさんと組んでよかったです。自分の新たな一面を知りました」
リンの晴れやかな笑顔に、アルティは大きくため息をついた。
「——あのね、依頼料もらえなかったから、もう本当に今週赤字なんだよ、わかってる?」
「ええと、それは、はい……」
リンが目を泳がせた。
「あの橋、直すのにどのくらいかかるんだろ……」
「石橋ですからねえ……落ちないようにはしてきましたけど、数年かかるって言ってましたね」
「あの人、お金受け取ってくれなかったけど、今度お金手に入れたら、寄付しに行かなきゃ……」
「真面目ですね……」
アルティが無言でリンを睨みつけると、
「すみません……」
リンが、珍しく歯切れの悪い声を出した。
依頼はうまくいかないし、お金もなくても腹は減る。
アルティは鶏肉にフォークをさすと、口に放り込んだ。
まさかこんなことでエルディンを頼りたくはないし、ご飯を食べ終わったら次の依頼を探しに行こう。
そうだ、次のはもうちょっと簡単なもの——
「そうだよ、討伐とか、そういう依頼を受けなければいいんじゃない?」
「いいですね。なにか平和なやつを」
「近場への護衛——護衛もダメか、薬草詰みとか……安いのしかないかなあ……」
アルティは残った麦酒につけると、もう、ぬるくなっていた。




