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七賢者の涙  作者: 相川晴(HAL)
第一部
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第8章 また明日①


 その文書を広げた時、指先が震えたのを、セドリックは必死で隠そうとした。

 鑑定室の机の上に置かれた、古い紙の束。そこには王家の印章も押されている。「禁持出」とも書かれている。


 持ち込んだのは、テディ=エルクだった。


「どうだい、なんかの値打ちもんかね」


 テディは椅子の背にもたれて、興味なさげに天井を見上げている。この男はいつもそうだ。自分が持ち込んだものに、あまり関心がない。売れればいい、というのが故買屋の流儀なのだろう。


 セドリックは紙の束をめくる手を止められなかった。

 書かれていたのは、理論だった。精神体を使って肉体を再生する方法——自分が何年もかけて手探りで追いかけてきた、あの理論の、原型だ。

 古い言葉で、全てが理解できるわけではない。けれど、理屈が合う。自分が考えていたのと同じだ。

 けれど、術式の組み方が全然違う——

 断片的で、しかし、間違いなく、自分が求めていたものだった。

 喉が渇いた。心臓が耳の奥で鳴っている。

 だが、ここは鑑定所だ。壁の向こうには受付がいて、待合には客がいる。


「エルクさん、これはもしかすると、七賢者の書の一部かもしれません」


 セドリックの声が震えていた。嘘をつくのは、苦手だった。


「えっ」


 テディが素っ頓狂な声をあげかけ、そして慌てて自分の口を押さえた。


「それは——」


 二人は、狭い部屋の中で顔を近づけ、声を顰めた。


「はっきり言えません。もう少し調べないといけない。でも、もし協会が知ったら……」

「取り上げられちまうな」

「……困りますよね」

「ああ、困る。それは困る」

「では、これは『価値がなかった』ということにしておきましょうか。ただの、古い書物だったと」

「ああ、ああ」

「ただ、まだ断定はできないんです。ちょっと貸していただけませんか。その、なので、預かり証を書けないんですけど」

「ああ、いいよいいよ。お前が持ってるなら安心だ。なんかわかったらうちに持ってきてくれ。午後ならいるだろうから」


 テディはひらひらと手を振った。片腕しかないその手が、妙に軽やかだった。


「ありがとうございます」


 セドリックは頭を下げた。紙の束を鞄にしまう手が、まだ少し、震えていた。


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